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37. 光明
しおりを挟む国王に面会出来る事になった俺は、執務室に通された。
そして、フランが俺との婚約を解消する事を強く願っていると申し出た。
「アルベルト、この婚約が王命だと分かっておるよな。」
「はい。ですが、それでもこの婚約を解消したいと、アルバ伯爵令嬢は切に願っております。」
国王は顎髭を撫でながら、「うーむ…。」と唸っている。
「其方、聞いたところによると、相手の令嬢を蔑ろにしていたそうではないか。その上、婚約者でもない令嬢とかなり親しくしていたとの噂まであるが…?」
「いいえ!彼女を蔑ろにしたつもりなど…。」
「ならば、彼女は何故婚約を解消したいと?」
「それは…ご、誤解があって…。」
「では、関係を改善すれば良いのではないか?」
「それが…もうそれすら無理な状況で…。婚約を解消したいと、それだけで…。申し訳ございません。」
国王は眼を瞑り、顎髭を撫でている。
「…致し方無し、と言ったところか…。分かった、認めよう。其方とフランドール・アルバ伯爵令嬢の婚約解消を承認した。是を以て、速やかに解消するべし。」
「有り難き幸せ。陛下の御厚情に感謝申し上げます。」
アルベルトは深く頭を垂れた。
「さて、ここからは叔父として、公人の立場を離れて言わせてもらおう。何の咎めも無く事を収める訳にはいかぬ。かと言って、4年前の戦で当主や継嗣を喪い、これ以上貴族家を潰す訳にもいかぬ。依って、一ヶ月の謹慎を申し渡す。」
「は。」
再度、深く頭を垂れた後、これ以上の長居は無用とばかりに立ち去ろうとしたが、引き留められた。
「いい加減、ガートルード嬢の事は忘れて、前向きに生きよ。此度のように、相手を傷付ける言動は、二度と罷り成らん。」
「…肝に銘じておきます。」
退出の礼を取り、執務室から出て行った。
邸に帰る前に、自分の執務室へと足を運ぶ。
事実上、謹慎処分となった事を部下に告げ、後を任さなければいけないからなのだが…。
王宮内の回廊を進んで行く。
王宮はその構造上、東棟、中央棟、西棟の3つに分けられる。
東棟は王族の居住スペースを中心に客間などがある。
真ん中にある中央棟は、謁見の間、王家主催の夜会等が開かれる大ホール、他国の王族や大臣といった公人達と会議をしたりする為の会議場等の公共スペースがある。
そして、西棟は執務棟とも呼ばれ、国王や王太子の執務室以外の、様々な役職に就いている者達の執務室等がある。
そして、それらの建物は渡り廊下で繋がってい
て、途中にバルコニーのように迫り出した部分がある。
( 因みに、国王や王太子の執務室は、東棟にある。)
当然、俺の執務室は西棟にある。だから、大雑把に言うと、王宮の端(東棟)から端(西棟)まで移動する事になる。
その長い回廊を移動していたのだが…。
東棟と中央棟との間にある渡り廊下に人影が見えた。
ドレスを身に付けているので、遠くからでも女性だと分かる。
場所が場所だけに、誰なのか簡単に予想できる。
嫌な予感しかしない。
案の定、その女性の近くまで来た時、俺に向かって何かが投げつけられた。
体に当たって落ちた物を見ると、へし折られた扇だった。
顔を上げようとした俺に、
「見損ないましたわ!」
黙って折れた扇を拾い、手渡すと怒りが増したのか、再び投げつけられた。
「婚約解消ですって?」
何も言い返せない俺は、落ちている扇を見つめた。
フランの親友だから俺に腹が立つのは分かる。だが、だからといって、何故ここまで責められなければならないのか…。
「そこまでクズだったとは…。従妹として情けないですわ。…何とか言いなさいよ!」
「お前に何が分かる!俺だって婚約者のままで居たかったさ!…けど…フランがそれを望んだんだ。」
突然何も言わなくなったユークリッドを見た。ドレスの裾を掴んだまま、眼を大きく見開いて固まったかと思うと、怒って真っ赤だった顔色が、一瞬で真っ青になった。
「???な、何だよ?何が…っ?!」
両手で口を押さえ、カタカタと小刻みに震えている。
思わず駆け寄ると、両肩を掴み、体を前後に揺すって問い質した。
「一体何が…!何か知っているのか?!」
彼女は俯いていた顔を上げ、涙も拭わず俺を見た。だが、その眼は俺を見ているようで見ていない。
「…フラン…フランが…。」
フランの名を呟く従妹に、ただ事ではないと、
離れていた彼女の護衛を呼ぶ。
「おい!護衛!」
ユークリッドの護衛が此方へ駆けて来た。
「閣下、此方へ!」
そう叫ぶと、東棟の方を指し示す。
東棟の方を見ると、入り口付近でユークリッド付きの侍女が手招きしている。
ユークリッドを横抱きにして東棟へ向かった。もう一人の侍女が東棟内にある部屋の前で待っている。
俺達が着くと、扉を開け、中に入れといった風に扉を押さえて頷く。
俺達が部屋に入ると、廊下に誰も居ない事を確認して扉を閉めた。
部屋に入って、真っ先に眼についた長椅子にユークリッドを下ろす。
「水を!」
そう言うと、侍女は隣の給湯室へ行き、暫くして水差しとグラスを乗せた盆を運んできた。
盆をテーブルに置くと、グラスに水を注いでユークリッドに渡す。
「ほら、水だ。」
彼女は両手で受け取ると、一気に飲み干した。
取り敢えず、護衛と侍女を入り口付近まで下がらせた。
フランの事で何か知っているのか?それならばと、意を決して尋ねた。
「ユークリッド、お前は何を知っている?」
彼女の肩がピクッと小さく跳ねた。
「黙るのは無しだ。答えろ、但し嘘は認めない。正直に言え。いいな。」
そうして、ユークリッドの口から聞いた内容に驚くと共に、暗闇の中に光明を見つけた思いだった。
そして、同じ目的の為に彼女に共闘を持ち掛けたのだった。
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