apocalypsis

さくら

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errare humanum est

octo

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 ゆっくりと開かれる瞼を見つめ、期待と喜びに満ちる反面、どちらなのかという不安にも苛まれる。大きく見開かれた瞳はまだ虚ろで、意識が覚醒していないことを物語っていた。
「天弥?」
 向けられて声に、反射的に瞳が動く。緊張から、生唾を飲み込む音が室内に響く。徐々に瞳に光が戻り、意識が覚醒したことを知らせた。
「おはようございます」
 形の良い唇から漏れる声と表情ですべてを理解した。
「という時間ではないようですね」
 興味を無くしたように天弥の瞳が斎から反らされ、上半身を起こした。
「先生が居るということは、無事に帰って来られたということでしょうか」
 腕を動かそうとしてなにか違和感を覚え、天弥は自身の腕を見た。点滴が繋がれていることを知り、煩わしいものを取り払うように針を引き抜く。すぐに、赤い血が染み出し一筋の流れを白い肌に描く。
「天弥……」
 名を呼ばれて視線を移す。
「天弥は?」
 必死な面持ちを目前に、ため息を吐いて見せる。
「天弥は僕だと言ったはずですが?」
「あ……」
 そう言われても、天弥という名しか知らない。いつも側に居た相手が、どのような名前なのか、どのような存在なのか、何も知らないのだ。手に取るように分かる斎の落ち込みに天弥は少し考え込むような表情をした。
「今回は先生に助けて貰いましたし……サービスということで」
 見るものを虜にするような極上の笑みを斎へと向けた。
「無事ですよ。消え去る寸前に変わることが出来ましたから」
 義理は果たしたと言わんばかりに、急速に天弥の興味がなくなるのが理解できた。だが、無事という言葉に斎は安堵した。
「ですが、いつ目覚めるかは分かりません」
 何かを思いついたのか、再び天弥が誘うような表情と視線を見せる。
「それはどういう……」
「言ったとおりです。消え去る寸前でしたし、殆ど欠片のような感じですからね」
 言われていることが理解できず、斎は戸惑いを表情に浮かべた。
「無事だと言ったよな……」
「えぇ、存在しているという意味では無事ですよ。ただ、目覚めても記憶や人格があるかどうかは分かりません」
 それでも構わないと思った。記憶が無いのなら一から始めれば良い。人格については分からないが、それでも生きて側に居てくれるだけで構わないと斎は祈りにも似た思いを募らせる。
「そういえば、これをお返ししないとですね」
 天弥は左指の薬指に輝く指輪を外し、斎に向かって差し出した。
「僕は先生の恋人ではありませんから、お返しします」
 差し出された指輪を反射的に受け取ると斎はそのまま掌強く握りしめる。指輪の冷たい感触がさらなる追い打ちをかけた。
「それで、改めて僕と取引をしませんか?」
 このままでは天弥の側にいることはできなくなり、入れ替わりを見逃すことになるかもしれないと悩む。
「……悪いが、断る」
 取引の内容は分からないが、自分の恋人を裏切ることになりそうな気がしたのだ。
「そうですか。別に先生でなくても構わないのですが……普通の人だとキスだけでは済まないので面倒くさいのですよね……」
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