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alea jacta est
quindecim
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「わしには、あの本を手に入れても活用できるような才覚は無かったからのぉ……。すべてを羽角に押し付けたってことになるのぉ」
左側に傾いている車を慎重に運転しながら、胡桃沢の話を聞く。
「わしには、思いもつかんことで望みを叶えようとするのを見てると、あのときの選択は間違っておらんかったと思うのじゃ」
助手席の窓に顔を向け、胡桃沢が語った。表情を見られたくなかったと斎はそう察した。
「望みってなんですか?」
純粋な疑問を投げかける。
「前に話したじゃろ?」
胡桃沢と話したことを記憶から漁っていく。
「もしかして、知の探求者のようなことですか?」
「そうじゃ」
高速道の入口が見え、そこへと向かう。だが、この車で高速道路を走れるのかが謎である。首都高内ならいけるだろうが、アクアラインでは厳しいと思える。だが、普通に行けばかなりの時間を要することも理解していた。
「あれは……羽角恭一郎のことなのでは……?」
窓の外を向いている胡桃沢がため息を吐いたように思えた。
「同じじゃよ。わしも羽角もゲーテと同じじゃ」
胡桃沢が語る欲求については、とてもよく理解できた。己自身ですべてを叶えるのなら、それはむしろ賛同できることだ。だが、他に害が及ぶのなら容認できることではなかった。
「そのために、天弥に何をさせようとしてるのですか?」
以前、胡桃沢が言っていた、アザトースの召喚というのは、おそらく違うのだろう。間違っていないとしたら、斎に伝えるはずは無いのだ。もしかすると、なにか不足の事態になることもあり得るからだ。
「教えると思うのかのぉ?」
「いえ……」
予想通りの答えが返ってくる。
「それなら、今回の召喚はなにか関係があるのでしょうか?」
胡桃沢と羽角の望みとは結びつかない。
「闇の神との約束があるからのぉ……」
「混沌と破壊……ですか?」
神の望むものを叶えるために必要なのだろう。だが、そこまでして叶えたい望みなのかは、斎には分からなかった。どれほどの被害が出るのか……予想も付かないのだ。
「契約を履行できなかったら、どうなるのですか?」
止められるものなら止めたいと思うが、そうすることでなにが起きるのかが分からず訪ねてみる。最悪、世界滅亡というのも、あながち冗談ではなくなる。
「そうさのぉ……。わしと羽角の望みが叶わなくなるぐらいかのぉ……」
「それなら契約を解除しても……」
「すまないが、どれだけ被害が出ようとも叶えたい望みなんじゃよ。わしも羽角も……」
どれだけの混沌と破壊を望んでいるのかは分からないが、少なくとも、胡桃沢と羽角が望むものと引き換えにしても良いものではない。
「契約が不履行になったら、胡桃沢斉彬もハズミも居なくなるってことや……」
背後から、サイラスの声が聞こえてきた。
「居なくなる……?」
「そやで……」
それは、この場から居なくなるのか、存在自体が無くなるのか……考えつかなかった。
左側に傾いている車を慎重に運転しながら、胡桃沢の話を聞く。
「わしには、思いもつかんことで望みを叶えようとするのを見てると、あのときの選択は間違っておらんかったと思うのじゃ」
助手席の窓に顔を向け、胡桃沢が語った。表情を見られたくなかったと斎はそう察した。
「望みってなんですか?」
純粋な疑問を投げかける。
「前に話したじゃろ?」
胡桃沢と話したことを記憶から漁っていく。
「もしかして、知の探求者のようなことですか?」
「そうじゃ」
高速道の入口が見え、そこへと向かう。だが、この車で高速道路を走れるのかが謎である。首都高内ならいけるだろうが、アクアラインでは厳しいと思える。だが、普通に行けばかなりの時間を要することも理解していた。
「あれは……羽角恭一郎のことなのでは……?」
窓の外を向いている胡桃沢がため息を吐いたように思えた。
「同じじゃよ。わしも羽角もゲーテと同じじゃ」
胡桃沢が語る欲求については、とてもよく理解できた。己自身ですべてを叶えるのなら、それはむしろ賛同できることだ。だが、他に害が及ぶのなら容認できることではなかった。
「そのために、天弥に何をさせようとしてるのですか?」
以前、胡桃沢が言っていた、アザトースの召喚というのは、おそらく違うのだろう。間違っていないとしたら、斎に伝えるはずは無いのだ。もしかすると、なにか不足の事態になることもあり得るからだ。
「教えると思うのかのぉ?」
「いえ……」
予想通りの答えが返ってくる。
「それなら、今回の召喚はなにか関係があるのでしょうか?」
胡桃沢と羽角の望みとは結びつかない。
「闇の神との約束があるからのぉ……」
「混沌と破壊……ですか?」
神の望むものを叶えるために必要なのだろう。だが、そこまでして叶えたい望みなのかは、斎には分からなかった。どれほどの被害が出るのか……予想も付かないのだ。
「契約を履行できなかったら、どうなるのですか?」
止められるものなら止めたいと思うが、そうすることでなにが起きるのかが分からず訪ねてみる。最悪、世界滅亡というのも、あながち冗談ではなくなる。
「そうさのぉ……。わしと羽角の望みが叶わなくなるぐらいかのぉ……」
「それなら契約を解除しても……」
「すまないが、どれだけ被害が出ようとも叶えたい望みなんじゃよ。わしも羽角も……」
どれだけの混沌と破壊を望んでいるのかは分からないが、少なくとも、胡桃沢と羽角が望むものと引き換えにしても良いものではない。
「契約が不履行になったら、胡桃沢斉彬もハズミも居なくなるってことや……」
背後から、サイラスの声が聞こえてきた。
「居なくなる……?」
「そやで……」
それは、この場から居なくなるのか、存在自体が無くなるのか……考えつかなかった。
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