悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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62. 断罪 ③

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    宰相が、これから断罪が行われる事を告げた。

「今から名前を呼ばれる者達は、アルバ伯爵令嬢に対する誹謗中傷を広めた事により断罪される事となる。」

    ブロスフェルト侯爵夫妻もクラウディアも顔色が悪い。特にクラウディアの顔色は蝋人形のように白くなっていた。

「クラウディア・ブロスフェルト、アガーテ・ヒュンメル、シュザンヌ・リューグネルト、エチエンヌ・シュルツ。この4名は、フランドール・アルバ伯爵令嬢のありもしない虚偽の誹謗中傷を故意に流し、それを広めたとして、断罪されるものとする。尚、クラウディア・ブロスフェルト以外の3名については、既に貴族籍を剥奪する手続きが、各当主から成されている。よって、この場に於いて即時剥奪となる。引っ立てい!」

    3人が近衛騎士に拘束され、会場から連行されて行く。泣き叫ぶも、誰も…身内すら遠巻きに、他人のふりをして見ていた。

    その場に残されたクラウディアはガタガタと震えていたが、両親である侯爵夫妻も傍に寄らなかった。

    周囲は騒然としていた。
    が、クラウディアがこの場に残された理由が分からず、困惑しているのが見てとれた。

    宰相が再び口を開く。

「クラウディア・ブロスフェルト、其の方については、他にも罪状があるのだが、身に覚えは?」

「無いわ!ある訳ないでしょッ!!」

    顔色は悪いまま、ヒステリックに叫ぶ。
    
    そんな彼女を一瞥して宰相が告げた。

「隣国と手を組み、フリッツ・エックハルトら反逆者を密入国させた事が明白になっているが、知らぬと申すか。」
「し、知らない!そんな事知らない!」
「そうか、知らぬか。証人を此へ。」

    後ろ手に拘束された男が連れて来られた。

「よぉ、俺の顔を忘れたとは言わないよな。」

    ニヤリと嗤う男を見て、クラウディアは力無くその場に座り込んだ。

    フランはその男の顔に見覚えがあった。フリッツに拐われた時、監禁場所に居た王太子の影だった男だったからだ。

「余罪も含めて、この後、取り調べを行う。引っ立てい!」

    宰相に命じられた近衛騎士に拘束され、連行される時、

「アルベルト様……わた…私はあなたの為に……。お願い!助けて!」
「黙れ!俺の為などではないだろう。」
「そんな……あなたはお姉様を愛していた筈。今も愛している筈よ!」
「あの頃も今も愛してなどいない!」

    それは低く唸るような声だった。

「え?」

    クラウディアの顔から表情が抜け落ちた。
    言われた言葉の意味が理解出来なかったのか、認めたくなかったのか……。

「ブロスフェルト侯爵、やはりあの時全てを彼女に話しておくべきでしたね。彼女の姉、ガートルードの真実を……。」

    侯爵は床に両膝を付くと、泣きながら「申し訳ありませんでした。」とだけ言った。

    ショックを受けたのか、静かになったクラウディアは、引き摺られるように連行されて行った。

    そして、会場が静まり返る中宰相が告げた。

「ブロスフェルト侯爵ご夫妻にも、事情を聞くので近衛騎士にご同行願おう。」

    近衛騎士に伴われ、侯爵夫妻が項垂れ、連れられて退場した。

「取り調べが進む上で、事情を聞いたり、拘束される者も出る事と思う。また、単なる噂話に厳しい処分と思った者もいるかもしれない。が、貴族家としての名誉を軽んじる事は出来ない。此度の事は、噂話で片付けられぬほど、根拠も無く、虚偽の話によって著しく名誉を傷つけられた事件であると明言する。そして、今日より後、この話を出した者は厳罰に処せられると心せよ!その上で、今一度、名誉を重んじる意味を考えて欲しい。では、以上をもって断罪を終了とする!」

    一気に場内が騒然として、貴族家達の反応もはっきり分かるほど分かれた。

    そう、少なくとも噂を流す上で関わったであろう貴族家達の顔色は明らかに悪かった。
    勿論、低位貴族に多く、高位貴族では殆ど見られなかったが、何人かは顔色が悪く、居たたまれなかったのかすぐに帰ったようだった。

    両親は何とか持ちこたえた。そして兄も。私はというと、ギリギリだった。

    何人か交流のあった高位貴族家のご婦人達やご令嬢方に話しかけられ、挨拶も済ませた。

    それらが終わるまで、エヴァが付いていてくれて正直助かった。

    その間、アルベルトは多くの貴族家達に取り囲まれ、私の所に中々来る事が出来なかった。

    まぁ、今のところ公爵家筆頭だから仕方ないとはいえ、大変そうだな。と、他人事みたいに思っていた。

    やっと、そちらが落ち着いて、アルベルトが私の方に来た。
    婚約が承認された私達は、ユークリッド様の所へ挨拶に行った。

    彼女は落ち着いた表情で迎えてくれた。

「婚約おめでとう!」
「あ…そう言えばそうだった……。」

    と言ったら、

「やっぱり、フランはフランのままだったわね。」

    と笑いながら言われ、アルベルトも呆れたように笑っていた。

    でも、私は知っている。皆が見えない所で東奔西走していた事を。

「ありがとう。」

    色んな意味を込めて言った。

「今度はユークリッド様の番ね。忙しくなるわね。」

    そう言うと、彼女は表情を引き締めて頷いた。

   

~~~~~~~


*いつもお読み頂きありがとうございます!

*サブタイトルで“断罪”としたのですが、「どこがやねん!」と、ツッコミが入りそうですが、国王も王太子もクラウディアも余罪があるので、断罪しきれていない状態です。

    だから、取り敢えずと“断罪”の前に付くのですが……。
    と、ここで明記しておきます。

    ちなみに、王太子妃のテレサに関しては、断罪済みになります。
    王太子に余罪があっても、現在明らかになっている罪状で王太子ではなくなっている(廃嫡されている)ので、王太子妃ではなくなっていて、知らない間に共犯にされていた事もあり、温情付きで断罪済みです。

    詳しくは、この後の話に出て来ます。

あと暫し、物語にお付き合い頂ければ嬉しいです。
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