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errare humanum est
septem
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ふと、一つの疑惑が頭を過る。天弥のことは保護者に連絡を入れるべきなのか……。普通なら真っ先に連絡をするべきなのだが思わず戸惑いを覚えてしまう。
悩んでいると携帯が着信を告げた。胡桃沢からの着信を確認すると、名残惜しそうに天弥の頬から手を離し、携帯の通話ボタンを押す。
「はい、御神本です」
先程送ったメールの確認を迫られるが、まだ何も分かっていない状態であり、天弥も昏睡状態であることを告げなんとか納得をしてもらう。通話を終えると深くため息を吐いた。
しばし後、室内を見渡し目に止まった椅子へむかって足を踏み出す。椅子を手にすると再びベッドの横へ戻り腰掛けた。そして、いつその目が開き黒曜石のような潤んだ瞳を確認できるのか待ちわびる。
「天弥……」
一縷の望みを持って名前を呼んでみた。だが、なにも反応は無い。
「天弥」
今度は少し強く名を呼ぶ。だが、やはり反応はない。こみ上げてくる不安を無理やり抑え込むように天弥の頬に触れ温もりを感じ取った。
どれほど時間が経ったのか、窓の外はすでに夜の帳が降りており、室内は人工の明かりに照らされている。何度か、看護士が容態や点滴の確認、検温などで訪れたが、追い出されることは無かった。どう見てもすでに面会時間は終わっているはずだが帰宅を促されずにいる。それなら、今夜はここで天弥のそばに付き添うことを決めた。だが、明日はどうするか……。体調不良で早退をしたから、明日はそのまま欠勤することにしても、明後日は? 明々後日は? その先はどうすれば良いのか分からない。天弥が目をさますまで、ずっとそばに付いていたいと願うが現状では判断が付かなかった。いつ、目覚めるとも分からないが希望を蝕んでいくのだ。
静けさの中、空腹を訴える音が響く。このようなときでも腹が減るのだと少し忌々しさを覚えた。しかし、このままでは集中が出来ず、また付きそうには体力も必要だと判断し、食料を調達するために椅子から立ち上がった。天弥の側から離れるのはとても名残惜しく、その寂しさを埋めるように軽く唇を重ねる。すぐに身体全体から気力も体力も無くなっていくのを感じ、その場に経っているのも困難な状態となる。唇が離れると同時に、力なく床に膝を付き上半身がベッドの端に倒れ込む。何が起こったのかまるで見当がつかず、困惑も加わり焦りが心中に広がった。
「た……かみ?」
そのような状態でも天弥のことが何よりも気にかかり、なんとか視線を向ける。特に変わった様子はなく安堵を覚えた。
せめて椅子に座ろうと力を入れてみるが、上手く身体を動かすことが出来ない。そういえば、朝食を食べたきりだったことを思い出し、空腹で貧血でも起こしたのかと考える。だが、よく食事もせずに本を読みふけっていることを考えれば今回のこの状態は納得がいかない。それでも、天弥の顔を見つめていられるのなら、動けるようになるまでこのままでも良いかと考え直す。
ジッと寝顔を見つめていると違和感を覚えた。それがなんなのか確認するように注意深く見つめる。すぐに、天弥の瞼が動いていることに気が付き、状態を起こす。身体が動かないなど嘘ではないのかと思えるほどであった。
悩んでいると携帯が着信を告げた。胡桃沢からの着信を確認すると、名残惜しそうに天弥の頬から手を離し、携帯の通話ボタンを押す。
「はい、御神本です」
先程送ったメールの確認を迫られるが、まだ何も分かっていない状態であり、天弥も昏睡状態であることを告げなんとか納得をしてもらう。通話を終えると深くため息を吐いた。
しばし後、室内を見渡し目に止まった椅子へむかって足を踏み出す。椅子を手にすると再びベッドの横へ戻り腰掛けた。そして、いつその目が開き黒曜石のような潤んだ瞳を確認できるのか待ちわびる。
「天弥……」
一縷の望みを持って名前を呼んでみた。だが、なにも反応は無い。
「天弥」
今度は少し強く名を呼ぶ。だが、やはり反応はない。こみ上げてくる不安を無理やり抑え込むように天弥の頬に触れ温もりを感じ取った。
どれほど時間が経ったのか、窓の外はすでに夜の帳が降りており、室内は人工の明かりに照らされている。何度か、看護士が容態や点滴の確認、検温などで訪れたが、追い出されることは無かった。どう見てもすでに面会時間は終わっているはずだが帰宅を促されずにいる。それなら、今夜はここで天弥のそばに付き添うことを決めた。だが、明日はどうするか……。体調不良で早退をしたから、明日はそのまま欠勤することにしても、明後日は? 明々後日は? その先はどうすれば良いのか分からない。天弥が目をさますまで、ずっとそばに付いていたいと願うが現状では判断が付かなかった。いつ、目覚めるとも分からないが希望を蝕んでいくのだ。
静けさの中、空腹を訴える音が響く。このようなときでも腹が減るのだと少し忌々しさを覚えた。しかし、このままでは集中が出来ず、また付きそうには体力も必要だと判断し、食料を調達するために椅子から立ち上がった。天弥の側から離れるのはとても名残惜しく、その寂しさを埋めるように軽く唇を重ねる。すぐに身体全体から気力も体力も無くなっていくのを感じ、その場に経っているのも困難な状態となる。唇が離れると同時に、力なく床に膝を付き上半身がベッドの端に倒れ込む。何が起こったのかまるで見当がつかず、困惑も加わり焦りが心中に広がった。
「た……かみ?」
そのような状態でも天弥のことが何よりも気にかかり、なんとか視線を向ける。特に変わった様子はなく安堵を覚えた。
せめて椅子に座ろうと力を入れてみるが、上手く身体を動かすことが出来ない。そういえば、朝食を食べたきりだったことを思い出し、空腹で貧血でも起こしたのかと考える。だが、よく食事もせずに本を読みふけっていることを考えれば今回のこの状態は納得がいかない。それでも、天弥の顔を見つめていられるのなら、動けるようになるまでこのままでも良いかと考え直す。
ジッと寝顔を見つめていると違和感を覚えた。それがなんなのか確認するように注意深く見つめる。すぐに、天弥の瞼が動いていることに気が付き、状態を起こす。身体が動かないなど嘘ではないのかと思えるほどであった。
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