悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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26. 接触

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    夜会があった日、邸に戻ってからが大変だった。

    あの日サンドラは、即、邸に連れ戻された。珍しく、お父様がいい判断をしたと思っていたら、
王太子殿下から、お兄様に指示があったという。

    で、渋々邸に戻った彼女の機嫌は最悪で、帰宅するなり絡まれた。

「アルベルトと一緒にいた女は誰?」に始まり、「お義姉様が確りしていないから、あの女に馬鹿にされたんだわ!」と言われ、なのに、「ドレスも贈られず、一人で入場させられて、ファーストダンスも踊ってもらえなかったなんて、ウケるぅ。」

    で、最終的に

「ハッキリ言って、アルベルト様にお義姉は釣り合わないのよ。やっぱり私じゃないと駄目なのね。フフフ。」

    だそうである。

    とはいっても、“アルベルトと私がお似合いじゃない。”って所は、痛い程分かっている。

    サンドラがもっと分別があったら婚約者交代も有りなのに…。

    ん?

    サンドラの首の後ろ…虫にでも刺されたのかな?

「サンドラ首の後ろ、赤くなってるけど虫にでも刺されたの?」   

    そう言って、赤くなった所を見ようと思ったら
「放っといてよ!」と怒られた。

「人が心配して言ってるのに…。いいわ、後でお薬塗っておきなさいよ。」
「分かっているわよ!」

    相当、ご機嫌斜めな様子に、そっとしておく事にした。

    自分の部屋に行こうとしたら、廊下の先の角に使用人が居たように見えた気がした。が、次に見た時には誰も居なかった。
    だから気の所為だとその時は思ったのだった。

    けれど、その2,3日後、邸の裏手で誰かと話をしている使用人を見て、あの廊下の角に居た男だと思い出した。

    何だか、変な感じがした。

    それ以降、自分でも分からないけど、何故かその使用人を避けてしまう。

    だから、ミリィにもあまりその男に近づかないように言った。

「何かあるんですか?」

    ミリィに聞かれたけど、確たる根拠も無かった私はお茶を濁した。

    が、彼女は後日侍女仲間からある情報を仕入れてきた。

    食料を運ぶ業者のうちの一人と、何か連絡を取っているらしい。
    侍女の一人がそれを見た。と言うのだ。

「怪しい…。」

    小声で呟いたつもりが、ミリィには聞こえていたようで、

「やっぱり、お嬢様もそう思いますか?」

    そしてその後、サンドラがその男から何かを受け取っていたのを目撃してしまう。

    幸い、相手に気づかれなかったから良かったものの、ミリィには危険だから一人で探るような事をしないように言い含めた。

    なのに、自分が偶々それを見てしまい、しかも相手に気づかれた。

    マズいと思った。が、暫くは何事も無かったので大丈夫かと思っていたら、相手が接触してきた。

    呼び止められ、メモを渡されたのだ。

    嫌な予感がした私は、急いで自分の部屋に戻り、メモを開いて見た。

「何て事…。」

    顔色を悪くした私に気づいたミリィが、何かあったと感付いた。
    
    他愛のない話をしながら近くに来たので、メモを開いて見せた。
    かなり離れていたけど、彼女は視力が良い。

    だから彼女が小さく頷いたのを見て、離れた位置からメモに書いてあった内容を理解したと分かった。

    メモには
“義妹を預かった。助けたければ二時間以内に緑の森グリューネヴァルトの狩猟小屋まで一人で来い。誰かに話せばサンドラの命は無い。F”
    と書いてあった。

    出かける準備を手伝ってもらい、私が出かけたら、護衛騎士の一人、リヒターに公爵家へ、ヒースにはユークリッド様の所へ知らせに走るように伝えて、とミリィにだけ聞こえるように言った。

    彼女は、必要な情報を必要な侍女仲間と伝え合う情報網のような物を持っている。
    だから、邸内が大忙しの時でも迅速な対応が出来る有難い侍女なのだ。

    そして、私からミリィに伝えた話は動き出した。

    後は、古くから居る使用人達との連携プレーに望みを託すしかない。

    ミリィは、私と一緒に行くと言ったが、却下した。
    メモには、“一人で来い”と書いてあった。それに、彼女の主としての責任もあるから、どの道、連れて行けない。

    ミリィに後を任せ、私は一人で馬車に乗り出発した。

    行き先は、領内にある森の中の狩猟小屋。とはいっても、王都に近い方だから、一時間もあれば到着するだろう。

『さぁ、あなたのお望みの狩りの時間ですよ、氷撃の撃墜王。』 

    これで今までの全てに方が付く。

    やっと、あの悲劇なんて言われている馬鹿馬鹿しい話から解放される。

    こんな形でなんて望んではいなかったけど。

    でも、これで終わりになる事だけは間違いない。
    後は、誰も怪我する事無く、死ぬ事も無ければ万々歳かな。
    
    馬車に揺られながらそう思った。
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