203 / 236
alea jacta est
viginti duo
しおりを挟む
「それは、どういうことだ?」
天弥が話してくれたことが全てではないことは分かっていたが、まだ考え対処できることばかりだったため、軽く考えていた感じがあったことを深く悔やむ。天弥から全て聞いておくべきだった。そうすれば、このような不意打ちは無かった。
「えっと……それは……」
天弥は困ったように言葉が詰まる。
「由香子。お前が居なければ長くは持たないというのに、なぜ固執するのだ?」
キッとした強い視線を天弥は羽角へ向ける。
「だって天弥は!」
実感などなにもない。それでも、関係性を知ったときから犠牲にするという選択肢は無かった。そのため、二度と出てこないようにとしたのだが、なぜかまた表に出てきている。
「天弥は……」
すでに斎は知っているのだが、それでも続きを言うことが出来なかった。
「状況は分からないが、天弥は嫌がっている。諦めてくれないか?」
助け舟を出すように斎は背後の天弥を庇う。
「先生……」
天弥を守るように目前に立ちはだかっている斎の顔を見上げた。
「お父さん……? ごめんなさい」
天弥の言葉が言い終わると同時に、黒い闇が二人を包み込む。羽角が気がついたときには闇が収束し、二人の姿が消えた。
一瞬前までは、たしかに羽角恭一郎が目の前に居た。まるで、まばたきをする瞬間にかき消えたように、その姿が無くなった。
「天弥……?」
斎は、背中にすがりついている天弥に視線と疑問を投げかける。
「あ、海ほたるからは出ていません」
「そうか」
理由を理解した斎は、前方へ視線を戻す。そう広いところではないため、意図せずまた出くわすこともある。そう考えるとこのままジッとこの場所に居るのは不安だった。
「ここに居ても仕方がない。召喚場所を探しに行く」
すでに召喚はされている。そのために海の神を呼んだ。だが、それで片がつくとも思えなかった。
「はい」
歩き出した斎の後を付いていく。空を切り裂くような音が聞こえ、二人は揃って音がする方を見る。一筋の直線が見え、それは光ではなく、流動する空気があまりにも速度が早いため線を描いているように見えた。
「あっちだ」
斎が走り出し、天弥はその後を追う。その先には、大きく円を描くように配置されたような人々が見て取れた。その中心で何かが蠢いている。斎は足を止めると天弥の視界を塞ぐように抱きしめた。
「見るな」
時すでに遅く、人垣の円の中心にあるものを天弥も視界に写してしまっていた。
「あれは……?」
おそらくは、元人間だったものだと天弥は理解する。身体は胴から真っ二つにされ、周囲には血と肉片、内臓と思われるものが飛び散っていた。それを取り囲むように居る周囲の人間たちは、血しぶきを浴びながら恍惚とした表情を浮かべている。
天弥が話してくれたことが全てではないことは分かっていたが、まだ考え対処できることばかりだったため、軽く考えていた感じがあったことを深く悔やむ。天弥から全て聞いておくべきだった。そうすれば、このような不意打ちは無かった。
「えっと……それは……」
天弥は困ったように言葉が詰まる。
「由香子。お前が居なければ長くは持たないというのに、なぜ固執するのだ?」
キッとした強い視線を天弥は羽角へ向ける。
「だって天弥は!」
実感などなにもない。それでも、関係性を知ったときから犠牲にするという選択肢は無かった。そのため、二度と出てこないようにとしたのだが、なぜかまた表に出てきている。
「天弥は……」
すでに斎は知っているのだが、それでも続きを言うことが出来なかった。
「状況は分からないが、天弥は嫌がっている。諦めてくれないか?」
助け舟を出すように斎は背後の天弥を庇う。
「先生……」
天弥を守るように目前に立ちはだかっている斎の顔を見上げた。
「お父さん……? ごめんなさい」
天弥の言葉が言い終わると同時に、黒い闇が二人を包み込む。羽角が気がついたときには闇が収束し、二人の姿が消えた。
一瞬前までは、たしかに羽角恭一郎が目の前に居た。まるで、まばたきをする瞬間にかき消えたように、その姿が無くなった。
「天弥……?」
斎は、背中にすがりついている天弥に視線と疑問を投げかける。
「あ、海ほたるからは出ていません」
「そうか」
理由を理解した斎は、前方へ視線を戻す。そう広いところではないため、意図せずまた出くわすこともある。そう考えるとこのままジッとこの場所に居るのは不安だった。
「ここに居ても仕方がない。召喚場所を探しに行く」
すでに召喚はされている。そのために海の神を呼んだ。だが、それで片がつくとも思えなかった。
「はい」
歩き出した斎の後を付いていく。空を切り裂くような音が聞こえ、二人は揃って音がする方を見る。一筋の直線が見え、それは光ではなく、流動する空気があまりにも速度が早いため線を描いているように見えた。
「あっちだ」
斎が走り出し、天弥はその後を追う。その先には、大きく円を描くように配置されたような人々が見て取れた。その中心で何かが蠢いている。斎は足を止めると天弥の視界を塞ぐように抱きしめた。
「見るな」
時すでに遅く、人垣の円の中心にあるものを天弥も視界に写してしまっていた。
「あれは……?」
おそらくは、元人間だったものだと天弥は理解する。身体は胴から真っ二つにされ、周囲には血と肉片、内臓と思われるものが飛び散っていた。それを取り囲むように居る周囲の人間たちは、血しぶきを浴びながら恍惚とした表情を浮かべている。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
月のない夜 終わらないダンスを
薊野ざわり
ホラー
イタリアはサングエ、治安は下の下。そんな街で17歳の少女・イノリは知人宅に身を寄せ、夜、レストランで働いている。
彼女には、事情があった。カーニバルのとき両親を何者かに殺され、以降、おぞましい姿の怪物に、付けねらわれているのだ。
勤務三日目のイノリの元に、店のなじみ客だというユリアンという男が現れる。見た目はよくても、硝煙のにおいのする、関わり合いたくないタイプ――。逃げるイノリ、追いかけるユリアン。そして、イノリは、自分を付けねらう怪物たちの正体を知ることになる。
ソフトな流血描写含みます。改稿前のものを別タイトルで小説家になろうにも投稿済み。
甘いマスクは、イチゴジャムがお好き
猫宮乾
ホラー
人間の顔面にはり付いて、その者に成り代わる〝マスク〟という存在を、見つけて排除するのが仕事の特殊捜査局の、梓藤冬親の日常です。※サクサク人が死にます。【完結済】
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
幽霊屋敷で押しつぶす
鳥木木鳥
ホラー
怨霊や異界の神が跋扈し、それら化外が引き起こす祟りが災害として頻発する世界。
霊を祓う「祓い師」の庚游理。彼女はただの地縛霊の除霊を「うっかり」古の邪神討伐にスケールアップさせてしまう「藪蛇体質」の持ち主。
破格の家賃と引き換えに「人を喰う」幽霊屋敷「裏内屋敷」にひとり住む游理は、ある夜布団の中からあらわれた少女「裏内宇羅」に首をねじ切られる。そして学園百合ラブコメ空間に転生した。
怨嗟妄念から生まれる超常の存在「幽霊屋敷」
成り行きでその一部となった游理は、様々な「幽霊屋敷」と遭遇していく。
これは千の死を千の怨嗟で押しつぶす物語。
(「カクヨム」様及び「小説家になろう」様にも投稿させていただいております)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる