apocalypsis

さくら

文字の大きさ
上 下
165 / 236
errare humanum est

sex

しおりを挟む
「天弥……?」
 呼びかけるが意識が戻る気配がなく、思わず頬を軽く叩く。
「天弥」
 何度も繰り返し名を呼び身体を揺さぶってみるが反応は無い。
「先生!!」
 強く呼ばれ斎は視線を声の主へと向ける。
「ここに天弥を連れて行ってや」
 サイラスはそう言い、携帯メールを送る。
「そこやったら、うるさく聞かれんし大丈夫や」
 届いたメールを確認すると、病院の名前と住所があった。そう遠くない場所なため、向かうのは可能である。
「分かった。すまない」
 すぐに天弥の身体を抱き上げ車へと向かう。斎たちが車に乗り込み走り出したのを確認するとサイラスの身体は崩れるようにベンチに横たわった。
「ちょっとは俺の心配もしてくれとっても罰は当たらんと思わん?」
 早急に救急車を呼ぶのが適切だったのは分かっているが、どの病院へ運ばれるのか分からず、さらに色々と聞かれるのも分かりきっていたから斎を呼んだ。教団に任せたら、そのまま天弥を連れ去られてしまうのは分かりきっていた。判断は間違っていないと自身に言い聞かせる。
「ま、俺は移動手段あるし、なんとかなるからええんやけどな……」
 すぐに小さく何かを呟いた後、サイラスの意識が途切れた。

 サイラスに指定された病院へたどり着くとすぐに天弥が運ばれていった。おそらく教団の息がかかった病院なのだろうが、今の状況では返って都合が良いのかもしれない。
 診察や検査、治療を待つ間にサイラスが運ばれてくるのを確認した。ストレッチャーに載せられ運ばれる姿は、意識がないように思え、どうやってここにたどり着いたのかと不思議に思った。すぐに、天弥のことしか頭になく、おそらく重症だったであろうサイラスを置いてきたことに気が付き後悔をする。
 運ばれていくサイラスを見つめていると看護師に声をかけられた。すぐに病室へ案内をされ、点滴に繋がれベッドの上に横たわる天弥と再会をした。医者から色々と説明を受け命に別状は無いことを知り、安堵からか力が抜けその場に崩れ落ちそうになる。なんとか身体を支え医師を見送った。
 火傷の手当をされ、ベッドで眠る天弥を確認すると携帯を取り出した。個室のため使用に問題はなく、胡桃沢宛にメールを送った後、南極火災の動画を立ち上げる。勢いが弱まった炎と力なく膝を付く無貌の神の姿が見て取れた。少しすると、弱々しく何度か揺れる炎が霧散し、同時に無貌の神の姿も消えた。消滅をしたのかと思ったが、そう簡単に神が消えるはずもなく、互いに引いたのだと予想が立つ。画面に残る痕跡はむき出しの地面のみであり、これも時が経てば再び氷に覆われてしまいなんの跡形も無くなってしまうのだろうと思いながら、携帯の画面を消した。
 今回のことで、天弥について謎が一つ明らかになった。方法は分からないが、時期や手段を問わず神を召喚できるのは間違いないだろう。しかしなぜ、何も相談や話が無かったのかと不満が湧き上がってくる。
 天弥の寝顔に視線を移す。火傷の治療に貼られている湿潤治療被覆材を避け、静かにその頬へ触れた。一つ懸念があるが、今は戻ってきてくれたことだけでも満足だ。そう自身に言い聞かせ思考の片隅へと追いやった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

6畳間のお姫さま

黒巻雷鳴
ホラー
そのお姫さまの世界は、6畳間です。6畳間のお部屋が、お姫さまのすべてでした。けれども、今日はなんだか外の様子がおかしいので、お姫さまはお部屋の外へ出てみることにしました。 ※無断転載禁止

庵の中の壊れ人

秋雨薫
ホラー
「楽しい現実を見せてあげるよ 君にとって楽しい現実かは分からないけど、ね」 気まぐれな魔法使いは、人々に夢と絶望を与える。 「俺は君の願いを“ただ”聞いただけ―」 欲望を胸に抱える人間は、どのように狂う? ※流血や残酷なシーンがあります※ 『山咲 雅斗』願い-未了- 『坂本あんな』願い-未了- 『篠崎 空』 願い-未了- 『大野 陸斗』願い-未了- 『寺田  昭久』願い-未了- 『霧谷マリカ』願い-未了-

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

処理中です...