優しすぎる貴方

雫喰 B

文字の大きさ
上 下
27 / 40

27. それでも俺は……

しおりを挟む
 
   報告書と共に、俺の話は終わった。

    レーナが誘拐されたのは、諜報部隊統括長が、内通者の数を正確に把握していなかった所為もあった。
    レーナ誘拐時、子爵家で雇っていた護衛騎士も内通者で、お金を受け取り、手引きしていた。

    実際、事後に内通者の炙り出しを行い、全貴族の四分の一から内通者が出ていた。
    その中に、ルーニーの取り巻き達の家も含まれていた事は言うまでもない。

    驚くべき事に、事後の炙り出しの時に、事前に内通者を押さえた後の諜報部からも出たのだ。
    
    レーナ救出作戦は、ウンツフリーデン伯爵夫人捕縛作戦と夫人の情夫、ハンス・ドローエンが作った犯罪組織の壊滅作戦 と、ほぼ同時に行われた。

    レーナが誘拐された事が一番の理由だった。
その判断を下したのは、未だ謎に包まれた、諜報部のトップだった。

    貴族令嬢の誘拐の捜索は、大々的に行われる。そうなると、犯罪組織が活動の場を他国に移す可能性が高くなる。
    つまり、レーナごと他国に逃げられる。
それを防ぐ為に、同時作戦を決行せざるを得なかったらしい。

    まぁ、そのトップの判断が(偶々)いい結果を出せた事は、良かったのかもしれないが……。
   俺としては、複雑だった。
諜報部だけで、解決できなかったのか?と…。

**********

   この後、俺とレーナの婚約破棄の件が話し合われたのだ。

    実は、前もって陛下からこの件で話を聞かれていた。

    俺は今でも彼女だけを愛している事、もし、婚約破棄が撤回された時は、一日も早く結婚したい。と言う意思は陛下には伝えてあった。

    そして、撤回されなかった場合は、それを受け入れる事も…。

    陛下は、今回の特別な事情を踏まえた上で、王命で撤回させる事も示唆して下さったが、俺はそれを断った。
  
    彼女の気持ちを無視したくなかったからだ。

************

   レーナは、椅子から立って、俺と団長の方に向かって、誘拐犯から救い出した礼を述べた。

    腰を軽く折って礼をすると、再び椅子に座る。
 その後、顔を上げた彼女と眼が合った。

    困った様に微笑む。
    彼女の、そんな表情も俺の胸に刺さる。
    また彼女への想いが強くなる。愛しさが増す。
    苦しくて……堪らなくなって……眼を逸らした。

    その後も俺は、時々彼女を盗み見た。彼女の姿を眼に焼き付ける為に……。

    婚約を破棄された俺には、彼女を見詰める資格は無い。

    七歳の時から、名前も知らない彼女に片思いをし続けて、ずっと探し回った。
    やっと彼女が学園を卒業する前に、見つける事が出来て、断られるかもしれないと、内心ビクビクしながら、婚約とその先にある結婚の申し込みに行ったんだ。

**********

    彼女の名前が分かったのは、ほんの偶然だった。

    王家主催の武術大会の会場の応援席に彼女はいた。
    友人と、弟達と、会場の熱気で頬をほんのりと朱く染めてながら、応援していた。

    あれほど沢山の観戦者が居たにも拘わらず、すぐに彼女だと分かった。

    俺は友人達に、名前を知らないか聞いて回った。
    
    偶々友人の一人が、『彼女の名前は分からないが、その友人の方は、婚約を申し込むつもりだから、名前を知っている。』と言うので、『是非、友人の令嬢に彼女の名前を、それとなく聞いて欲しい!』と頼んだ。

