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おまけ ①
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沢山の方々に読んで頂けて、嬉しくて歓喜してしまいました。本当にありがとうございました!
皆様に感謝を込めて…。
sivaress
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深夜の騎士団団長の執務室。ぶつくさとボヤキ、文句を言いながら仕事をしている男が一人。
一人で残業…もとい、居残りをさせられているのだった。勿論、上からの指示で。補佐官達は、更に上からの指示で、当然帰宅している。
男のぶつくさ言っている声と、カリカリとペンで文字を書く音だけが響く執務室の扉が、音もなく開いて、閉じた。
だが、その事に男は気付かない。それどころか、身の危険にすら気付いていなかった。
音も無く、彼の前に立った男達は、お互いに顔を見合わせた後、首を横に振った。
執務机に向かう男の前に立っているのは、白い仮面を着け、騎士服の上から膝下丈のマントを纏った男が三人と、貴族が着ている様な服装の男が一人。
白い仮面は、笑っている様な顔の形で、両目と口の部分がくり貫かれているが、口の部分は、三日月の様に大きく弧を描いてあり、不気味だった。
マントを纏った男の内の一人が、暗器の小刀を机に向かって投げた。
それまで、書類にペンを走らせていた男が、視線だけ動かして、机に突き立っている小刀を見るなり、
「ひっ!?」
と、短く声を上げ、椅子を転ばせ、後ろに下がった。
目の前の男達を見て驚いたが、その中に、父親である、前公爵のオトフリート・ライテンバッハの顔を認めて、声を荒げた。
「父上!何の冗談です!」
父と呼ばれた男は、俯き気味に顔を横に向け、片手で顔を覆うと、大きく溜め息を吐いた。
小刀を投げた人物が、それを見て皮肉混じりに、オトフリートに言った。
「オトフリートよ、侵入に気付かないどころか、殺気にすら気付かないとは…。致命的だぞ。これでは息子の資質を問われても、文句は言えまい。」
「なっ!」
騎士団団長のクラウスは、聞き捨てなら無い!とばかりに、男に怒気を向けた。
それを見たオトフリートは、顔を青くした。
「育て方を間違えたな。ローエングリンの所の小倅の方がマシではないか。」
バンッ!!と音がするほど机に両手を付いてクラウスが言った。
「貴様!誰に向かって言っているのか、分かっているのか!」
怒りで真っ赤になったクラウスの顔を見て、男は、くつくつと嗤う。
怒り心頭に発したクラウスは、机を回り込んで男に掴み掛かろうとしたが、父親によって止められた。
「このような空け者が、ライテンバッハを名乗るとは。育て方を間違えただけでなく、躾もしなかった様だな。」
それを聞いたオトフリートは、益々顔を青くした。が、クラウスの方は益々怒りで顔を赤くした。
白い仮面を男が外した。
「ッ!!」
クラウスは息を呑んだ。そして、見知ったその顔に、嘲笑を浮かべ言った。
「息子の敵討ちのつもりですか。逆恨みも甚だしい!」
男は、尚もくつくつと嗤い、
「オトフリートよ、育て方を間違え、躾もせず、教えてすらおらなんだか。呆れ果てて物も言えんわ。」
「何を…」
「それを言うなら、親の敵を子が打ったつもりか。笑止!」
「何の事だ。」
「クラウスよ、此度お主が仕出かした事を、儂が知らぬと思うてか!それこそ、逆恨みも甚だしいわ!」
「だ、黙れ!貴様こそ、二十二年前に一族の長たる、ライテンバッハ公爵家の嫡男に何をしたか忘れたか!たかが末席の分際で!」
「オトフリートよ、これはお主も責任に問わねばな。覚悟しておけよ。」
後ろにいる、前ライテンバッハ公爵をチラリと見て言うと、前公爵は顔色を失い、力なく両膝を付いた。
「父上。何故このような末席の者に膝を折るのです!貴方は一族の長なのですよ!」
「クラウスよ、お主は知らぬかもしれぬが、一族の本当の意味での長は、儂だ。二十二年前からずっとな。」
二十二年前、本当の意味での、一族の長を決める時、四人いた男子の中で最有力候補が、リンドブルム侯爵位を継ぐ前のウルリッヒだった。
