悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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19. 妹

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    交流目的の一回目のお茶会の時、フランドール嬢の反応を見たくて、元婚約者の話を出した。

    彼女を疑う反面、信じたいとも思っていたのに、かなり動揺していた。そしてその事を悟られたくないと思っている事も。

    元婚約者の死を悼んでいるような感じは無く、やはり彼女は彼との接触があると判断せざるを得なかった。

    

    そんなある日、来客を知らされた俺は、その名前を聞いて驚いた。

    クロウディア・ブロスフェルト

    8年前に亡くなった、当時の婚約者、ガートルード・ブロスフェルトの妹。

    毎年、ガートルードの命日に墓の前で、彼女のご両親と一緒に来ていたし、季節の節目毎に故人を懐かしむ為、この邸に来る事もあった。

    恐らく、俺の婚約の噂を聞いて来たのだろう。

    いつものように応接室に通された彼女のもとへ向かった。

「アルベルトお兄様!」

    花開くように、パァッと明るい笑顔をこちらに向ける。

    ガートルードが生きていた時は、それほど似ているとも思わなかったのに、最近の彼女は姉のガートルードによく似ている。

    成長と共に似てきたのもあるのだろうが、彼女が姉に心酔していて、真似をしている所為もあるのだろう。

    夜会で遠目に見かけた時など、ちょっとした時に、ガートルードかと思うほど似ていて、その度に彼女を思い出して苦しくなる。

    彼女の葬儀の時に、これからも「お兄様と呼ばせて欲しい。」と頼まれ、未だに「アルベルトお兄様。」と呼び、兄と思って慕ってくれている。

    
「お兄様、どうして婚約の事を知らせてくれなかったのですか?」
「ご両親にはお知らせしたのだが…聞いていなかったのか?」
「えぇ。友人から聞いて初めて知りました。それよりも、お兄様は忘れてしまったのですか?お姉様の事…。」
「いや、忘れてなどいないよ。」
「ならば、何故婚約など…」
「跡継ぎを儲けるのも、貴族としての義務だからと…王命だったんだ、仕方がないんだよ。」

    これまでは、縁談を断っていたから、姉に心酔している彼女も何も言わなかったが、やはり婚約したとなると、思うところがあるのだろう。

「そんな!お姉様が可哀想。お兄様だって…無理矢理、婚約させられるなんて…。」

    そう言って、両目から大粒の涙をポロポロと溢れさせた。
    妹にするように、肩を抱き背中をトントンして宥めた。

「お兄様が可哀想…。」

    泣きながら言う彼女に、本当の事を言う訳にはいかない。
    かと言って、掛ける言葉など思い浮かばない俺は、只黙って背中をトントンし続けた。

    だから、気付かなかった。

    幼かった少女の眼が、兄と慕う眼から異性に恋する眼に変わっていた事を…。

~~~~~

    先日の、閣下とのお茶会で、フリッツの話をされ、動揺を隠せなくて落ち込んでいたそんなある日、来客を告げられた。

    クラウディア・ブロスフェルト侯爵令嬢

    名前を聞いても、ピンとこなかった。が、次の瞬間思い出した。

    8年前に亡くなった、閣下の元婚約者と家名が同じだという事に。

    ガートルード・ブロスフェルト

    それが閣下の元婚約者の名前だった。

    応接室に通すように指示を出し、ミリィに頼んで大急ぎで用意すると向かった。

    扉をノックして、返事があってから、中に入ると、輝く金髪と夏空のような青い眼の、まるでビスクドールのような愛らしい少女が立っていた。
(後日、エヴァから彼女の年齢を聞いたら、年上だったので驚いた。どんなお手入れをして、どんな化粧品を使っているのか是非知りたい!)

「クラウディア・ブロスフェルトです。前触れも無く、突然押し掛けてしまってすみません。」
「いえ、お気になさらず。フランドール・アルバです。楽になさって下さいませ。」

    令嬢が座った後、私も座り、侍女がお茶を淹れて、テーブルに置いて下がってから尋ねた。

「ところで、今日はどういったご用件でしょうか?」
「…実は…あなたに是非お願いしたい事がございまして。」

    それを聞いて、ピンときた。閣下との婚約の件だと。そしてその内容も。

「どのような事でしょう?お力になれるかどうか、分かりませんがお聞かせ願えますでしょうか?」
「言い難い事なのですが、フォイエルバッハ公爵閣下との婚約をお断りして欲しいのです。」

『えっ…と…。これって閣下が頼んだ訳じゃないわよね。いくら何でも王命の重さは分かっている筈だし…。となると…それを知らない少女の暴走ってとこかな?』

「私からお断りする事は出来ません。家格はあちらの方が上ですし…何より王命ですもの。」

    そう言うと、色白の顔が朱に染まる。

「アルベルトお兄様が可哀想だとは思いませんの?王命なんて、無理矢理じゃないですか!」
「それはこちらも同じ事。王命には逆らえません。」

    今度は眉と目尻まで釣り上がった。

「なっ!? だから、あなたからお断りして欲しいと言っているのです!」

『はあッ?!意味分かんないんですけど?』

「閣下は、王命の持つ意味も重さも理解されています。だから、私からお断り出来ないという事もご存知の筈ですわ。」

    彼女は益々顔を赤くして、握り拳をプルプルさせながら叫ぶように言った。

「分からない人ね!」

『どっちが?』

    心の中だけで言う。

「お話がそれだけならば、お力になれず申し訳ありません。そして、お引き取り願えますでしょうか?」

    勢いよく立ち上がると、怒りを表すように、大股で歩いて出ていった。

「なんなのあれ?」

    どうやら、閣下にも直談判したけど、駄目だったから、うちに来たって事かなぁ?

    まぁ、うちに来ても、無理な物は無理なんだけど…。
    
    

    

    




    





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