    その友人は気を利かせて、彼女には、まだ婚約者がいない事まで、聞いてくれていた。
    お礼に、友人が婚約した時に、お祝いを奮発した。

************

    必死で探し回って、やっと見つけた彼女。

    婚約の申し込みを受けてくれて、幸せいっぱいだった。結婚までほんの直ぐだったのに…。

    諜報員として駆り出され、諜報活動をさせられて……。
    確かに、国を滅ぼしかねない薬物を、摘発できたのは良かったと思う。

  でも、一番大切な人を失った。

************

    レーナと会った最後の聴取が終わり、俺の諜報員としての任務も終わった。

    団長からは、『休暇を取って一月ぐらいゆっくりして来い。』と言われて、今の俺は休暇中だ。

    レーナと会った最後の聴取が終わり、俺の諜報員としての任務も終わった。

    団長からは、『休暇を取って一月ぐらいゆっくりして来い。』と言われて、今の俺は休暇中だ。

  と言っても、嬉しくなんてない。

  レーナが、救出された時のお礼を言う為に、騎士団本部を訪ねてきた時、俺は休暇中だった。

  何でなんだよ……。団長は態と俺を休暇にしたのか?と、思わずにはいられなかった。

       だが、俺にはもう何も無い…。

    …いや、仕事がある。と言うか、仕事しか無い…。

    これからは、仕事に生きるか…。

    けれど、俺はまだいい。仕事があるし、男だから…。

    じゃあ、レーナは?

    婚約破棄に誘拐  。
    ……
    ……
    …… 

    俺は、ベッドから起き上がり、大急ぎで着替えて支度した。机の上の物をポケットに突っ込む。

    部屋を出て、廊下を走り抜け、階段を駆け降りた。

    玄関に両親がいた。

    父は騎士服に、両肩に房飾りが付いた将軍や元帥の位の騎士が羽織る、長いマントを羽織っている。
    母は、いつもより華やかな外出用のドレス姿だった。

    帰って来た所なのか、今から出掛けるのかまでは分からないが…。

    「行ってきます!」

    俺はそれだけ言うと、外へ出た。

    「やっとか…。」
    「ほんとに。蹴り上げなきゃ駄目かと思っちゃったわ。」

    すれ違いざま、両親のそんな言葉が聞こえた。

    読まれてるなぁ。と思いながらも、あの二人には敵わないな。と思った。

    厩舎に着いた俺は、自分の馬に鞍が乗せられているのを見て、

    「ほんと、敵わないや。」

    と、呟くと、馬に飛び乗った。

    手綱をグッと握り、馬を走らせる。

    速く!! 速く!!  

    と、心急いた。

    
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~      
      *お知らせ*

  17日(火) まで、一日二話づつ投稿します。
  17日(火) 21時、投稿分をもちまして、完結とさせて頂きます。
  その後、エピローグを投稿する予定です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

最後に言い残した事は

白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
 どうして、こんな事になったんだろう……  断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。  本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。 「最後に、言い残した事はあるか?」  かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。 ※ファンタジーです。ややグロ表現注意。 ※「小説家になろう」にも掲載。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!

青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。 すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。 「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」 「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」 なぜ、お姉様の名前がでてくるの? なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。 ※タグの追加や変更あるかもしれません。 ※因果応報的ざまぁのはず。 ※作者独自の世界のゆるふわ設定。 ※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。 ※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。

そして彼女は別世界へ旅立った

く〜いっ
恋愛
 王太子の攻略は成功し、悪役令嬢は断罪された。けれど『乙女ゲーム』のエンドロールは流れない……クリア条件を満たせなかったためしだいに物語りはハッピーエンドから分岐し迷走していく。  いらだちを隠さなくなってくるヒロインと、元婚約者の悪女の仮面が剥がれていく狭間で、愚かだった自分を知っていく王太子の苦悩の独白。 「仕組まれた偽りの恋愛にうつつを抜かし、リルの真実の姿を見つけるのに時間がかかりすぎた。遅かった……すべて、遅すぎたのだ……」  ヒロインに攻略された王太子のざまぁ(?)物語り。主にヒロインと王太子が、ざまぁされます。全24回+1で完結。途中、寝取られ表現、拷問設定、薬物、遺伝などのセンシティブな内容が出てきますので地雷のある方は注意です。真相を知っていく王太子が主人公なので、バッドエンド。物語り時点で王太子はヤンデレ化してません。ヤンデレ誕生物語り的な位置づけ。R15は保険です。

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

処理中です...