優しすぎる貴方

雫喰 B

文字の大きさ
上 下
33 / 40

おまけ ①

しおりを挟む


本文

沢山の方々に読んで頂けて、嬉しくて歓喜してしまいました。本当にありがとうございました!

皆様に感謝を込めて…。
                          sivaress
~~~~~~~~~~

深夜の騎士団団長の執務室。ぶつくさとボヤキ、文句を言いながら仕事をしている男が一人。


一人で残業…もとい、居残りをさせられているのだった。勿論、上からの指示で。補佐官達は、更に上からの指示で、当然帰宅している。


男のぶつくさ言っている声と、カリカリとペンで文字を書く音だけが響く執務室の扉が、音もなく開いて、閉じた。

だが、その事に男は気付かない。それどころか、身の危険にすら気付いていなかった。


音も無く、彼の前に立った男達は、お互いに顔を見合わせた後、首を横に振った。


執務机に向かう男の前に立っているのは、白い仮面を着け、騎士服の上から膝下丈のマントを纏った男が三人と、貴族が着ている様な服装の男が一人。

白い仮面は、笑っている様な顔の形で、両目と口の部分がくり貫かれているが、口の部分は、三日月の様に大きく弧を描いてあり、不気味だった。


マントを纏った男の内の一人が、暗器の小刀を机に向かって投げた。


それまで、書類にペンを走らせていた男が、視線だけ動かして、机に突き立っている小刀を見るなり、


「ひっ!?」


と、短く声を上げ、椅子を転ばせ、後ろに下がった。

目の前の男達を見て驚いたが、その中に、父親である、前公爵のオトフリート・ライテンバッハの顔を認めて、声を荒げた。


「父上!何の冗談です!」


父と呼ばれた男は、俯き気味に顔を横に向け、片手で顔を覆うと、大きく溜め息を吐いた。


小刀を投げた人物が、それを見て皮肉混じりに、オトフリートに言った。


「オトフリートよ、侵入に気付かないどころか、殺気にすら気付かないとは…。致命的だぞ。これでは息子の資質を問われても、文句は言えまい。」


「なっ!」


騎士団団長のクラウスは、聞き捨てなら無い!とばかりに、男に怒気を向けた。


それを見たオトフリートは、顔を青くした。


「育て方を間違えたな。ローエングリンの所の小倅の方がマシではないか。」


バンッ!!と音がするほど机に両手を付いてクラウスが言った。


「貴様!誰に向かって言っているのか、分かっているのか!」


怒りで真っ赤になったクラウスの顔を見て、男は、くつくつと嗤う。


怒り心頭に発したクラウスは、机を回り込んで男に掴み掛かろうとしたが、父親によって止められた。


「このような空けうつけ者が、ライテンバッハを名乗るとは。育て方を間違えただけでなく、躾もしなかった様だな。」


それを聞いたオトフリートは、益々顔を青くした。が、クラウスの方は益々怒りで顔を赤くした。


白い仮面を男が外した。


「ッ!!」


クラウスは息を呑んだ。そして、見知ったその顔に、嘲笑を浮かべ言った。


「息子の敵討ちのつもりですか。逆恨みも甚だしい!」


男は、尚もくつくつと嗤い、


「オトフリートよ、育て方を間違え、躾もせず、教えてすらおらなんだか。呆れ果てて物も言えんわ。」

「何を…」

「それを言うなら、親の敵を子が打ったつもりか。笑止!」

「何の事だ。」

「クラウスよ、此度お主が仕出かした事を、儂が知らぬと思うてか!それこそ、逆恨みも甚だしいわ!」

「だ、黙れ!貴様こそ、二十二年前に一族の長たる、ライテンバッハ公爵家の嫡男に何をしたか忘れたか!たかが末席の分際で!」

「オトフリートよ、これはお主も責任に問わねばな。覚悟しておけよ。」


後ろにいる、前ライテンバッハ公爵をチラリと見て言うと、前公爵は顔色を失い、力なく両膝を付いた。

 「父上。何故このような末席の者に膝を折るのです!貴方は一族の長なのですよ!」

「クラウスよ、お主は知らぬかもしれぬが、一族のでの長は、儂だ。二十二年前からずっとな。」


二十二年前、本当の意味での、一族の長を決める時、四人いた男子の中で最有力候補が、リンドブルム侯爵位を継ぐ前のウルリッヒだった。


そして当時、騎士団にいたウルリッヒの補佐官だった現夫人のギーゼラの身を危険に晒した(拐い、ならず者に陵辱させようとした)のが、オトフリートだった。候補者だった他の兄達は、傍観者に徹していた。


何とか夫人の身柄を無事確保すると、万策尽きた彼らが、総がかりなら勝てると踏んで、ならず者達と侯爵を袋叩きにしようとして返り討ちに遭った。


しかも、相手は抜剣していたが、侯爵は剣を抜かず、鞘に入れたままで彼らを一瞬で返り討ちにした。

 この騒動は、ライテンバッハ公爵(初代)を名乗っていた先々代国王の王弟、ヴィルヘルムの耳にも入り、ウルリッヒの実力を知った彼が、ウルリッヒを一族の長と定めたのだった。

傍観していた兄達は、その資質を問われ、候補者から外された。


 これを教訓としてヴィルヘルムは、一族内だけでの決まり事を決め、自分の死後もそれを守るように厳命した。


 ウルリッヒが話終わると、クラウスは顔色を失くし、ガタガタと震え出した。その様を見たウルリッヒは鼻白んだ。『ふんッ!』と鼻で嗤うと、剣の柄に手を掛けた。


 恐怖を宿した眼でウルリッヒを見たまま動けずにいた。父親のオトフリートも同様である。


