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nosce te ipsum
viginti
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とにかく、ここに立ち尽くしても仕方がないと考え、玄関に背を向けた。
「先生?」
突然の呼びかけに、視線を動かす。
「成瀬……」
制服姿の花乃と、すぐ横に居るサイラスの姿が目に入った。なぜ二人が一緒にいるのかと考えていると、花乃とサイラスが斎の前で足を止めた。二人の姿を交互に見る。
「なんや?」
視線に対し、サイラスが疑問を投げかける。
「あ、いや……」
サイラスと花乃が親しいとは思ってもいなかった。基本的にサイラスは学校では天弥の傍を離れない。そして、花乃は天弥を避けている。どうやって、二人は知り合ったのか分からない。
「用がないんやったら、もう行きたいんやけど?」
「行くってどこへだ?」
もしかしたら、天弥について何か手がかりが在るかもしれない。そう考えたとたん口から質問が飛び出した。
「花乃の家や」
サイラスが、握った拳の親指を立て、それで目の前の家を指差した。
「ほな、行こか」
天弥の失踪について、手がかりが何かないかを探しに来たのだ。ここで斎に邪魔されるわけにはいかないと考え、サイラスは早急にこの場から立ち去ろうとする。
状況を飲み込めず、どう対応してよいのか分からない斎を残し、サイラスは花乃の手を掴み、玄関へと向かった。
「え? でも、先生は?」
手を引かれて足を踏み出した花乃が、斎へと視線を向けた。
「ええから」
急かすように、サイラスが花乃の手を強く引く。
「成瀬」
斎の呼び掛けに花乃は足を止めた。仕方がなく、サイラスも足を止める。
「お兄さんはどうしている?」
今ここで、二人の関係やなぜ一緒にいるのかを考えても仕方がないと思い、知りたい情報を花乃に尋ねる。
「兄は……」
困ったように俯き、花乃が言葉を詰まらせた。
「ここ最近、姿を見ていないので様子は分からないんです」
花乃は顔を上げ、斎を見た。天弥の担任ではないというのに、休まずに通ってくる。
その姿は、さながら百夜通いをする深草少将のようだ。
「そうか……」
母親の態度が腑に落ちないが、嘘を言う理由が分からない。サイラスの態度からも考えて、天弥がいなくなったのは本当である可能性が高いと考える。
「花乃」
サイラスの呼び声に、花乃は視線を移す。そして斎に向かい軽く頭を下げると、サイラスと共に家の中へと入る。自分が拒絶された場所へと入り込んだその様子を見て、なぜサイラスが花乃と一緒にいたのかを理解した。
玄関のドアが閉まると、花乃はサイラスを見た。放課後、校門の外が騒がしいと思ったら、私服姿のサイラスが居た。何をしているのかと考えていたら、名前を呼ばれ近づいてきた。
サイラスは、出迎えた母親に挨拶をすると、天弥と会って良いかと尋ねる。母親は、すぐにそれを了承した。
母親の様子に、花乃は疑問を持つ。斎に限らず、見舞いに来た級友もすべて面会を断っていた。自分ですら、天弥の顔を見ることさえ出来なかったのだ。
サイラスは真っ直ぐに天弥の部屋を目指す。その様子に花乃は、サイラスが家に遊びに行きたいと言った理由を理解した。
「先生?」
突然の呼びかけに、視線を動かす。
「成瀬……」
制服姿の花乃と、すぐ横に居るサイラスの姿が目に入った。なぜ二人が一緒にいるのかと考えていると、花乃とサイラスが斎の前で足を止めた。二人の姿を交互に見る。
「なんや?」
視線に対し、サイラスが疑問を投げかける。
「あ、いや……」
サイラスと花乃が親しいとは思ってもいなかった。基本的にサイラスは学校では天弥の傍を離れない。そして、花乃は天弥を避けている。どうやって、二人は知り合ったのか分からない。
「用がないんやったら、もう行きたいんやけど?」
「行くってどこへだ?」
もしかしたら、天弥について何か手がかりが在るかもしれない。そう考えたとたん口から質問が飛び出した。
「花乃の家や」
サイラスが、握った拳の親指を立て、それで目の前の家を指差した。
「ほな、行こか」
天弥の失踪について、手がかりが何かないかを探しに来たのだ。ここで斎に邪魔されるわけにはいかないと考え、サイラスは早急にこの場から立ち去ろうとする。
状況を飲み込めず、どう対応してよいのか分からない斎を残し、サイラスは花乃の手を掴み、玄関へと向かった。
「え? でも、先生は?」
手を引かれて足を踏み出した花乃が、斎へと視線を向けた。
「ええから」
急かすように、サイラスが花乃の手を強く引く。
「成瀬」
斎の呼び掛けに花乃は足を止めた。仕方がなく、サイラスも足を止める。
「お兄さんはどうしている?」
今ここで、二人の関係やなぜ一緒にいるのかを考えても仕方がないと思い、知りたい情報を花乃に尋ねる。
「兄は……」
困ったように俯き、花乃が言葉を詰まらせた。
「ここ最近、姿を見ていないので様子は分からないんです」
花乃は顔を上げ、斎を見た。天弥の担任ではないというのに、休まずに通ってくる。
その姿は、さながら百夜通いをする深草少将のようだ。
「そうか……」
母親の態度が腑に落ちないが、嘘を言う理由が分からない。サイラスの態度からも考えて、天弥がいなくなったのは本当である可能性が高いと考える。
「花乃」
サイラスの呼び声に、花乃は視線を移す。そして斎に向かい軽く頭を下げると、サイラスと共に家の中へと入る。自分が拒絶された場所へと入り込んだその様子を見て、なぜサイラスが花乃と一緒にいたのかを理解した。
玄関のドアが閉まると、花乃はサイラスを見た。放課後、校門の外が騒がしいと思ったら、私服姿のサイラスが居た。何をしているのかと考えていたら、名前を呼ばれ近づいてきた。
サイラスは、出迎えた母親に挨拶をすると、天弥と会って良いかと尋ねる。母親は、すぐにそれを了承した。
母親の様子に、花乃は疑問を持つ。斎に限らず、見舞いに来た級友もすべて面会を断っていた。自分ですら、天弥の顔を見ることさえ出来なかったのだ。
サイラスは真っ直ぐに天弥の部屋を目指す。その様子に花乃は、サイラスが家に遊びに行きたいと言った理由を理解した。
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