apocalypsis

さくら

文字の大きさ
上 下
154 / 236
date et dabitur vobis

septendecim

しおりを挟む
 放課後、早々に学校を後にし、斎は車を走らせていた。目指す場所はそう遠くはないが、いつも渋滞している高速道のことを考え、少しでも早く移動をしたかったのだ。カーブが多いのは好きであるが、両側に高くそびえる壁は閉塞感を訴え、あまり感じが良いものではない。
 助手席に座る天弥はオープン状態で走る車に喜び、機嫌よく移り変わっていく空を眺めている。少し走り地下のトンネルを抜けると、轟音と共に空を飛んでいく飛行機がすぐ近くに見えた。あまりにも近くに見える飛行機に、天弥の胸が躍る。
「先生、飛行機、凄いですね!」
 隣で運転をしている斎に向かい声をかけるが、オープンにしているために風の音と飛行機の騒音で、天弥の声はかき消されてしまった。仕方がなく、また外の景色を眺め始める。
 再び地下のトンネルを抜け、少し走ると今度は長い地下トンネルに入った。景色が何も見えなくなり、天弥は少し気落ちしながら前方を見つめる。長いトンネルだと天弥が変わらない風景に厭き始めた頃、視線の先に出口を知らせる小さな光が見えた。天弥の胸に再び期待が満ち溢れる。
 前方に見える光は次第に大きさを増していき、出口の形をハッキリと現した。すぐに出口を抜け、天弥は期待を込めて辺りを見回した。だがそこは、車が数台駐車されているだけで特にこれといったものは無く、少し落ち込む。
 天弥の落ち込みを余所に、斎は空いているスペースに駐車をし始める。車が完全に停まり、続いてエンジンも止まった。
「着いたぞ」
 突然かけられた言葉に、天弥は顔を上げて斎を見る。
「ここ、海なんですか?」
 天弥の質問に斎は、親指で後ろを指した。促され、天弥は振り返る。柵の向こうに広がる海が、すぐに視界に飛び込んできた。
「海! 先生、海です!」
 斎の腕を掴み、天弥は全身に喜びを表しながら海を指す。斎は喜びはしゃぐ天弥の様子を見ながら、煙草を取り出した。すぐに天弥は車から降り、もっと近くで海を見ようと柵へと近付いていく。斎は取り出した煙草を咥え火を点ける。
 沈みゆく太陽と共に様相を変えていく空が海に映り、天弥は静かにそれを見つめた。
「上の方が見晴らしいいぞ」
 一服終えた斎がいつのまにか横に居り、海に夢中になっている天弥を、柵に凭れ掛かりながら見つめていた。
「上?」
 不思議そうに天弥が聞き返す。
「展望デッキがあるから、海を見るならそこの方がいいだろ」
 少し離れたところにあるエスカレーターに向かって歩き出した。慌てて、天弥も後を追うように歩き出す。
「先生、ここどこなんですか?」
 辺りを見回しながら尋ねる。
「高速道のパーキングエリアだ」
 斎の言葉に、天弥は納得したようなしていないような、複雑な表情をする。パーキングエリアというのは知っている。週末に遠出をした時に行ったことがある。だがここは、今まで行ったところとはまるで雰囲気が違っていた。
 エスカレーターで上の階へ行くと、天弥はまるで大きな客船の中にいるような錯覚を覚えた。両サイドに展開されている店に後ろ髪を引かれながら、斎の後に続きさらに上の階へと進む。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

餅太郎の恐怖箱

坂本餅太郎
ホラー
坂本餅太郎が贈る、掌編ホラーの珠玉の詰め合わせ――。 不意に開かれた扉の向こうには、日常が反転する恐怖の世界が待っています。 見知らぬ町に迷い込んだ男が遭遇する不可解な住人たち。 古びた鏡に映る自分ではない“何か”。 誰もいないはずの家から聞こえる足音の正体……。 「餅太郎の恐怖箱」には、短いながらも心に深く爪痕を残す物語が詰め込まれています。 あなたの隣にも潜むかもしれない“日常の中の異界”を、ぜひその目で確かめてください。 一度開いたら、二度と元には戻れない――これは、あなたに向けた恐怖の招待状です。 --- 読み切りホラー掌編集です。 毎晩20:20更新!(予定)

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2024/12/29:『みしらぬせいと』の章を追加。2025/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2024/12/28:『てのむし』の章を追加。2025/1/4の朝8時頃より公開開始予定。 2024/12/27:『かたにつくかお』の章を追加。2025/1/3の朝4時頃より公開開始予定。 2024/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2025/1/2の朝4時頃より公開開始予定。 2024/12/25:『しんねん』の章を追加。2025/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 2024/12/24:『おおみそか』の章を追加。2024/12/31の朝4時頃より公開開始予定。 2024/12/23:『いそがしい』の章を追加。2024/12/30の朝4時頃より公開開始予定。 2024/12/22:『くらいひ』の章を追加。2024/12/29の朝8時頃より公開開始予定。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

投稿インセンティブで月額23万円を稼いだ方法。

克全
エッセイ・ノンフィクション
「カクヨム」にも投稿しています。

6畳間のお姫さま

黒巻雷鳴
ホラー
そのお姫さまの世界は、6畳間です。6畳間のお部屋が、お姫さまのすべてでした。けれども、今日はなんだか外の様子がおかしいので、お姫さまはお部屋の外へ出てみることにしました。 ※無断転載禁止

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...