apocalypsis

さくら

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date et dabitur vobis

viginti duo

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「あーまー、そうやな……」
 サイラスは頭を掻きながら答えた。
「せやけど、俺が付いてってもなんも役に立たへんで」
 サイラスも、天弥と同じく斎の部屋を見上げた。
「正直、俺より先生の方が役に立つはずや。俺と違ごうて、そう簡単に死なへんし」
 天弥はサイラスの言葉に首を横に振った。
「これ以上、先生を巻き込みたくないから……」
「俺はええんかい?」
 サイラスが即効、天弥の言葉に突っ込む。
「だって、サイラスくんはお仕事でしょ?」
 天弥は視線をサイラスへと向けた。自分を見つめる天弥に、サイラスは同じく視線を向け軽くため息を吐いた。
「まーあれや。邪神と戦って姫と心中ってのも悪くない設定やな」
「姫って僕のこと?」
 小首を傾げながら、天弥が尋ねる。
「そやろ?」
 少し悪戯っぽい表情と声音で、サイラスが答えた。天弥はそれに反論する事が出来ずに、顔を逸らすように俯いた。その視線の先に、街灯の明かりを受け光り輝くものが飛び込んできた。天弥はそれを確認する。斎に買ってもらったプラチナのシンプルな指輪が左手の薬指に輝いていた。
「あ」
 天弥は何かを思いついたかのように声を上げ、指輪を抜き取った。
「どないしたんや?」
 不思議そうに天弥を見ながら、サイラスが声をかけた。
「これ、どういう意味か教えて」
 サイラスは自分に向けて差し出された指輪を受け取り、内側を覗き込んだ。そこには、te amo.ne vivam si abis.と彫られた文字と、紫色の小さな石がはめ込まれていた。
「これ、英語やないから分からんわ」
 サイラスは、天弥へ指輪を返す。
「そう……。ありがとう」
 指輪を受け取りながら、残念そうに天弥が言葉を発した。
「もしかして、あのメールは指輪に刻む言葉やったんか?」
 指輪をはめながら頬を染め、天弥は小さく頷いた。
「さよか。I love only you.よりはえかったやろ?」
 火曜日の夜、いきなり天弥から届いたメールには、貴方だけを愛していますは、I love only you.でよいのか? と記載されていた。あまりにもストレートで、天弥らしいとサイラスは思ったが、天弥の英語力を考えるとそれが限界なのだと思い、告白なら You're the only one for me.の方が良いと思うと、すぐにメールを返した。いきなりのことで、それが何に使われるのかも分からなかったが、すぐに礼を述べるメールが返ってきたため、間違いなく斎関連だろうと思い特に深くは考えなかった。
「うん……」
 天弥は小さな声で答えると顔を上げ、視線をサイラスへと向けた。
「ほな、行こか?」
 天弥がサイラスの言葉に頷いた。
「サイラスくんの事は全力で守るけど、だめだったらごめんなさい……」
「ええって」
 火曜日の早朝、天弥に学校へ呼び出されたときは本来の成瀬天弥だと思っていたが、待っていたのは普段の天弥でかなり驚いた。しかも、この天弥にまで取り引きを持ちかけられ、計画が総て台無しになったことに落ち込み、ため息すら出ないような状態だった。
「ま、なんとかなるやろ」
 悪戯っぽい笑みを浮かべたサイラスに、天弥は無言で頷き答えた。
「じゃあ、行くね」
 天弥はそう言うと、見えない壁に触れるかのように手を伸ばした。すぐに、天弥の手のひらを中心に深い闇が広がり出した。
「すげーやん。それ、どんな原理なんや?」
 すでに人が通れるほどまでに広がった闇を見つめ、サイラスが感心したように口を開いた。闇の広がりが止まり、手を下ろした天弥が考え込む。
「分かんない……」
「分かんないって、大丈夫なんか?」
 天弥の言葉に、サイラスは間髪を入れずに聞き返す。
「たぶん……。本当の天弥なら分かると思うけど……、ごめんなさい……」
 落ち込み俯く天弥の様子に、サイラスは軽くため息を吐いた。
「まー考えとってもしゃーない。行こか?」
 サイラスは自分の言葉に頷いた天弥の手を取り、闇の中へと向かって駆け出した。サイラスに手を引かれ足を踏み出した天弥は、斎の部屋へと視線を向ける。そして、そのまま引きずり込まれるように闇の中へと消え、すぐに闇も集束を始め消失した。辺りは何事も無かったかのように静まり返っており、斎の部屋の明かりも消えた。
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