そして当時、騎士団にいたウルリッヒの補佐官だった現夫人のギーゼラの身を危険に晒した(拐い、ならず者に陵辱させようとした)のが、オトフリートだった。候補者だった他の兄達は、傍観者に徹していた。
何とか夫人の身柄を無事確保すると、万策尽きた彼らが、総がかりなら勝てると踏んで、ならず者達と侯爵を袋叩きにしようとして返り討ちに遭った。
しかも、相手は抜剣していたが、侯爵は剣を抜かず、鞘に入れたままで彼らを一瞬で返り討ちにした。
この騒動は、ライテンバッハ公爵(初代)を名乗っていた先々代国王の王弟、ヴィルヘルムの耳にも入り、ウルリッヒの実力を知った彼が、ウルリッヒを一族の長と定めたのだった。
傍観していた兄達は、その資質を問われ、候補者から外された。
これを教訓としてヴィルヘルムは、一族内だけでの決まり事を決め、自分の死後もそれを守るように厳命した。
ウルリッヒが話終わると、クラウスは顔色を失くし、ガタガタと震え出した。その様を見たウルリッヒは鼻白んだ。『ふんッ!』と鼻で嗤うと、剣の柄に手を掛けた。
恐怖を宿した眼でウルリッヒを見たまま動けずにいた。父親のオトフリートも同様である。
そして、一閃。あっという間だった。
彼が剣を鞘に戻した後、床には金色の糸の様な頭髪が散らばっていた。
「追って、沙汰があるまで、そのままでいるがいい。今更、言うまでも無いと思うが…」
「「わ、分かっております!」」
ライテンバッハ公爵親子が、震えながら抱き合ってそう言うと、部下と思しき二人を引き連れ、執務室から去っていった。
あとに残されたのは、河童か落武者か。といった髪型に一瞬でされてしまった親子二人。
沙汰があるまで、そのままと命じられてしまった二人は、コンラートの結婚式にも、そのまま出席せざるを得なかった。
一族への見せしめである為、欠席する事は認められなかった。
当然、他の出席者達は、何事かとざわついていた。
公爵親子は、屈辱にワナワナと震えていたが、その意味を知る、ライテンバッハ一族からは、白い眼で見られていた事は言うまでもない。
そして後日、オトフリート・ライテンバッハ前公爵の病死が発表された。
騎士団内でも移動があり、クラウス・ライテンバッハ公爵の突然の退団だった。
諜報部でも、統括長の降格人事が発表された。
どちらも、突然の発表だった為、色々な憶測が飛んだが、一番信憑性が高かったのは、少し前にあった事件で、犯罪組織に加担していた。というものだったが、確証の無い噂としてその噂もすぐに立ち消えた。
後日、父に呼び出されたコンラートは、そこで以外な人物と顔を合わせた。
ミハエル・ローエングリン。つい先日公爵位を継いだばかりの、近衛騎士団団長だった。
表向きは、騎士団団長に就任が決まっていた、コンラートとの顔合わせであった。
コンラートは、武術大会(剣の部)決勝で、毎年あたる従兄に一度しか勝てなかった。
その従兄との顔合わせの本当の意味を知った彼は、既に忘れかけていた人物のその後を知る。
オトフリート・ライテンバッハ前公爵は病死ではなく、毒杯を賜っていた事、クラウス・ライテンバッハ公爵は、爵位剥奪され、今も小競り合いが続く北方の国境へ移動後、戦死した事を。そして、同じ時期に諜報部隊統括長、ヨーゼフ・ブルームハルトが左遷され、その後クラウス同様戦死していた事を。
その理由が、二十二年前の騒動を逆恨みしたクラウスによって、コンラートを貶め、あわよくば薬物中毒にして、利用、若しくは廃人にしようとたくらんでの事だったと。その為に、犯罪組織と裏で繋がっていた事も。
それでも、ウルリッヒが動けなかった理由も知った。公爵家に忖度した諜報部が、情報の一部を隠蔽した事も理由の一つだった。
その状況を変えたのが、マグダレーナの誘拐だった。
婚約破棄して、コンラートとは無関係になった貴族令嬢が誘拐された事により、ウルリッヒが動けるようになった事等を。
その上で、コンラートはこれまで以上の、忠誠を誓わせられる事になるのだが、それはまた別の話である。
━ 完 ━
お疲れ様でした。
長々と物語にお付き合い頂き、ありがとうございました。
最後に、間に挟みたかった話を何とか、短く纏めてみたんですが…。
最後までお付き合い(お読み)頂いた皆様に、改めて感謝致します。
本当にありがとうございました!
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