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66. 昔語り ③
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*今話の終わり辺りにキスシーンがあります。苦手な方は全力で回避して下さい。読まれる方は自己責任でお願いいたします。
*今話中にある情報操作に関する事も、創作でフィクションです。
~~~~~~~
それ以降も、ガートルードとの婚約破棄を目指して証拠集めを続けた。
エルネストはそんな俺に黙って付き合ってくれた。
礼を言うと
「忙しくしていた方が、何も考えなくて済むから…。」
ポツリと呟いたあの時の彼の顔を、俺は一生忘れる事など出来ないだろう。
そして月日は流れ、卒業まで4ヶ月を切った。
焦るが、決定的な証拠を掴めない。
今ある証拠だけでは、言い逃れされてしまえば婚約破棄どころか、解消すら難しい。
刻一刻と迫る結婚式。
精神的に追い詰められ出した俺を、エルネストは心配してくれた。
それとは逆に、俺を見る度、真っ赤な唇の端を吊り上げて嗤うユークリッド。
ひょっとしたら、俺が尾行している事に気づいているかもしれない。
もう…ダメだ…。
証拠集めの為の尾行も、暫くはやる気になれなくてしていない。
投げ遣りになっていった。
そんなある日、エルネストからの使いだと言って、彼の家の使用人が公爵邸に来た。
彼から渡されたメモに、殴り書きされたものを見て、大急ぎで指定された場所に向かった。
エルネストと合流した俺は、彼から聞いた話に衝撃を受けた。
貴族家の中に、悪い噂しか聞いた事がない子爵家の子息がいて、犯罪組織と繋がって悪事を働いているという。
そして俺がエルネストに呼び出された場所は、王都の下町の端っこにある、ごく普通の酒場だった。
だが、下調べの為に、エルネストが店に入ったところ、入り口は狭いが中は思ったよりも広く、地下室にはワインなどを置く部屋もあるらしい。
その店では、違法賭博が行われ、違法薬物の取り引きや売買が行われているという。
そこを運営しているのが犯罪組織で、子爵家子息は貴族家の子息や令嬢(カモ)を、賭場に連れて来たり、違法薬物を売ったりしていて、店の方も共同運営している。
そして、ガートルードはその子爵家子息の情婦で、裏のパートナーだった。
二人して、賭場にカモを連れて来たり、違法薬物を貴族に売り付け、子息や令嬢を娼館に売っていたり(人身売買)している。
アルベルトは、やっと婚約破棄できると、その日からエルネストと二人、証拠を集め出した。
だが、賭場で借金を作った親が、娘を売りに来たりするのを見て、警備隊に情報や証拠を送りつけようと、帳簿か何か確実に証拠になるものを持ち出そうとした事が裏目に出た。
証拠の帳簿を盗み出して、逃げようとしたところを見つかってしまったのだ。
街の端にある店から(紋章の入っていない黒塗りの)馬車で逃走した。
勿論、追手を撒きながら疾走する。だが、追手も中々しぶとい。
御者の腕の差か…。ヤバいかもしれない。
けど、ツイていた。追手の馬車が横道から飛び出して来た馬車と衝突したのだ。
ラッキーだと思った。
そして、他に追手がいなかった所為もあって、そのまま逃げ延びた。
エルネストと別れて邸に帰り着いた後、父親が王宮から帰って来てから、証拠の写しを揃えて渡した。
その上で、悪事に手を染めている女との結婚など嫌だと言って、ガートルードとの婚約を破棄するように両親に頼んだ。
だが、婚約破棄の手続きをするまでもなく、俺とガートルードの婚約も結婚も無くなった。
ガートルードが馬車の衝突事故で死亡したと、公爵家に連絡が来たのは深夜になってからだった。
母はショックで寝込み、父にはお前の所為ではないと言われた。ただ、彼女達の運が無かっただけの事。そうでなければ“天罰”が下ったのだろう。と…。
ガートルードが乗っていた馬車と衝突した馬車には、子爵家子息が乗っていたという。
俺達が乗っていた馬車を、挟み撃ちにするつもりが失敗して、衝突したのだろう。
~~~~~
「これが4年前の真実だ。」
話し終わってそう言って、フランの顔を見たら青ざめていた。無理もない…。