 そして、一閃。あっという間だった。

 彼が剣を鞘に戻した後、床には金色の糸の様な頭髪が散らばっていた。


 「追って、沙汰があるまで、そのままでいるがいい。今更、言うまでも無いと思うが…」

 「「わ、分かっております!」」


 ライテンバッハ公爵親子が、震えながら抱き合ってそう言うと、部下と思しき二人を引き連れ、執務室から去っていった。


あとに残されたのは、河童か落武者か。といった髪型に一瞬でされてしまった親子二人。


沙汰があるまで、そのままと命じられてしまった二人は、コンラートの結婚式にも、そのまま出席せざるを得なかった。

一族への見せしめである為、欠席する事は認められなかった。

当然、他の出席者達は、何事かとざわついていた。

公爵親子は、屈辱にワナワナと震えていたが、その意味を知る、ライテンバッハ一族からは、白い眼で見られていた事は言うまでもない。


そして後日、オトフリート・ライテンバッハ前公爵の病死が発表された。

騎士団内でも移動があり、クラウス・ライテンバッハ公爵の突然の退団だった。

諜報部でも、統括長の降格人事が発表された。


どちらも、突然の発表だった為、色々な憶測が飛んだが、一番信憑性が高かったのは、少し前にあった事件で、犯罪組織に加担していた。というものだったが、確証の無い噂としてその噂もすぐに立ち消えた。


後日、父に呼び出されたコンラートは、そこで以外な人物と顔を合わせた。


ミハエル・ローエングリン。つい先日公爵位を継いだばかりの、近衛騎士団団長だった。

表向きは、騎士団団長に就任が決まっていた、コンラートとの顔合わせであった。


コンラートは、武術大会(剣の部)決勝で、毎年あたる従兄に一度しか勝てなかった。


その従兄との顔合わせの本当の意味を知った彼は、既に忘れかけていた人物のその後を知る。


オトフリート・ライテンバッハ前公爵は病死ではなく、毒杯を賜っていた事、クラウス・ライテンバッハ公爵は、爵位剥奪され、今も小競り合いが続く北方の国境へ移動後、戦死した事を。そして、同じ時期に諜報部隊統括長、ヨーゼフ・ブルームハルトが左遷され、その後クラウス同様戦死していた事を。


その理由が、二十二年前の騒動を逆恨みしたクラウスによって、コンラートを貶め、あわよくば薬物中毒にして、利用、若しくは廃人にしようとたくらんでの事だったと。その為に、犯罪組織と裏で繋がっていた事も。


それでも、ウルリッヒが動けなかった理由も知った。公爵家に忖度した諜報部が、情報の一部を隠蔽した事も理由の一つだった。


その状況を変えたのが、マグダレーナの誘拐だった。


婚約破棄して、コンラートとは無関係になった貴族令嬢が誘拐された事により、ウルリッヒが動けるようになった事等を。


その上で、コンラートはこれまで以上の、忠誠を誓わせられる事になるのだが、それはまた別の話である。



━ 完 ━


お疲れ様でした。
長々と物語にお付き合い頂き、ありがとうございました。

最後に、間に挟みたかった話を何とか、短く纏めてみたんですが…。


最後までお付き合い(お読み)頂いた皆様に、改めて感謝致します。

本当にありがとうございました!



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

諦めて、もがき続ける。

りつ
恋愛
 婚約者であったアルフォンスが自分ではない他の女性と浮気して、子どもまでできたと知ったユーディットは途方に暮れる。好きな人と結ばれことは叶わず、彼女は二十年上のブラウワー伯爵のもとへと嫁ぐことが決まった。伯爵の思うがままにされ、心をすり減らしていくユーディット。それでも彼女は、ある言葉を胸に、毎日を生きていた。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

最後に言い残した事は

白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
 どうして、こんな事になったんだろう……  断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。  本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。 「最後に、言い残した事はあるか?」  かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。 ※ファンタジーです。ややグロ表現注意。 ※「小説家になろう」にも掲載。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

悪役令嬢の残した毒が回る時

水月 潮
恋愛
その日、一人の公爵令嬢が処刑された。 処刑されたのはエレオノール・ブロワ公爵令嬢。 彼女はシモン王太子殿下の婚約者だ。 エレオノールの処刑後、様々なものが動き出す。 ※設定は緩いです。物語として見て下さい ※ストーリー上、処刑が出てくるので苦手な方は閲覧注意 (血飛沫や身体切断などの残虐な描写は一切なしです) ※ストーリーの矛盾点が発生するかもしれませんが、多めに見て下さい *HOTランキング4位(2021.9.13) 読んで下さった方ありがとうございます(*´ ˘ `*)♡

処理中です...