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しおりを挟むノンケの男に本気になろうとしたなんて、頭がおかしくなっていたんじゃないのか...?
俺には、色んな人間と関係を持つ方が向いていた。
そんなこと、ハナから分かっていたことだったんだ。
俺のことだけを考えて、優しくしてくれる黒田にまんまとハマって...自分に呆れてしまう。
いや、...俺のことだけ、ではなかった。
この男はこういう対象全てに優しく接するんだ。
散々その気にさせておいて、その人の感情を弄んで最後には俺も...。
「くそ...」
いずれ別れを告げられるくらいなら、こっちから先に振ってやる。
「きなこ、あずき...俺、帰るね」
「ニャー」
「ニャー」
心做しか、2匹の顔が寂しそうに見える。
涙をグッと拭い、平然を装ったままリビングに戻ればスマホや鞄を手に取った。
「鏡夜、髪の毛乾かそうか」
俺の頬を撫でる黒田の手を叩き、背を向ける。
「...俺、用事を思い出したから」
面白半分で優しくしないで欲しい。
その綺麗な手で触らないで欲しい、笑顔なんか見せないで欲しい。
あんたとの思い出が溢れて、辛くなる。
「...俺の服は」
「シャワー浴びてる時に洗濯しちゃったよ。今日はオレの服で我慢してくれる?」
「...」
擦り寄るきなことあずき、窓辺でタバコを吸う光悦に別れを告げて引き摺るように、玄関まで足を運んだ。
見送るべく後ろを着いてくる黒田は、一体何を考えているのだろう。
「鏡夜」
まだ俺のことを騙せてると思ってんのかな... 。
ムカつく。
「ねえ、鏡夜」
ふざけんなよ...、こっちが遊ばれるなんて死んでもごめんだ。
素早く靴を履き彼の顔を見ないままドアノブに手を掛ければ、男らしい腕が俺の身体を咄嗟に抱き寄せる。
「...オレ、なんか怒らせるようなことしたかな」
「あ...?」
こいつ、狂ってんのか...?
さっきの会話を聞いてないと思って、まだ俺のことを...
「触んなっ...!」
彼の身体を精一杯強く押し返し、捻り出すかの如く、か細い声を喉から発した。
「もう...恋人、やめる」
「鏡夜...!?ちょっと待っ...、っ!」
しつこく追い掛けて来ようとする黒田の脛を蹴り、痛みに怯んだ隙に逃げ出した。
車に乗り込み家まで走らせる最中、あまりにもいい気味すぎて笑いが溢れる。
「くくっ...、予想外って顔、クソ笑えんじゃねぇか。何が興醒めだよ、何が参るだよ...あんな必死に縋ってきやがって」
目頭が熱くなり、視界が歪む。
「あー、本気になる前でよかった」
信号待ちの間、震える指先で彼の連絡先をブロックし、大きな溜め息を吐いた。
「っ、ぐす...」
連絡先を完全に削除出来ない甘さや、あの男と過した日々が走馬灯のように脳内へ流れ込んでは、彼へ抱いた感情がどれだけ大きかったかを改めて思い知らされるのであった。
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