劇場で上演されていたような、甘い恋愛話など欠片もないのだから……。
「俺達が集めた証拠で、犯罪組織は一斉摘発された。だが、侯爵家令嬢と子爵家子息が関わっていた為、二人の事は伏せられ、単なる衝突事故として処理された。」
「…そんな……。」
「だが、それが真実だ。そして、二人の事から犯罪組織との繋がりに眼がいかないように、あの劇が作られ、上演された。情報操作の為に作られた劇だ。派手な話題で、知られたくない話を隠す。昔からよく使われる策だ。」
フランは額に片手を当てて、今聞いた情報を整理しているみたいだった。
「その時に、ガートルードを神聖視しているクラウディアにも、真実を告げるように侯爵には言ったのだが……ショックを受けるから彼女には話さないと言われた。」
そこまで言ったところで、フランが勢いよく顔を上げて俺を見た。
「まさか……。」
「そう、そのまさか。隣国アッティラの皇帝は腹黒いだけじゃなくて、悪知恵も働くらしくて、クラウディアがその事を知らないのをいい事に、今回の計画に彼女を組み込んだ。」
「 ……。」
アルベルトはフランの眼を正面から見詰めた。
「フラン…俺もクラウディアの気持ちを利用した。フリッツの密入国に彼女が関わっていると知って、情報や証拠を集める為に…近づいた。仕方無かったとはいえ、フランには辛くて悲しい思いをさせて…悪かった。すまない!」
「あ、その事だったら、別に何とも思って……。」
『しまった…。』
思わず片手で口を押さえたが、後の祭りだった。
「どういう…意味かな?」
『ニッコリ笑っているつもりかもしれないけど、眼が全然笑ってませんから!』
両肩をがっちり掴まれて、
「別に何とも…何かな?サラッと軽いノリで言ってくれるけど…。一度、思い知っとく?俺のフランへの気持ち。」
『あ、これ…ヤバいやつ…。』けど、逃げられない!
と、そのまま深く口づけられ、腕の中に…。抱き締められ、後頭部を手で押さえられ、更に濃厚なキスをされて、舌を絡められ、窒息寸前でやっと解放された。
唇は……
強く抱き締められたまま、頬擦りされてるんですけど━━━ッ!
~~~~~~~
*いつもお読み頂きありがとうございます!
*ブックマーク、お気に入り等も本当にありがとうございます!
*今話中にある情報操作に関する事も、創作でフィクションです。
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それ以降も、ガートルードとの婚約破棄を目指して証拠集めを続けた。
エルネストはそんな俺に黙って付き合ってくれた。
礼を言うと
「忙しくしていた方が、何も考えなくて済むから…。」
ポツリと呟いたあの時の彼の顔を、俺は一生忘れる事など出来ないだろう。
そして月日は流れ、卒業まで4ヶ月を切った。
焦るが、決定的な証拠を掴めない。
今ある証拠だけでは、言い逃れされてしまえば婚約破棄どころか、解消すら難しい。
刻一刻と迫る結婚式。
精神的に追い詰められ出した俺を、エルネストは心配してくれた。
それとは逆に、俺を見る度、真っ赤な唇の端を吊り上げて嗤うユークリッド。
ひょっとしたら、俺が尾行している事に気づいているかもしれない。
もう…ダメだ…。
証拠集めの為の尾行も、暫くはやる気になれなくてしていない。
投げ遣りになっていった。
そんなある日、エルネストからの使いだと言って、彼の家の使用人が公爵邸に来た。
彼から渡されたメモに、殴り書きされたものを見て、大急ぎで指定された場所に向かった。
エルネストと合流した俺は、彼から聞いた話に衝撃を受けた。
貴族家の中に、悪い噂しか聞いた事がない子爵家の子息がいて、犯罪組織と繋がって悪事を働いているという。
そして俺がエルネストに呼び出された場所は、王都の下町の端っこにある、ごく普通の酒場だった。
だが、下調べの為に、エルネストが店に入ったところ、入り口は狭いが中は思ったよりも広く、地下室にはワインなどを置く部屋もあるらしい。
その店では、違法賭博が行われ、違法薬物の取り引きや売買が行われているという。
そこを運営しているのが犯罪組織で、子爵家子息は貴族家の子息や令嬢(カモ)を、賭場に連れて来たり、違法薬物を売ったりしていて、店の方も共同運営している。
