秘めやかな色欲

おもち

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「おはよ」

朝の光に照らされた男は綺麗に笑いながら、目覚めたばかりの俺の髪に触れる。

「...はよ」

そう言えば、昨日こいつと...シたんだっけ...。

重い頭を右手で支えながら起き上がり、大きな欠伸をした。

「よく寝た...」


...あれ?よく眠れたのか、俺は。
神経質で寝付きの悪いこの俺が、他人と朝までぐっすり?

本来なら、少しの振動や音で起きるはずなのに、俺よりも先に黒田が起きていたことに驚いた。
黒田がベッドを抜け出す時に、俺が起きてもおかしくなかったはず...。

よっぽど疲れてたのか、眠たかったのか珍しいこともあるもんだ、とその時は特に深く考えなかった。

「朝ごはん食べる?」

「ん」

「歯ブラシ出しておいたから、歯磨きと洗顔しておいで」

「ん」

言われた通り歯磨きと洗顔を済ませてリビングに戻れば、テーブルの上にはサラダが添えられたホットサンドとスープが用意されていた。

「......モテるだろ」

「困るくらいね」

「うぜ...」

ダイニングチェアに腰掛けた俺の顔を見て、にこりと笑った黒田に目を奪われる。

確かにこれはモテるわ。

両手を合わせ一緒に朝食を摂っている光景があまりにも意味不明すぎて、改めてどうしてこんな状況になっているのかを問いたい。

しかも、普通に美味いのがまたムカつく。

「鏡夜」

「もう名前で呼ぶの禁止」

「碓氷先生の眼鏡は伊達なんだ」

「ああ...視力はいい」

「眼鏡姿もミステリアスだけど、無いのもいいね」

「...?何が」

頬を撫でたり髪を触ったり、ただ単に俺の身体が目当てだと思っていたけど...、そう言うことでも無いのだろうか。

「眼鏡がないと綺麗な顔がより良く見える」

「...見んなよ、ただでさえ顔出すの恥ずかしいんだから。...今だってあんたにマジマジと見られるの、居心地悪いし...」

「じゃあもっと見よう」

「やめろ」

白湯を飲みながら笑う彼に釣られ、多少口角が緩むのを感じれば、慌てて掌で口を抑えた。

「...俺なんかに構ってていいのか。こんな広い家に1人で住んでる訳じゃないだろ?彼女は?」

「確かに一人暮らしではないけど。彼女がいたら君とセックスしないよ、現在募集中」

実家...?な、わけないか。

「あんたならすぐに出来るだろ」

あはは、と軽快に笑う黒田がテーブルの上に置かれた煙草を手に取る。

「誰でもいいならすぐに出来るよ。誰でもよくないから出来ない」

「理想、高そうだもんな」

「あー、そうなのかなぁ...。どちらかと言えば追い掛けたい側だから、向こうからグイグイ来られると恋愛対象から外れちゃうんだよね」

それなら職場の女教員はほぼ全滅であろう。
毎度黒田の隣をキープするのに必死な姿を思い浮かべれば滑稽過ぎて笑えた。

「気高くて綺麗めで、彼氏募集中の子が居たら結婚を前提に付き合って欲しいと思ってるんだけど」

「?...なに、気高いって」
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