apocalypsis

さくら

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alea jacta est

viginti septem

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「俺が触っていなければいいのか?」
 天弥が頷く。斎は手にしたタバコの箱を下に置こうとしたが、この強風ではすぐにでも吹き飛ばされてしまうと思い直し、今度はジッポを手にする。これなら、タバコよりは持ちこたえそうだと思ったのだ。ゆっくりと手にしたジッポを下に置いた。タバコよりは重みがあるが、それでも強風に煽られ置いた場所からずるずると移動をしていく。それを斎は目で追っていたが、急に闇に包まれたと思うとその場から消えてしまった。
「天弥?」
 成功したのかと視線を向けると、天弥が胸の前で合わせていた両手を差し出した。ゆっくりと開かれた手のひらには、斎のジッポがあった。
「たぶん、壊れてないと思います……」
 差し出されたジッポを受け取り見つめる。壊れていたとしても構わなかったのだが、きれいな状態で元通りの姿のままであることを確認する。
「座標移動……」
 胡桃沢も、受け取ったジッポを見つめる。
「そのようじゃのぉ」
 揃って天弥を見る。
「それで、どちらにするんじゃ?」
 斎は、狂喜に湧く人の輪を見つめる。人命優先と思えば、まずはこれらの人々を移動させるのが先かと考える。しばらく、神々の決着は付かないだろうと思える様子なのだ。だが、小さな物で成功したとは言え、人に対してはどうなのか。また、天弥はどれだけの人を移動させることが出来るのかが分からない。もし間違えれば、多くの人を犠牲にすることになるのだ。
「あれ? 天弥やん。どないしたんや?」
 聞き慣れた声が聞こえ、三人は揃って声がした方へ視線を向けた。
「サイラスくん!」
 嬉しそうに天弥が現れた人物の名を呼ぶ。
「こんな所でなにしとんのや?」
「あその人たちを避難させたいんだが……」
 視線を移した斎に釣られ、サイラスも同じく視線を移す。
「あーあいつらは、絶対にここから動かへんで」
 天弥と胡桃沢も視線を移す。吹き飛ばされながらも必死でその場に留まろうと戻ってくる。何度もそのようなことを繰り返している様子を見て、斎はあることに気がついた。
「なぜ、こことあそこでは風の強さが違うんだ?」
「そんなん、天弥がおるからやろ」
 斎が天弥を見る。どれだけの秘密と謎があるのか。今のこの状況になっても斎だけが何も知らないに等しいのだろうと感じた。
「そういえば、頼んだことは大丈夫なのかのぉ?」
「あーまぁ、大丈夫なんとちゃう? ここに残るって煩かったから、ちょっと意識を無くしてもろたし……」
「それは手間をかけさせたのぉ」
 天弥の義理の母親のことだろうとすぐに予想が付いた。
「信者なんてみんな放っておけばええのに」
「そうもいかんくてのぉ……」
 サイラスは軽くため息を吐いたのち、胡桃沢を見る。
「そんで、ハズミはどこや?」
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