apocalypsis

さくら

文字の大きさ
上 下
212 / 236
tu fui, ego eris

unus

しおりを挟む
 意識を失っている天弥の身体を抱きしめながら、斎は今までの情報を整理していた。あたりが夜の帳に包まれていることにも気が付かずに入ると、何度か重いものを落としたような水音が聞こえていたことに気がつく。また、音がして視線を向ける。そこには、教団の信者たちがまだおり、嘆き悲しみながら空を仰いでいる。信者はなにかに絶望したようにふらりと立ち上がり歩き出す。柵に歩みを止められると、力なくよじ登り超える。そのまま進み続けようとするが、重力に引かれ真っ直ぐに海面hと落ちていった。遅れて、落下を知らせる水音が響く。
 その様子を確認し、落下の水温を聞いても斎は動けなかった。何度も天弥と唇を合わせ、その度に気力も体力も根こそぎ奪われている。そして、もう何度目なのか忘れたが、また唇を合わせる。今までと同じく、気力も体力も奪われていくが、未だ天弥は意識を取り戻さない。限界を超えたのだろうと簡単に予想がついた。せめて意識だけでも戻ってくれればと願うが、それは叶わなかった。力が抜け、抱きしめている天弥の身体から落ちていきそうになる腕に力を込める。
「天弥……」
 呼びかけるが、やはり反応はない。どのみち、明日になって救援が来るまで、ここから移動はできないのだ。天弥は暖かく、呼吸もしている。なのになぜ目覚めないのか。以前は、一度のキスで目覚めた。今回は、それだけ消耗が激しかったのだろう。無理をさせたことを悔やむ。他に方法は無かったのかと何度も自問する。
 夜が更け、どこか室内へ移動しようとようやく思考が巡ってきた。このまま夜の海風に天弥の身体を晒したくなかったのだ。対録は回復している。気力もだ。斎は天弥の身体を抱き上げた。相変わらず軽い。あまり天弥の身体を揺らさないようにゆっくりと歩く。
 まだ十六歳の子供にさせようとしていることが予想通りなら、天弥は居なくなってしまうのではないかと不安が胸を過る。本来の天弥は、ハッキリと拒否をした。だが、由香子の方は分からない。天弥のように拒否を出来るのか。
 エスカレータに辿り着くが、もちろん動いてなどいない。斎は階段を降りていく。下の階に辿り着き、飲食店の中へ入る。机も椅子も吹き飛ばされたかのように室内に散らばっている。かろうじて転がっていない机を見つけ、天弥の身体をそこに置いた。手短に転がっている椅子を手にし、天弥を寝かせた机の直ぐ側に座る。
 体力も気力も回復しているはずなのに、激しい眠気が襲ってくる。流石に、精神的に限界なのだろうというのは自覚していた。必死に抵抗をするが、ゆっくりとまぶたが閉じられていく。椅子に座ったまま意識を失うように眠りに落ち、頭がガクリと項垂れた。
しおりを挟む

処理中です...