彼が見詰めているのは……

雫喰 B

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1ー ②【改稿版】

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 そして学園の雰囲気や友人達との付き合いにも慣れたある日の事、前日に両親から
「婚約者候補になりそうな令息は居たのか?」
とか、
「いいなと思うような令息の一人や二人は居たの?」
などと質問攻めに遭い、
「居ない。」
と答えると絶句された上、
「いや、まあ……焦ってハズレを掴んでも困るから慎重な方が良いよな。あははは……。」
「そ、そうよ、こういう事は焦っても仕方ないし。」
と、変に慰められる事に……。


 その上、休日にサロンでお茶を飲んでいた両親の会話を耳にしたのだが、
「今日招かれたお茶会で、うちと同じように婿入りしてくれる婚約者を探している家には何通も釣書が届いたって聞いて…なのに家には一通も……。あの子大丈夫かしら。何だか心配で……。」
「うーん、こればっかりは焦ってもどうしようもないが……。やっぱり学園でも影が薄いんだろうなぁ。」
「貴方もそう思うわよね。このまま婚約者ができないまま卒業なんて事になったら、更に結婚が遠離るんじゃないかと思うと気が気じゃないわ。」

 離れて見ていてもわかるぐらい大きな溜息を吐く両親の姿に、思わずその場から立ち去ってしまうほどのショックを受けた。

 学園では以前ほど影が薄くはなくなった(と自分では思っている)が、代わりに埋没してしまっている感は否めない。

 未だ婚約者が決まらない私は、両親に心配を掛けてしまっている自覚もあり心苦しくはあった。

 明らかに家同士の利益のもと政略結婚する為に結ばれる婚約なら話は早かったのだろう。

 けれど、これと言った旨味など無い我が家は政略結婚とは無縁と言っても過言ではなく、かといって恋愛結婚なんて存在感の薄い積極性の無い私にはハードルが高過ぎた。(いやマジで。)


 だから、翌日ランチを食べながら友人達との会話を楽しんでいた時、ライラが恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに婚約が決まったと私達に報告してくれたのだが、

 「おめでとう!」と言った後は、友人達が婚約者の事を聞いたり馴れ初めを聞いたり冷やかしたりしているのを横で笑みを浮かべながら見ているのが精一杯で、おまけにサロンでの両親の会話を思い出した私がポツリと「婚約者かぁ……。」と口にしてしまった。

 いつもなら誰も気にも留めない私の呟きなのだがこの時ばかりは違った。(何故?)

「え!?何何?婚約者ができたの!?」
「誰?誰なの?」

 口を突いて出てしまった言葉に、ライラを冷やかしていた友人達が一斉に私の方に顔を向け色めき立った。

「え?あ、ち、違うのよ!まだよまだ!婚約の“こ”の字も無いから!」
「何だ違うの?遂にラフィアにも婚約者ができたのかと思っちゃったわよ。ねぇ。」

 必死で違うと言う私を見て、隣に居たロザリーが周囲に同意を求めるように言う。

 何となく申し訳なくて、

「いや…あの…、ごめんなさい。また両親から早く婚約者を見つけろって…言われただけで…。」

 尻すぼみに言いつつ勘違いさせて悪かったかと謝り、溜息交じりに親からのプレッシャーに対してぼやくと、まだ婚約が決まっていない友人も同じように思っていたようで、

「やっぱり?私も親が五月蠅くって。」
「嫌よねー。」

 などと話していたら、鈍い私でもわかるような視線を感じた。
 



 実は二週間ほど前から感じる視線に何処からだろうかと、それそれとなく視線が来ていると思われる方を辿るように見た。

 すると此方を見ている一人の男子生徒と目が合った(?)と同時に目を逸らされたので確証は無い。

『気の所為……?』

 だからその時は気の所為だと思ったのだけれど、それから以降も何度か同じような事があった。

 しかもそれはただ見ているというよりも此方を睨んでいるようだった。

『やだ、ひょっとして睨まれている?でも何で?』

 そう思って以降は、怖くてその男子生徒の事を極力見ないようにした。

 だって、絡まれたりしたら怖いもの。
 

 とはいえ、何も思い当たる節の無い私は、私を見ているのではなく他の誰かを見ているのかもしれないと思う事にした。


~~~~~~~~~

*いつもお付き合い(お読み)いただきありがとうございます!
*お気に入り、しおり、エールやいいね等もありがとうございます!

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