apocalypsis

さくら

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 天弥の自宅は現在、二十四時間体制で監視を続けている。それに見つからずに家を抜け出せるとは考え難い。連れ出したのが斎ではないとしたら、最悪の状況が考えられる。
 再び斎に背を向け、ドアへと向かう。すぐに、斎の手がそれを止めた。
「説明しろと言ったはずだ」
 言い終わるか終わらないかと同時に、サイラスが振り向きざまに裏拳を斎の顔面に叩き込もうとする。スピードと重さの乗った手加減のない拳を、斎は腕を上げて受けようとした。
 斎とサイラスが同時に表情を変える。サイラスは、一切の手加減なしの拳を叩き込んだ。だが、軽く受け流されてしまった。手合わせしたことがあるため、その実力は分かっている。実力の差を考えれば、いとも簡単に受け流すことは出来ないはずだ。斎自身も驚きの表情を浮かべている。
「どういうことや?」
 どういうことなのか、自分が聞きたいぐらいだと斎は思う。確かに、言葉通り手加減なしの拳を向けてきた。だがそれには何の威力もなく、簡単に受け流すことが出来た。サイラスが弱くなった訳ではない。だとすれば、自分が変化したということなのだろうか。
「分からない……」
 ジッと自分の手を見つめながら、斎は答える。傷の治りが早いことといい、自分の身体に何か特別な現象が起こっているのかと、嫌でも考えざるを得ない。
 サイラスは、愕然とした表情の斎を見つめた。実験データには、斎の変化は二つしか記されていなかった。もう一つ変化があったということなのか、それとも変化の一つ、急速な再生速度に付随するものなのか考える。
 普段なら、強い相手は大歓迎なのだが、今はそんなことをしている暇はないと、判断をした。
「天弥がいなくなったんや」
 ここで無駄に時間を取るわけにも、斎との戦闘で身動きが取れなくなる訳にもいかない。素直に斎の望む答えを口にした。その言葉に斎の思考と表情が切り替わった。
「いなくなった?」
 そこまで思い込むほど、自分は天弥を追い詰めたのかと斎の目の前が暗くなる。どこへ行ったのか、無事でいるのか、そう考えると矢も盾もたまらず、鞄を手にすると部屋の外へと駆け出して行った。
 
 サイラスの言葉の真実を確認しに、まずは天弥の自宅へと向かった。担任から預かったプリントを母親に手渡し、天弥との面会を求めた。だが、前日までと同様やんわりと断られてしまう。いつものように引き下がるわけにもいかず、担任への報告があるからと食い下がる。実際、天弥の担任からプリントを渡された時、ついでに様子の確認も頼まれた。
 母親は、困ったように何かを考え込む。少しして母親は重い口を開いた。そして、天弥は家出をしたのだと告げると、玄関のドアを閉めてしまった。子供が家出をしたにしては、母親の態度が腑に落ちない。普通は、必死になって捜すものだと思う。それとも、実の親子でなかったらこんなものなのだろうかと、悲しい考えが浮かんでしまった。
 閉じられたドアを見ながら、その場で考え込む。今の母親の様子では、天弥がいなくなったのは確かなのか分からない。もし事実だとしたら、サイラスはどうやってそれを知ったのか、親は警察に届出をしているのかなど、あまりにも不明な部分が多い。
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