apocalypsis

さくら

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alea jacta est

duodecim

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「サイラス・ユーイン・アスターや! よろしゅうな!」
 サムズアップした右手を、胡桃沢に向かって伸ばした。しばし、胡桃沢はサイラスを見つめる。
「あぁ、君が羽角の養い子か」
 納得したように頷く。どうやら説明をする手間が省けたようで、斎は胸を撫で下ろす。
「話があるんじゃったかの? 入りなさい」
 ドアを大きく開くと、三人を招き入れる。斎を先頭に、天弥、サイラスの順で三人は玄関をくぐる。
「おじゃまします」
 天弥が先に訪れた挨拶を告げる言葉を口にし、残りの二人もそれに続き挨拶をした。
「たいしたもてなしは出来んのじゃが……」
 来客を案内するように胡桃沢が先を歩き、三人はそれに続く。サイラスは周囲を見回すが、普通なものばかりで再度、肩を落とした。
「いえ、気を使わないでください」
 リビングへ通され、三人は勧められたソファーへ座る。
「一人暮らしだからのぉ。飲み物ぐらいで勘弁してほしいの」
 胡桃沢はキッチンへと向かう。すぐに、コンロに火を灯す音、陶器の音などが聞こえてきた。三人は言葉を交わすこと無く、胡桃沢が消えたキッチンの入り口を眺める。ドリンクを用意している音が色々と聞こえ、それが収まると胡桃沢がキッチンから戻ってきた。手にした盆の上から、コーヒーカップを斎の前に、残り二人の前にはそれぞれオレンジジュースが注がれたグラスを置く。
「それで、なんの話かのぉ?」
 三人に向かい合うように胡桃沢がソファに腰掛ける。
「ハスターが召喚されるそうですが、日時と場所はご存知でしょうか?」
 単刀直入に質問を投げかけた。腹の探り合いをしている余裕が無かったのだ。
「教団から媒体を提供されたらしくてのぉ。それがあるなら場所も日時も問わないから分からんのぉ……」
 特に隠す様子もなく、胡桃沢は普通に話をする。
「そうですか……」
「しかし、教団が関わっておるなら、海が関係するだろうのぉ」
「海……?」
 確かにそれはありえそうだと海に関する場所を次々と脳内に浮かべていく。確かに深きものたちの秘密教団への対抗心から、選びそうなのだが、周囲を海に囲まれているこの国では候補が多すぎて絞りきれない。この国なら、どこで召喚しようとも神からしてみれば周囲は海に囲まれていることになるだろう。それとも、四国などの島の方が可能性が高いのかと別の考えも浮かぶ。
 静かな室内に、メールの着信音が響いた。サイラスは携帯を取り出し確認をする。途端、表情が変わる。
「Umihotaru……?」
 室内にいる三人の視線がサイラスに向けられる。
「先生、Umihotaruってなんや?」
 メールの画面を斎に見せ訪ねた。そこには、アルファベットでUmihotaruとだけ記されている。
「海ほたるのことか? 高速道路のパーキングエリアだが?」
「パーキングエリア……? そこへ行けば……」
 サイラスは再び携帯の画面を見る。待ちに待っていた相手からのメールだった。たった一言だけだったが、ここへ来いということなのだろうと、喜びに身体が震えた。
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