128 / 236
nosce te ipsum
viginti unus
しおりを挟む
サイラスは、天弥の部屋へ入ると辺りを確認した。あまり、男子高校生の部屋だとは思えない様子に、少し呆気に取られる。部屋に飾られているヌイグルミたちに、明るい色合いのカーテン、チェック柄のベッドカバー、どちらかといえば女子高生の部屋と言った方が良いかもしれない。
気を取り直し、改めて室内を観察する。最悪の事態も想定していたが、状況的にそれは無いと分かり、少し安堵する。もし、深きものが天弥を攫ったのだとしたら、あの強烈な臭いが残っているはずだ。
窓に近づいた。鍵はしっかりと掛けられている。普通にドアから部屋を出たと思われるが、家を出る時にどこから出たのかが分からない。自宅の鍵と思われるものは、携帯と一緒に机の上に置かれている。母親の話では、玄関も窓も鍵を開けられていたところはなかったそうだ。
部屋の中央に立ち、少し考え込む。攫われたのでなければ、天弥は自分の意思で出て行った事になる。その場合、どうやって密室状態から抜け出したのかが謎である。ミステリー小説のようなトリックを使ったのかと一瞬考えたが、そんな事をする必要がどこにあるのか分からない。
一つの可能性が浮かぶ。普段の天弥には無理なことだが、本来の成瀬天弥には造作もないことだ。もしそうだとしたら、天弥を捜し出すのは困難を極める。
ざっと見た感じ、特に手がかりになりそうなものも見当たらず、部屋のドアへと向かう。花乃の客として来ている以上、あまりここに長居も出来ない。
ドアを開けて廊下へと出た目の前に、私服に着替えた花乃の姿があった。不安と戸惑いを浮かべた視線を、サイラスに向けている。さすがに露骨過ぎたかと考え、花乃に向けて笑顔を作る。まだ、天弥の事がハッキリとしない以上、この家に入り込む手段は確保しておきたかったのだ。
「どこかに遊びに行こか?」
内心、ため息を吐きつつも花乃に声をかけた。あまり自分の性に合わないやり方だが、羽角からは何の連絡もなく天弥も姿を消した。手がかりや可能性は、一つでも多いほうが良い。
花乃は躊躇いながらも静かに頷いた。
「ほな、行こか」
そう言い、サイラスは花乃の手を取ると玄関へと向かった。
近所の小さな公園にたどり着くと、斎は腕時計を見て時間を確認した。時計の針は、二十三時五十九分を示している。視線が、その手にある本へと移った。すぐに腕が下ろされ、視線は前方へと向けられる。指定された時間まで後一分であるが、辺りには人がいる様子がない。自分の背後を確認しようと振り向いたが、そこにも人影は無かった。
「先生」
突如、後ろから声を掛けられ、斎は振り向く。先程までは、確かに誰も居なかった。人が居る気配すらなかったはずなのに、どこから現れたのかと考えながら、眼前の人物を見つめる。
「天弥」
名を呼ばれ、天弥は足を踏み出すと斎に抱きついた。
「約束を果たしに来ました」
その言葉に、自分に抱きつく天弥を見下ろす。
「約束?」
天弥の自宅を後にしてから、失踪の真偽もハッキリとせずに、どうしてよいか分からずにいた。何かをしていないと落ち着かず、とりあえず天弥を捜そうとした。だが、行動範囲を知らず、途方に暮れながら彷徨っていた。
「はい」
気を取り直し、改めて室内を観察する。最悪の事態も想定していたが、状況的にそれは無いと分かり、少し安堵する。もし、深きものが天弥を攫ったのだとしたら、あの強烈な臭いが残っているはずだ。
窓に近づいた。鍵はしっかりと掛けられている。普通にドアから部屋を出たと思われるが、家を出る時にどこから出たのかが分からない。自宅の鍵と思われるものは、携帯と一緒に机の上に置かれている。母親の話では、玄関も窓も鍵を開けられていたところはなかったそうだ。
部屋の中央に立ち、少し考え込む。攫われたのでなければ、天弥は自分の意思で出て行った事になる。その場合、どうやって密室状態から抜け出したのかが謎である。ミステリー小説のようなトリックを使ったのかと一瞬考えたが、そんな事をする必要がどこにあるのか分からない。
