apocalypsis

さくら

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tu fui, ego eris

quindecim

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「先生?」
 戻ってきた斎に、天弥が声をかけた。
「戦う気は無いらしい……」
 戦うことになったとしても、不利なのは変わらない。ただ、向こうも守らなければならない事物が居る。その分、不利になるのは間違いない。
「先生。あの二人を幻夢鏡へ送ろうかと思うんです」
 斎は天弥を見て少し考え込む。
「どこにだ?」
「セレネル海のど真ん中とか?」
 確かに海上に放り出されたら、ほぼ、その場で終わりだろう。
「それとも、魔法の森の地下の方が良いでしょうか?」
 少し、嬉しそうな顔をする。
「ガグの好物は夢見る人だからな……」
 現実味が無く、斎にはあまり不謹慎な感じが湧き上がってこなかった。
「先生の言う通り、幻夢鏡へ送った方が良さそうですよね」
 幻夢境やドリームランドと呼ばれてはいるが、けして夢のような場所ではない。覚醒世界と言われる現実世界よりも危険は多いのだ。
「良いのか?」
 ただ一つ、曲がりなりにも天弥の祖父だ。後で後悔することにならないのかが不安要素としてある。
「なにがですか?」
「一応、お前の祖父だろう?」
「そうですが、それがなにか?」
 斎がサイラスたち三人へ視線を向ける。話し合いでもしている様子だ。
「いや。お前が後悔しないのなら、それで良い」
「僕は、あの二人に後悔をさせたいんです」
 天弥は三人へ視線を向ける。そして、意を決したように足を踏み出した。斎は黙ってその後に続く。同じ用に、三人も天弥に向かって歩き出した。まずは、サイラスが天弥に近づいてきた。
「悪いんやけど、捕まえてこいって言われてな……」
 天弥に向かって手を差し出しながら近づいてくる。だが、天弥は特に警戒する様子も無かった。
「大人しく捕まってくれへん?」
 後少しで手が届くという距離まで近づいてきた。天弥は構わず歩みを進める。天弥の腕を掴もうとサイラスの手が伸びた。その途端、サイラスは読みに飲み込まれた。
「あれ?」
 いつの間にか天弥の背後に居た。サイラスが振り返り、天弥の後ろ姿に視線を送る。
「そういえばそうやったな……」
 再び、サイラスは天弥に向かって手を伸ばそうとする。
「今度は、地球の裏側にでも送りましょうか?」
 振り返りもせず、天弥はサイラスに警告を発する。
「そんなん言われても、俺に色々と都合があるんやで」
 警告に構わず、サイラスは天弥の腕を掴んだ。瞬間、サイラスの姿が再び闇に包まれ消える。
「地球の裏側へ送ったのか?」
「いえ、そこの部屋の中にですよ」
 すぐそこのマンションを見上げながら答える。それを聞き、斎は安堵した。だがすぐに黒い影が空より降りてくる。バイアキーに掴まって降りてきたサイラスが、また天弥の前に降り立つ。
「地球の裏側や無かったで。まぁ、どこに飛ばされてもすぐに戻って来られるんやで?」
 確かに、バイアキーがいれば、地球上でなくても戻って来られるだろう。これは、星間移動をするものだ。
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