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tu fui, ego eris
duodeviginti
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サイラスは天弥を見つめる。
「せやけど、俺が誰なんか知りたい……これも本当や……」
もしも、自分がどこの誰だか分からなければ苦悩は大きいだろう。救いを差し伸べてくれた相手に依存してしまうのも分かる。もし、サイラスが手を引く選択をしてくれるのなら、それはとても助かることだ。だが、選択を強制させたくはない。
「天弥……」
斎が天弥を促すように声をかける。天弥はため息を一つ吐く。
「サイラス! 何をしている!」
急かすように声をかけられ、サイラスは天弥の腕を掴む。
「俺……選べんわ……」
天弥の腕を掴んだまま羽角たちの元へ戻ろうとするサイラスを、斎は手を伸ばし止める。素直に足を止めたサイラスの横を通り過ぎ、天弥は羽角たちの元へ向かって歩き出した。
「天弥?」
サイラスが疑問を向ける。
「僕、さっさと終わらせたいんですよ」
天弥の腕を掴んだままのサイラスも共に足を踏み出す。その後を、斎が付いて行った。羽角と胡桃沢の前で足を止める。サイラスと斎も共に足を止めた。
「少し黙っていてくれませんか?」
羽角の表情は変わらなかったが、胡桃沢の表情は少し興味深げなものになる。天弥は振り返りアイラスを見た。
「貴方は、父親に片思いをしていた女性に誘拐されました」
さすがに、羽角の表情も少し変化する。
「その女性は、貴方をニューヨークで捨てたと嘘の証言をし、ボストンは捜索から外されました」
知りたいと願ったことが語られていく。
「貴方がいない場所を、貴方のご両親はずっと探しています」
「俺を誘拐ってなんのメリットが……?」
疑問を口にする。
「大切な子供を攫った相手のことは忘れないでしょう?」
「それだけのために……?」
「そうですね。嘘の居場所を教えた後、その女性は貴方の父親の目の前で自殺していますし……」
乾いた笑いがサイラスの口をついて出る。そんなことのために、ひもじさや寒さに震えることになったのだ。サイラスには理解できることではなかった。もし、羽角に拾われなければ、今頃は死んでいたかもしれないのだ。
「これで満足ですか? お望みなら、自宅近くまで送りますよ?」
サイラスは天弥の腕から手を離す。
「いや。ええわ」
なにかを吹っ切ったような表情が浮かぶ。捨てられたのでなければ、それで良いと思う。そして、助けてくれた羽角にやはり恩を返したい。だが、そうなると天弥を騙したみたいなことになってしまう。天弥は取引をしなかった。斎のおかげなのかもしれないが、すんなりと経緯を教えてくれたのだ。
「勘弁してな。マジで騙すつもりは無かったんや……」
サイラスは言葉が終わるか終わらないかというタイミングで、斎の背後に回り込み、羽交い締めにする。天弥は軽くため息を吐く。
「せやけど、俺が誰なんか知りたい……これも本当や……」
もしも、自分がどこの誰だか分からなければ苦悩は大きいだろう。救いを差し伸べてくれた相手に依存してしまうのも分かる。もし、サイラスが手を引く選択をしてくれるのなら、それはとても助かることだ。だが、選択を強制させたくはない。
「天弥……」
斎が天弥を促すように声をかける。天弥はため息を一つ吐く。
「サイラス! 何をしている!」
急かすように声をかけられ、サイラスは天弥の腕を掴む。
「俺……選べんわ……」
天弥の腕を掴んだまま羽角たちの元へ戻ろうとするサイラスを、斎は手を伸ばし止める。素直に足を止めたサイラスの横を通り過ぎ、天弥は羽角たちの元へ向かって歩き出した。
「天弥?」
サイラスが疑問を向ける。
「僕、さっさと終わらせたいんですよ」
天弥の腕を掴んだままのサイラスも共に足を踏み出す。その後を、斎が付いて行った。羽角と胡桃沢の前で足を止める。サイラスと斎も共に足を止めた。
「少し黙っていてくれませんか?」
羽角の表情は変わらなかったが、胡桃沢の表情は少し興味深げなものになる。天弥は振り返りアイラスを見た。
「貴方は、父親に片思いをしていた女性に誘拐されました」
さすがに、羽角の表情も少し変化する。
「その女性は、貴方をニューヨークで捨てたと嘘の証言をし、ボストンは捜索から外されました」
知りたいと願ったことが語られていく。
「貴方がいない場所を、貴方のご両親はずっと探しています」
「俺を誘拐ってなんのメリットが……?」
疑問を口にする。
「大切な子供を攫った相手のことは忘れないでしょう?」
「それだけのために……?」
「そうですね。嘘の居場所を教えた後、その女性は貴方の父親の目の前で自殺していますし……」
乾いた笑いがサイラスの口をついて出る。そんなことのために、ひもじさや寒さに震えることになったのだ。サイラスには理解できることではなかった。もし、羽角に拾われなければ、今頃は死んでいたかもしれないのだ。
「これで満足ですか? お望みなら、自宅近くまで送りますよ?」
サイラスは天弥の腕から手を離す。
「いや。ええわ」
なにかを吹っ切ったような表情が浮かぶ。捨てられたのでなければ、それで良いと思う。そして、助けてくれた羽角にやはり恩を返したい。だが、そうなると天弥を騙したみたいなことになってしまう。天弥は取引をしなかった。斎のおかげなのかもしれないが、すんなりと経緯を教えてくれたのだ。
「勘弁してな。マジで騙すつもりは無かったんや……」
サイラスは言葉が終わるか終わらないかというタイミングで、斎の背後に回り込み、羽交い締めにする。天弥は軽くため息を吐く。
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