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alea jacta est
viginti octo
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「それなら、階段のところで会ったが?」
サイラスが驚いたような表情を斎に向けた。
「ハズミから逃げたんか?」
「そうだが、なにか変なのか?」
サイラスは首から服の中に手を入れ、金色の鎖を引きずり出す。
「ハズミも同じもんを持っとるから、天弥はともかく先生には効くはずなんやけど……」
胡桃沢がサイラスに近づく。
「エルダーサインかの? 初めて見るのぉ」
まじまじとサイラスの首から下がっているエルダーサインを見つめた。
「逃げたのは天弥で、俺はなにもしていない」
納得したような表情に変わり、サイラス軽く頷く。
「それやったら、まぁ納得やな」
胡桃沢がサイラスのエルダーサインに触れようとした瞬間、素早くその手を払う。
「触らせてくれんのかのぉ?」
当然と言わんばかりの表情と視線を胡桃沢へ向ける。
「ほな、俺はハズミを迎えに行ってくるわ。また後でな」
軽く手を上げ、サイラスは三人に背を向け走り出す。階段の出入り口かとは反対方向、木更津側とは言え、広くはない場所なのですぐに探し人は見つかるだろう。問題は、見つけ出した相手を連れてこられたときだ。その前に、なんとかこの状況を治めなければならない。
斎は天弥を見る。天弥は視線に気が付き、軽い微笑みを返す。これから天弥に試みて貰うことは、成功するのか失敗するのか分からない。しかもどれだけの負担があるのかも検討がつかない。それでも、斎は天弥に実行を頼むことしか思いつかなかった。
「天弥……」
思いつめたような表情を浮かべる斎を、不安そうな表情で天弥が返す。
「あの二柱の神をどこかへ飛ばせるか?」
天弥は神々が争う場所を見つめる。
「分かりません……」
当然の答えだと斎は納得する。
「放おって置いてもいいんじゃないかのぉ?」
胡桃沢が提案するように斎に話しかけてきた。
「神とは言え、永遠に争い続けていられる訳でもないじゃろう?」
「それはそうかもしれませんが……」
実際、南極の争いは一週間以上も続いていた。この場所で、この規模で、一週間も争いが続けば首都圏が壊滅状態になるのは嫌でも分かる。
「これは、わしと羽角が起こしたことじゃ。御神本くんには何の責任も無いし、君が背負うことではないのじゃよ」
責任がどうこうではなかった。天弥が関わっているというか、中心に居ることが問題なのだ。すべてを解決して天弥を何の憂いも無い状態にしてやりたいのだ。だが、そのためには天弥を危険に晒さなくてはならず。ジレンマに襲われる。
「先生、僕……やってみます」
意を決したような天弥の表情と声音に、斎の心中は複雑な思いで満ち溢れる。二人は揃って神々を見る。ハスターに引きずり出されるように、クトゥルーの身体が海上に出ている。それは蛸にも似た身体に蝙蝠の羽のようなものがある。
サイラスが驚いたような表情を斎に向けた。
「ハズミから逃げたんか?」
「そうだが、なにか変なのか?」
サイラスは首から服の中に手を入れ、金色の鎖を引きずり出す。
「ハズミも同じもんを持っとるから、天弥はともかく先生には効くはずなんやけど……」
胡桃沢がサイラスに近づく。
「エルダーサインかの? 初めて見るのぉ」
まじまじとサイラスの首から下がっているエルダーサインを見つめた。
「逃げたのは天弥で、俺はなにもしていない」
納得したような表情に変わり、サイラス軽く頷く。
「それやったら、まぁ納得やな」
胡桃沢がサイラスのエルダーサインに触れようとした瞬間、素早くその手を払う。
「触らせてくれんのかのぉ?」
当然と言わんばかりの表情と視線を胡桃沢へ向ける。
「ほな、俺はハズミを迎えに行ってくるわ。また後でな」
軽く手を上げ、サイラスは三人に背を向け走り出す。階段の出入り口かとは反対方向、木更津側とは言え、広くはない場所なのですぐに探し人は見つかるだろう。問題は、見つけ出した相手を連れてこられたときだ。その前に、なんとかこの状況を治めなければならない。
斎は天弥を見る。天弥は視線に気が付き、軽い微笑みを返す。これから天弥に試みて貰うことは、成功するのか失敗するのか分からない。しかもどれだけの負担があるのかも検討がつかない。それでも、斎は天弥に実行を頼むことしか思いつかなかった。
「天弥……」
思いつめたような表情を浮かべる斎を、不安そうな表情で天弥が返す。
「あの二柱の神をどこかへ飛ばせるか?」
天弥は神々が争う場所を見つめる。
「分かりません……」
当然の答えだと斎は納得する。
「放おって置いてもいいんじゃないかのぉ?」
胡桃沢が提案するように斎に話しかけてきた。
「神とは言え、永遠に争い続けていられる訳でもないじゃろう?」
「それはそうかもしれませんが……」
実際、南極の争いは一週間以上も続いていた。この場所で、この規模で、一週間も争いが続けば首都圏が壊滅状態になるのは嫌でも分かる。
「これは、わしと羽角が起こしたことじゃ。御神本くんには何の責任も無いし、君が背負うことではないのじゃよ」
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「先生、僕……やってみます」
意を決したような天弥の表情と声音に、斎の心中は複雑な思いで満ち溢れる。二人は揃って神々を見る。ハスターに引きずり出されるように、クトゥルーの身体が海上に出ている。それは蛸にも似た身体に蝙蝠の羽のようなものがある。
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