優しすぎる貴方

雫喰 B

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2.風雲急を告げる

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    婚約者の彼とその幼馴染みの伯爵令嬢、相思相愛だったけれど、引き裂かれてしまったお二人の噂を聞いて以降、薄氷を踏む思いで毎日を過ごしておりました。

    日に日に、心を削られていきながらも、彼の心がまだ彼女の方にある。と言われるのが恐くて、臆病者の私は彼に確かめる事すら出来ません。

    毎日、夜眠る前に、今日は大丈夫だった。けれど、明日は?と思うと夜もあまり眠れません。

それでも、式の日取りが決まった今、侯爵家に嫁ぐ為の勉強も急がないといけません。
その上、彼と交流する時間も持たなければならない。

    そんな忙しく、慌ただしい中でも、彼に会える日は天にも昇る気持ちです。
嬉しさのあまり、舞い上がってしまいます。
そうでなければ、侯爵家に嫁ぐ為の辛く、苦しい勉強を頑張る事など出来なかったでしょう。



…なのに、噂を聞いた3ヶ月後のその日、2ヶ月後には式を挙げるというその時になって、無情にもその噂が私の耳に…。

    友人たちとの楽しいお茶会のはずが、私を打ちのめす噂を、再び友人から聞く事になろうとは…。

    コンラート様の愛していた幼馴染みの彼女が、侯爵家から離縁されて、実家の伯爵家に帰って来ていると言うのです。
    嫁ぎ先の侯爵家で、浮気三昧の結婚相手から、酷い暴力を受け続け、傷付き、離縁されて帰って来ていると。

私は、目の前が暗くなる思いでした。
そのまま、帰る挨拶もそこそこに、ふらふらと、馬車に乗り込み、自宅の子爵家に帰りました。
けれど、馬車に乗っている時も、帰宅してからも、何も考えられませんでした。
どうしたらいいのか?その事ばかりが、ぐるぐる頭の中を駆け巡っていました。

    そして、婚約を解消されたら…。という恐怖に、更に心を削られていくのでした。

更に私の心を削ったのは、その事だけではありませんでした。
噂を聞いて以降、コンラート様の様子がおかしいのです。心ここにあらず。というか、私とのお茶会の時でも、物思いに耽っている事が多くなってきた様に思うのです。

    気の所為だと思いたかったので、何度も自分にそう言い聞かせていました。

    けれど、式の打ち合わせにコンラート様が来る事もなく、騎士団での仕事が忙しいから私が決めてしまって良いとの事でした。

それに付け加えて、顔合わせのお茶会も、同じ理由でキャンセルされ、ここしばらくは、お会いするのもままならない状態で、コンラート様を信じたいのに、疑心暗鬼に駆られる毎日を過ごしておりました。

それでも、お会いしたいと何度もお手紙を出したところ、漸くそれが叶い、コンラート様のご自宅、リンドブルム侯爵邸でお会いする事となり、私は張り切ってお洒落をして出掛けていきました。

侯爵邸の庭園にあるガゼボで、久しぶりにお会いしたコンラート様は、少しお疲れのご様子で、忙しくて結婚の準備を任せきりにしてしまって申し訳ないと、会う時間も取れなくてすまないと、謝罪してくださいました。

彼を疑ってしまっていた私は、何だか申し訳ない気持ちでいっぱいでしたわ。謝罪までさせてしまって。

なのに、その直後あんな事になるなんて…。

庭園の入り口辺りが何か騒がしくなってきたので、どうしたのかしら?と、そちらを伺っておりましたら、若い女性がこちらへ向かって駆けて来ているのが見えます。
どなたでしょう?
嫌な予感しかしません。
心配になってコンラート様の顔を見ました。
そのお顔は、とても悲しげに見えます。

と、次の瞬間、
「コンラート!!」
駆けて来ていた女性が、泣きながら彼の腕の中に飛び込み、胸に顔を埋めて泣きじゃくっていました。

その光景に、私の思考回路は停止した様になり、何が起こったのか、理解出来ませんでした。
口は辛うじて開くものの、言葉が出てきません。
胸が、沢山の針を一斉に刺されたかのごとく、酷く痛み、着ていたドレスの胸の所を、皺になる程握っていました。

彼女を抱き締め、その頭に頬を寄せていたコンラート様。
どのくらいの時間そうしていたでしょう。
長かった様でもあり、短かった様でもありました。

やがて彼は、私を見ると
「近いうちに機会を設けるから、今日のところは帰ってくれないか。」
と言われました。

私は、涙が溢れそうなのを堪え、声の震えを抑えながら、その場から辞去したのでした。

帰りの馬車の中では、涙を堪える事が出来なくて、後から後から溢れてきました。
そして、帰り着くなり自室に篭り、夕食も食べずに、いつの間にか泣きつかれて眠ってしまったのでした。

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