そして、ガートルードはその子爵家子息の情婦で、裏のパートナーだった。
二人して、賭場にカモを連れて来たり、違法薬物を貴族に売り付け、子息や令嬢を娼館に売っていたり(人身売買)している。
アルベルトは、やっと婚約破棄できると、その日からエルネストと二人、証拠を集め出した。
だが、賭場で借金を作った親が、娘を売りに来たりするのを見て、警備隊に情報や証拠を送りつけようと、帳簿か何か確実に証拠になるものを持ち出そうとした事が裏目に出た。
証拠の帳簿を盗み出して、逃げようとしたところを見つかってしまったのだ。
街の端にある店から(紋章の入っていない黒塗りの)馬車で逃走した。
勿論、追手を撒きながら疾走する。だが、追手も中々しぶとい。
御者の腕の差か…。ヤバいかもしれない。
けど、ツイていた。追手の馬車が横道から飛び出して来た馬車と衝突したのだ。
ラッキーだと思った。
そして、他に追手がいなかった所為もあって、そのまま逃げ延びた。
エルネストと別れて邸に帰り着いた後、父親が王宮から帰って来てから、証拠の写しを揃えて渡した。
その上で、悪事に手を染めている女との結婚など嫌だと言って、ガートルードとの婚約を破棄するように両親に頼んだ。
だが、婚約破棄の手続きをするまでもなく、俺とガートルードの婚約も結婚も無くなった。
ガートルードが馬車の衝突事故で死亡したと、公爵家に連絡が来たのは深夜になってからだった。
母はショックで寝込み、父にはお前の所為ではないと言われた。ただ、彼女達の運が無かっただけの事。そうでなければ“天罰”が下ったのだろう。と…。
ガートルードが乗っていた馬車と衝突した馬車には、子爵家子息が乗っていたという。
俺達が乗っていた馬車を、挟み撃ちにするつもりが失敗して、衝突したのだろう。
~~~~~
「これが4年前の真実だ。」
話し終わってそう言って、フランの顔を見たら青ざめていた。無理もない…。
劇場で上演されていたような、甘い恋愛話など欠片もないのだから……。
「俺達が集めた証拠で、犯罪組織は一斉摘発された。だが、侯爵家令嬢と子爵家子息が関わっていた為、二人の事は伏せられ、単なる衝突事故として処理された。」
「…そんな……。」
「だが、それが真実だ。そして、二人の事から犯罪組織との繋がりに眼がいかないように、あの劇が作られ、上演された。情報操作の為に作られた劇だ。派手な話題で、知られたくない話を隠す。昔からよく使われる策だ。」
フランは額に片手を当てて、今聞いた情報を整理しているみたいだった。
「その時に、ガートルードを神聖視しているクラウディアにも、真実を告げるように侯爵には言ったのだが……ショックを受けるから彼女には話さないと言われた。」
そこまで言ったところで、フランが勢いよく顔を上げて俺を見た。
「まさか……。」
「そう、そのまさか。隣国アッティラの皇帝は腹黒いだけじゃなくて、悪知恵も働くらしくて、クラウディアがその事を知らないのをいい事に、今回の計画に彼女を組み込んだ。」
「 ……。」
アルベルトはフランの眼を正面から見詰めた。
「フラン…俺もクラウディアの気持ちを利用した。フリッツの密入国に彼女が関わっていると知って、情報や証拠を集める為に…近づいた。仕方無かったとはいえ、フランには辛くて悲しい思いをさせて…悪かった。すまない!」
「あ、その事だったら、別に何とも思って……。」
『しまった…。』
思わず片手で口を押さえたが、後の祭りだった。
「どういう…意味かな?」
『ニッコリ笑っているつもりかもしれないけど、眼が全然笑ってませんから!』
両肩をがっちり掴まれて、
「別に何とも…何かな?サラッと軽いノリで言ってくれるけど…。一度、思い知っとく?俺のフランへの気持ち。」
『あ、これ…ヤバいやつ…。』けど、逃げられない!
と、そのまま深く口づけられ、腕の中に…。抱き締められ、後頭部を手で押さえられ、更に濃厚なキスをされて、舌を絡められ、窒息寸前でやっと解放された。
唇は……
強く抱き締められたまま、頬擦りされてるんですけど━━━ッ!
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