一つの可能性が浮かぶ。普段の天弥には無理なことだが、本来の成瀬天弥には造作もないことだ。もしそうだとしたら、天弥を捜し出すのは困難を極める。
ざっと見た感じ、特に手がかりになりそうなものも見当たらず、部屋のドアへと向かう。花乃の客として来ている以上、あまりここに長居も出来ない。
ドアを開けて廊下へと出た目の前に、私服に着替えた花乃の姿があった。不安と戸惑いを浮かべた視線を、サイラスに向けている。さすがに露骨過ぎたかと考え、花乃に向けて笑顔を作る。まだ、天弥の事がハッキリとしない以上、この家に入り込む手段は確保しておきたかったのだ。
「どこかに遊びに行こか?」
内心、ため息を吐きつつも花乃に声をかけた。あまり自分の性に合わないやり方だが、羽角からは何の連絡もなく天弥も姿を消した。手がかりや可能性は、一つでも多いほうが良い。
花乃は躊躇いながらも静かに頷いた。
「ほな、行こか」
そう言い、サイラスは花乃の手を取ると玄関へと向かった。
近所の小さな公園にたどり着くと、斎は腕時計を見て時間を確認した。時計の針は、二十三時五十九分を示している。視線が、その手にある本へと移った。すぐに腕が下ろされ、視線は前方へと向けられる。指定された時間まで後一分であるが、辺りには人がいる様子がない。自分の背後を確認しようと振り向いたが、そこにも人影は無かった。
「先生」
突如、後ろから声を掛けられ、斎は振り向く。先程までは、確かに誰も居なかった。人が居る気配すらなかったはずなのに、どこから現れたのかと考えながら、眼前の人物を見つめる。
「天弥」
名を呼ばれ、天弥は足を踏み出すと斎に抱きついた。
「約束を果たしに来ました」
その言葉に、自分に抱きつく天弥を見下ろす。
「約束?」
天弥の自宅を後にしてから、失踪の真偽もハッキリとせずに、どうしてよいか分からずにいた。何かをしていないと落ち着かず、とりあえず天弥を捜そうとした。だが、行動範囲を知らず、途方に暮れながら彷徨っていた。
「はい」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
月のない夜 終わらないダンスを
薊野ざわり
ホラー
イタリアはサングエ、治安は下の下。そんな街で17歳の少女・イノリは知人宅に身を寄せ、夜、レストランで働いている。
彼女には、事情があった。カーニバルのとき両親を何者かに殺され、以降、おぞましい姿の怪物に、付けねらわれているのだ。
勤務三日目のイノリの元に、店のなじみ客だというユリアンという男が現れる。見た目はよくても、硝煙のにおいのする、関わり合いたくないタイプ――。逃げるイノリ、追いかけるユリアン。そして、イノリは、自分を付けねらう怪物たちの正体を知ることになる。
ソフトな流血描写含みます。改稿前のものを別タイトルで小説家になろうにも投稿済み。
甘いマスクは、イチゴジャムがお好き
猫宮乾
ホラー
人間の顔面にはり付いて、その者に成り代わる〝マスク〟という存在を、見つけて排除するのが仕事の特殊捜査局の、梓藤冬親の日常です。※サクサク人が死にます。【完結済】
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
幽霊屋敷で押しつぶす
鳥木木鳥
ホラー
怨霊や異界の神が跋扈し、それら化外が引き起こす祟りが災害として頻発する世界。
霊を祓う「祓い師」の庚游理。彼女はただの地縛霊の除霊を「うっかり」古の邪神討伐にスケールアップさせてしまう「藪蛇体質」の持ち主。
破格の家賃と引き換えに「人を喰う」幽霊屋敷「裏内屋敷」にひとり住む游理は、ある夜布団の中からあらわれた少女「裏内宇羅」に首をねじ切られる。そして学園百合ラブコメ空間に転生した。
怨嗟妄念から生まれる超常の存在「幽霊屋敷」
成り行きでその一部となった游理は、様々な「幽霊屋敷」と遭遇していく。
これは千の死を千の怨嗟で押しつぶす物語。
(「カクヨム」様及び「小説家になろう」様にも投稿させていただいております)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる