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errare humanum est
quinque
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「南極の観測基地で撮られたものらしい。ネットにアップされ、瞬く間に広がっておってのぉ」
画像を観ながら、天弥は困難な方を選んだことを確信した。そして、何も言わずに姿を消した理由も理解した。
「ここへ行くことは出来ますか?」
「行くことは可能じゃが……到着するまで続いておるかどうかは分からんぞ?」
「構いません」
迷いのない答えに胡桃沢は少し考え込む。
「もしかして……あの子がここにおるのか?」
「可能性は高いです」
ほぼ間違いないと思うが断言は出来なかった。
「確認をしてみるが、すぐに行ける保証は無い。それでも良いかのぉ?」
「はい、お願いします」
希望が見えた。それだけで地の果てへ行く覚悟をする。天弥がそこに居るのなら、行かないという選択肢は無い。愛する者をこの腕に抱くために当然の答えだった。
胡桃沢と会ってから一週間、不思議と斎の心は穏やかだった。不安や心配はあるが、なにも分からなかったときと比べると、遥かにマシな状態である。しかし、手がかりを掴んだとは言え逸る気持ちを抑えるのはやはり困難で、時間があれば南極での火災を観続けていた。日が経つにつれ、炎の勢いは弱まり人影のようなものが顕になってくる。その形状から無貌の神の名を呼ぶものも増えてきた。そして、当然のようにもう一柱の神、クトゥグアの名前も合わせて出てくる。観ている間も状況の変化が見て取れ、すぐに向かうことが出来ないことに苛つきを覚えた。何も分からなかった頃よりはマシだとは思うが、天弥の無事を確認できない状況はやはり耐え難いものがある。
次の授業の時間が近づき、名残惜しそうに動画の画面を閉じた瞬間、携帯に知っている番号が表示された。急ぎ通話状態にする。
電話に出たとたん、よく知る声が助けを求めてきた。声をかける間もなく、相手は現在地を告げ通話が切れた。急ぎ、かかってきた番号にかけ直すが呼び出し音がなり続けるばかりでつながることが無かった。
尋常ならざる様子に、体調不良を理由にして早退をし、告げられた場所へと車を飛ばす。自宅近くの小さな公園にたどり着くと、ベンチに横たわる人物と、今にも崩れ落ちそうな様子でその直ぐ側に座り込む人物の姿を確認した。
「天弥!」
ベンチに横たわる人物を確認すると、すぐに駆け出した。
「先生!?」
自分たちに向かって来る相手に気が付きサイラスが助けを求めるように呼んだ。
「先生! 天弥を助けてや!」
よろめきながら立ち上がるサイラスに、斎の視線が向けられた。だがすぐにベンチに横たわる天弥へと駆け寄る。目の前に横たわる様子に不吉な予想が心を支配し、身体を動かせなくなる。直ぐ側でなにかを言い続ける声が聞こえるが聞こえるだけで耳には入ってきていなかった。
「天弥……」
恐る恐る手を伸ばし、その頬に軽く触れる。すぐに指先に温もりが伝わり生きていることを確認できた。一つの不安が消え去る。小さくため息を吐いた後、今度は怪我の確認をした。あちこちに火傷の痕があり、綺麗な顔にも確認できた。だが、どれもひどいものでは無く命に関わる状態の火傷は見当たらなかった。さらなる安堵を覚える。
画像を観ながら、天弥は困難な方を選んだことを確信した。そして、何も言わずに姿を消した理由も理解した。
「ここへ行くことは出来ますか?」
「行くことは可能じゃが……到着するまで続いておるかどうかは分からんぞ?」
「構いません」
迷いのない答えに胡桃沢は少し考え込む。
「もしかして……あの子がここにおるのか?」
「可能性は高いです」
ほぼ間違いないと思うが断言は出来なかった。
「確認をしてみるが、すぐに行ける保証は無い。それでも良いかのぉ?」
「はい、お願いします」
希望が見えた。それだけで地の果てへ行く覚悟をする。天弥がそこに居るのなら、行かないという選択肢は無い。愛する者をこの腕に抱くために当然の答えだった。
胡桃沢と会ってから一週間、不思議と斎の心は穏やかだった。不安や心配はあるが、なにも分からなかったときと比べると、遥かにマシな状態である。しかし、手がかりを掴んだとは言え逸る気持ちを抑えるのはやはり困難で、時間があれば南極での火災を観続けていた。日が経つにつれ、炎の勢いは弱まり人影のようなものが顕になってくる。その形状から無貌の神の名を呼ぶものも増えてきた。そして、当然のようにもう一柱の神、クトゥグアの名前も合わせて出てくる。観ている間も状況の変化が見て取れ、すぐに向かうことが出来ないことに苛つきを覚えた。何も分からなかった頃よりはマシだとは思うが、天弥の無事を確認できない状況はやはり耐え難いものがある。
次の授業の時間が近づき、名残惜しそうに動画の画面を閉じた瞬間、携帯に知っている番号が表示された。急ぎ通話状態にする。
電話に出たとたん、よく知る声が助けを求めてきた。声をかける間もなく、相手は現在地を告げ通話が切れた。急ぎ、かかってきた番号にかけ直すが呼び出し音がなり続けるばかりでつながることが無かった。
尋常ならざる様子に、体調不良を理由にして早退をし、告げられた場所へと車を飛ばす。自宅近くの小さな公園にたどり着くと、ベンチに横たわる人物と、今にも崩れ落ちそうな様子でその直ぐ側に座り込む人物の姿を確認した。
「天弥!」
ベンチに横たわる人物を確認すると、すぐに駆け出した。
「先生!?」
自分たちに向かって来る相手に気が付きサイラスが助けを求めるように呼んだ。
「先生! 天弥を助けてや!」
よろめきながら立ち上がるサイラスに、斎の視線が向けられた。だがすぐにベンチに横たわる天弥へと駆け寄る。目の前に横たわる様子に不吉な予想が心を支配し、身体を動かせなくなる。直ぐ側でなにかを言い続ける声が聞こえるが聞こえるだけで耳には入ってきていなかった。
「天弥……」
恐る恐る手を伸ばし、その頬に軽く触れる。すぐに指先に温もりが伝わり生きていることを確認できた。一つの不安が消え去る。小さくため息を吐いた後、今度は怪我の確認をした。あちこちに火傷の痕があり、綺麗な顔にも確認できた。だが、どれもひどいものでは無く命に関わる状態の火傷は見当たらなかった。さらなる安堵を覚える。
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