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9. 彷徨う
しおりを挟む朝から王宮前広場は、物凄い人だかりだった。国王と王妃、それと王子の首が晒されていたからだ。
「ヒース…」
人混みに紛れ、フードを目深に被って俺はそれを見ていた。父と母、そして親友ともの首を…。
あの日、近衛騎士団の一人の隊長から騎士団長に具申があったらしい。
『レーベンドルフ側に不穏な動き有り。』
そして、それは王子であった俺は勿論、国王や王妃、宰相達に近衛騎士の各隊長達にも伝達された。
だが、それも敵の計算の内の一つだったのだ。まさか既に、身内に裏切り者がいたなど…。
いや、両親も俺も甘かっただけなのだ。宰相は最後まで“レーベンドルフ国王の首”を和平の条件に入れるように進言していた。
なのに、父も俺もレーベンドルフ王国の第一王子と妹ツュプレッセの婚姻が条件に入っている事で、レーベンドルフ国王の首まで取らずとも良いとそれを退けた。
その結果がこれだ。
あの日、敵の動きに気付いた時には、既に城内に多数の敵兵が入り込んでいた。
我が国の衛兵のフリをしていた彼らは、深夜になって牙を剥いた。城内の彼方此方に火を放ち、それを皮切りに城外からも攻めて来た。
我が国の衛兵に成り済ましていた敵兵に城門を開けられ、そこからはあっという間だった。近衛が奮闘するも数で押され、脱出を余儀なくされた。
両親の部屋には宰相が、そして俺の部屋には俺の従弟で親友であり、側近でもあった彼の息子のヒースが…。
俺ともう一人の側近、フェルトが待機していた自室に彼が駆け込んで来て言った。
叔父と一部の貴族が裏切ったと。城外へと続いている抜け道も敵に知られている可能性がある事を…。
そして彼は言ったのだ。
「運動神経が悪く、武術が不得手な自分では足手纏いになります。幸い殿下と背格好が似ている上に、髪と瞳の色も似ている自分が身代わりになるので、絶対に逃げ切って下さい!」
俺は最後まで反対した。抜け道がバレていない可能性もあるから認められないと言って脱出した。
しかし、抜け道を出て逃げていたが、追っ手に追い付かれそうになった時、彼は囮になり俺をフェルトに託して捕まった。
そして今、目の前にその首を晒している。
「殿下、今は堪えて下さい。アイツの思いを無駄にしないで下さい。」
フェルトにそう言われ、怒りに頭の血が沸騰しそうだった俺は、何とかそれを抑え込み、広場を後にしようとしたその時、何人かの兵士が晒され続ける首の奪還を試みたが、あっさり切り捨てられ、その身体を滅多刺しにされた。
力の無いこの身が腹立たしかった。自国民の一人すら救う事の出来ない自分に、歯噛みし、臍を噛んだ。
俺は必ず力を手に入れ、奪われた物を絶対に取り戻してみせると心に誓った。
広場を離れた後、潜伏先で妹ツュプレッセが捕らわれ、敵のヴァルター国王に夜伽を命じられたと報告を受けた。
当然、生き残った者達を炙り出す為に、態と流された情報だと分かってはいたが、今の俺には妹を救い出す力すら無かった。
助けが来ても来なくても、彼女が憎きエーリッヒに汚される事に変わりはないと分かっていても…。
俺は、今出来る事、仲間と情報を集め、力を付けなければならない。全てはそれからだ。
「ヴァルターよ、精々、勝利の美酒に酔っておくがいい。俺が必ず地獄の底に叩き落としてやる!」
*************************************
小屋を出たのはいいけれど、鬱蒼と繁った木々の中、獣道とも呼べない、道なのかすら分からない道を延々と歩いている。
「姫様、本当に道は合っているのですか?何だかさっきから同じ所をグルグル回っているだけのような気がするのですが…?」
「 … 」
やっぱりそうなのかな?ちょっと…いや、少し…いやいや、かなりマズい…?ひょっとしたらヤバい…かも?
「ちょっと、休憩しましょうか。」
不安げな顔をしているエレナに言うと、近くにあった大きな岩に腰掛けた。
すると彼女も隣に腰掛ける。
「「 はあぁぁぁ。」」
大きな溜め息を吐いたら、ハモってしまった。二人、顔を見合わせて思わず苦笑する。
この時の私達は知らなかった。私達が小屋を出た後、ラルフ達が小屋を見つけた事を。
はっきり道と分かる所を通って、追っ手と出会す訳にはいかなかった為、獣道のような所を通って近くの村だか集落だかに辿り着けないものかと歩いて来たのに…。
川を見つけ、下流に向かって歩いて、山から出られる筈なのに、未だ山の中にいる。…何故だ。
二人共に、体力だけ消耗している。エレナが言う様に同じ所をグルグル回っているだけかもしれない。
この先、そのまま歩き続けて山から出られるのかしら?
方向音痴では無かったと思うし、確かに下流に向かって歩いている筈なのに…。
山の中で途方に暮れてしまった。
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