apocalypsis

さくら

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date et dabitur vobis

tres

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 確かに、そこまでは利害が一致していると考えながら、挑戦的な視線を向けてくるサイラスに、同じように視線を向けた。
「天弥を取り戻した後は、先生が俺から守ってやればええやん」
 言葉とは裏腹な表情と視線で、サイラスが言葉を続けた。天弥を取り戻した後、自分が相手なら問題はないと判断をされたのだと斎は思う。確かに、自分の身体は何らかの変化をしていると考えられるが、元々の実力差がかなりある状態は変わらない。多少、身体能力が上がっていたとしても、サイラスにとっては然したる問題ではないのだと予想できる。
 サイラスは、考え込む斎を見つめた。天弥の身柄を取り戻しさえすれば、後はどうとでもなると判断をした。神を相手にするよりは、斎を相手にする方が遥かにましである。
「一つ聞きたい」
「なんや?」
 斎の質問が厄介なことでないことを、サイラス望む。羽角と連絡が取れない以上、どこまで勝手に判断をして行動をして良いのかが悩みどころである。羽角を見つけるためには、教団に居るのが最善の策である以上、うかつなことは出来ない。
「天弥は人格が二つあるのか? それとも、二人は別の存在なのか?」
 先程の天弥は、自分だけが天弥という存在であり、もう一人は別の存在だと言った。別の人格ではなく、別の存在とはどういう事なのか、皆目見当がつかない。
 サイラスが考え込む表情をする。
「先生、胡桃沢斉明にどこまで聞いとる?」
 総てを知っていたら、今のような質問をするはずはない。なので、斎は天弥の正体をまだ知らないと判断してもよい、そう考える。だが、斎は優秀過ぎる。下手なことを話せば、そこから真実にたどり着いてしまう可能性が大きい。
「どこまでとは?」
 奇妙な質問だと斎は思う。事の真相について、どこまで知っているのか把握していれば、もっと的確に質問も判断も出来るはずだ。
「そやな、胡桃沢斉明は何を話したかと聞く方が正しい質問やな」
 斎の問いに、サイラスは答える。どこまでと尋ねても、斎には判断のしようがないことだった。
「何を……」
 斎は、考え込む。ここで出来る限りの情報を手に入れたいと望むが、それはかなりの困難であることも理解している。サイラスは、見かけ通りの人物とは異なる。言動や見た目に惑わされて判り難いが、かなり高度な教育を受け、専門的な知識もあり、油断のならない人物だと判断している。
「十七年前の予想と、十三年前に教授が実際に見たことを聞いた」
 下手な小細工はせずに、素直に答えた。今の状況を考えれば、サイラスと手を組むのは得策である。下手な事をして、それを棒に振るのは避けるべきだと判断をした。
 サイラスは教団を雇い主と言っていた。教団がどれほどの規模なのかは分からないが、以前の電話の内容から察するにサイラスは、そこと対等以上の関係にあるように思えた。個人で仕事を請けているのだとすれば、それだけの裁量があると思われる。何も知らない自分の小細工など、すぐにでも見破られてしまう可能性が高い。
「十七年前の予想?」
 サイラスが聞き返す。
「十七年前、天弥の祖父が呼び出そうとしたものについての予想だ」
 斎の答えに、サイラスは興味深げな表情をする。
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