apocalypsis

さくら

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date et dabitur vobis

viginti

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 ガラスケースの中を見つめていく天弥の視線が、一箇所に釘付けになった。欲しいものでも決まったのかと思い、天弥の背後からガラスケースの中を覗き込む。そこに並べられていたのはペアのリングであり、それで良いのか確認を取った。
 短くなった煙草を灰皿に押し付けると立ち上がり、ベッドへと向かった。そこで眠っている天弥に視線を落とし、ベッドの端に腰を下ろす。
 指輪の一つや二つで、更に天弥を縛り付ける事が出来るのなら安いものだと思い、すぐに購入をした。指輪は内側に誕生石が入り、時間はかかるが言葉を入れることも出来るというので、せっかくなのでそれも頼む事にした。
 自分の指輪を見つめ、天弥がどんな言葉を頼んだのか気になりそれを外した。今日の午前中に出来上がり、確認しようとしたら物凄い勢いで止められてしまったため、知ることが出来なかったのだ。
 外した指輪の内側に彫られた文字を読むと顔が赤く染まり、思わず指輪を握り締めた。指輪の内側には、You're the only one for me.とあり、嬉しさがこみ上げてくる。
 上昇した心拍数を戻すため、軽く深呼吸をし平常心を取り戻そうとした。何度か深呼吸を繰り返すと指輪をはめ、時刻を確認する。天弥を家に帰す時間を考えると、そろそろ起こさなければならない時刻になっていた。
「天弥」
 名前を呼びながら、天弥の頭に手を置いた。だが反応は無く、規則的な寝息が聞こえるだけだった。
「天弥、起きろ」
 斎の手が天弥の頭から肩へと移動し、軽くその身体を揺さぶった。何度かその行為が繰り返された後、天弥の目がゆっくりと開いた。
「起きたか?」
 耳に届いた声に、天弥は寝ぼけた視線と表情を斎へと向けた。自分を見下ろす斎の姿が視界に入り、天弥は腕を伸ばしその首に絡めた。
「時間だ」
 斎の言葉に、天弥はゆっくりと口を開いた。
「僕……、今日は友達の家に泊まるって言ってきました……」
 まだ半分以上は夢の中にいるとすぐに分かる声音でそう告げると、再び目を閉じた。
「そういう事は先に言ってくれ……」
 天弥の腕がベッドへと落ち、力なく発せられた斎の言葉が空しく室内に響いた。嘘を吐いて外泊させる事に罪悪感はあるが、天弥と一緒に居られる喜びが上回り、すぐにその事について考えるのを止めた。
「とりあえず、何か食いに行くか?」
 天弥は勢い良く目を開けるとその顔を見つめた。
「ご飯?」
 嬉しそうに自分を見つめるその表情に、思わず何か食べるものを与えておけば、簡単に天弥を縛り付けておく事が出来るのではないかと本気で考える。
「そうだ」
 笑みを浮かべ、天弥は上半身を起こすと目の前に居る愛しい相手に抱きついた。
「先生」
 天弥の自分を呼ぶ声に、斎はその細く華奢な裸身に腕を回す。
「ありがとうございます」
 天弥からいきなり述べられた礼に、斎は少し戸惑う。
「どうした?」
 問いかけられ、天弥は斎の身体に回した腕に少し力を込めた。
「指輪を買ってくれましたし、花乃へのプレゼントを選ぶのも付き合ってくれましたし、ご飯も食べさせてくれるし……」
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