apocalypsis

さくら

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alea jacta est

viginti quinque

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「そういえば、サイラスくんは?」
 サイラスもここに向かったことを思い出した天弥が尋ねる。
「彼も雑用じゃのぉ」
「雑用ってなんですか?」
 斎が疑問を投げかける。
「彼の場合は邪魔者を排除じゃな。楽しそうだったわい」
「邪魔者……?」
 胡桃沢が頷く。
「海の者たちも来ておるでのぉ」
「Deep One……」
 サイラスが持っていたエルダーサインを思い出す。とても不快な想いをしたのはなぜか。危険が迫っているような気がしたのはなぜか。もしかすると、斎自身が深きものどものような存在になってしまったのかと考えるが、答えを出すには足りない情報が多すぎた。
「教授は……?」
「あそこから一人、助け出さなくてはならなくてのぉ」
 斎は、教授が言う人々の輪を見る。
「誰をですか?」
「成瀬美奈さんじゃ」
「成瀬……?」
 斎は一人の女声を思い浮かべる。それは、今現在、天弥の母親となっている女性だ。
「お母さん?」
「そうじゃ。成瀬くんに頼まれておってのぉ」
 天弥が、不思議そうに小首を傾げて自分を指差す。
「崇禎くんの方じゃ」
「お父さん?」
 胡桃沢が頷く。
「彼女も可哀そうでのぉ……」
 胡桃沢が軽くため息を吐く。
「任務のために夫と離婚させられ、成瀬くんと再婚させられたんじゃ」
「え?」
 驚き目を丸くして天弥は胡桃沢を見た。家族は関係ないと思い、特に知ろうとしなかったのだ。
「では、今の天弥の母親も教団の人間ということですか?」
「そうじゃ」
 天弥の身体が小刻みに震えている。
「お父さんは?」
「もう、分かっておるじゃろ?」
 一瞬、間を置いて天弥が頷いた。
「お父さんも、望みを叶えたいの?」
「成瀬くんの望みはすでに叶っておるからのぉ……」
 どれだけ、秘密や謎があるのかと斎は先の見えない状況を憂う。考え込む斎を強風が煽る。海上の遥か高みで風が渦巻、収束していく。それは徐々に形をなしていった。
「黄衣の王……?」
 古く劣化したような黄色の衣を纏っている姿が現れる。その存在に向かい、海の中から多数の触手がスピードを伴って伸びていく。触手には吸盤が幾つも見られ、それはクトゥルーであろうと予想が付いた。黄衣の王に絡みつく触手に、それを切り刻む風が繰り返される。その度に、強風と荒れた高波が襲ってくる。それは、台風で言えば猛烈な超大型の台風のような激しさだ。それが、局地的に起こっているのだから、ここもすぐに危険になるのは予測できた。
 二柱の神にとっては、周囲のことなど、とるに足らないことなのだろう。互いに相手しか目に入らず、ひたすら互いの存在だけしか興味が無いようであった。敵対する神を呼んだのは仕方がなかった。神に対抗できるのは神しか居なかったのだ。
「コモちゃん。お父さんもここに居るの?」
「いや。成瀬くんは教団の人間じゃないからのぉ」
 それでも、全てを知っているのだろうと聞いた話から斎が推測する。
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