心乱れて

雫喰 B

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27.モーリス卿の報告と父と父

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*いつもお読みいただきありがとうございます。
*今話中、暴力シーン等あります。
 苦手な方は全力で回避願います。
 読まれる方は自己責任でお願いします。


~~~~~~~~~~~~

 天幕内には全員が座れる椅子もテーブル無い為、立ち話となる。

 南部辺境伯であるライアンの父、セドリックが問う。
「何故、斯様な事になったのだ?」

 ライアンは拳を握り項垂れていたが、顔を上げて言った。
「魔獣の数も多く、リーダー格の魔獣が群れを率いており、統率された動きに苦戦を強いられました。」

 それを聞いた合流組の間でざわめきが広がる。
 
 セドリックは顎髭に手を当て、撫でながら何やら思案しているようだった。

 東部辺境伯であるリカルドが
「そのような話は聞いた事もない。何かの間違いではないのか?」

「いいえ、間違いではありません。現に防御陣を敷いた我々に波状攻撃を掛けてきました。しかもそれを撃退した後に、リーダー格の魔獣が率いる本隊が出てきたのです。」

「…なんと!」
 北部辺境伯であるオルカリオンが、驚きを隠せないとばかりに言う。

 そして、苦渋に満ちたライアンの報告が彼等に更なる驚きを齎した。

「リーダー格の魔獣は、今まで見た事の無いキメラと呼ばれている種類の大きな魔獣でした。ニア…カーネリアン辺境伯令嬢の話では少なくとも三種類以上の魔獣の特性を持っていると…。」

「「「「「!?」」」」」

「「それはまことか!!」」
セドリックとオルカリオンの言葉に、眉間に皺を寄せたライアンが頷く。

 天幕内は水を打ったように静まり返った。

 そんな中、更にライアンが言った。
「…その魔獣は人語を解し…口角を上げ笑ったのです。」

「「「「「!?」」」」」

「まさか…そんな…。」
 顔色を無くしたオルカリオンが呟く。

「どういう事なんだ?」

 片眉を上げたセドリックがリカルドを見た。
「リカルド殿の所には、そういった文献は遺されておらんのか?」

「え?そのような物は遺されていない。そうだな、ディーン、モーリス…。」
「少なくとも私が知っている限りでは聞いた事はありません。」
「私も同様です。伯父上。」

 セドリックとオルカリオンは顔を見合わせ、頷き合った。

 そして、それぞれの家に古くから伝わる文献の魔獣について記述されている内容を掻い摘まんで話した。

「なんと!そのような物が……。」
 東部辺境伯家にはその様な文献は遺されておらず、リカルドは驚くばかりであった。

「さもあらん。前回は東部には魔獣が出なかったらしいからのぉ…。だが、オルカリオン殿の所には南部よりも詳しい記述があるのには驚いたがな。」

 苦笑しながらも娘と甥の事を聞きたいオルカリオンが話を戻した。

「キメラが出た後、どうなったのだ?」

「キメラが出た後……。」
 ライアンが言い淀む。

「そこから後は私が…。」
 モーリスは了解を得るようにライアンを見る。 
 彼が頷いたのを受けてモーリスが報告する。

 だが、ライアンがラフレシアを守り、ニアがライアンを庇って魔獣の攻撃を受けたと聞いた直後、

「「…こ…ンの、戯け者がぁッ!!」」

 ライアンはセドリックとオルカリオンの鉄拳を左右から食らう。
 傍にいた者達が即座に二人を止めた。

 ライアンの体は吹き飛びはしなかったが、衝撃でフラついている。

 だが、彼の悲劇はこれで終わりでは無かった。

 撤退時のライアンとラフレシアの遣り取りから現場の混乱を収める為、モーリスに麻酔針を使用されたとは雖も、ニアを置き去りにしたと知った二人から、

「このクズがッ!!」
「このカスがッ!!」

 と、またもや左右から鉄拳を食らい、フラついた所へアレクサンデルのハイキックが顔面にクリーンヒットした。

 気絶してそのまま白目を剥いて後ろに倒れた息子を見下ろし、大きく舌打ちしたセドリックが
「空いている天幕に閉じ込め、一歩たりとも外へ出すな!!」
 と命じた。事実上の謹慎である。

 命じられた騎士達が、いそいそとライアンを運び出して行った。

 オルカリオンの前に跪き、頭を垂れたセドリックは言った。

「腑甲斐ない息子で申し訳ない。今はご息女と甥御殿、取り残された者達の救出が先。アレの処分は事が終わり次第、貴殿に任せる。本当にすまぬ…申し訳ない。」
「…どうか…頭を上げて下され。二人共、カーネリアン家の血筋に生まれた以上、教えに殉ずる覚悟はあった筈。今は取り残された者達の無事を祈り、夜が明ければ救出に向かいましょう。」

 そう言ってセドリックに手を差し伸べた。

「…かたじけない。」
 オルカリオンの手を取り立ち上がるセドリック。

 その光景を冷ややかな目でリカルドが見ていた事など二人は気付いていなかった。

 そしてリカルドも、少し後ろにいたディーンが不安げに見ていた事を知らなかった。

 
~~~~~~~~~~~

*お気に入り、しおり、エール等本当にありがとうございます!
 
 
 

 




 
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