apocalypsis

さくら

文字の大きさ
上 下
124 / 236
nosce te ipsum

septendecim

しおりを挟む
 人形のような天弥を見つめ、斎に連絡を入れた方が良いのだろうかとサイラスは悩む。
「天弥、先生に連絡しよか?」
 生徒の姿が周囲から無くなったことを確認し、尋ねた。天弥はその言葉に反応するかのように、身体が小さくビクつくと足を止めた。収まっていた涙が再び溢れ、絶望に彩られた顔を力なく横に振る。
「分かった」
 天弥の様子に、サイラスはそう答えると再び足を踏み出す。
「ほな、家まで送るわ」
 学校からそう遠くない天弥の家を目指した。
 
 斎は教室に入ると、いつも真っ先に確認する場所を見る。だが、そこに在るはずの姿はなく空席が二つ並んでいるだけだった。
 昨日の放課後、我に返ってすぐに、天弥の残したかばんを手にその後を追いかけた。どこへ行ったのかも分からず、行きそうな場所を考えたが、校内で思いつくのは、この教室しかなかった。もちろん教室にその姿はなく、すでに校外へ出たのかもしれないと思い、玄関へと向かった。
 玄関はやけにうるさく騒ぐ生徒たちが多数おり、何があったのかを傍にいた生徒に尋ねてみた。生徒の話で、泣いている天弥をサイラスが抱きかかえて連れて行ったのだという事を知った。
 すぐに追いかけようとしたが、何をどう言えばよいのか分からず、足はその場に止まったままだった。
 誰が好きなのかと問われれば、それは間違いなく天弥だ。どちらの天弥が好きなのかと問われれば、それは分からない。性格や雰囲気は違うが、同じ顔に同じ身体、斎にとっては同じ人物なのだ。
 ざわめく生徒たちに帰宅を促すと、落ち着いて考えをまとめようと、いつもの部屋へと戻る。
 部屋に戻るとソファーに腰掛け、手にしたかばんをすぐ横に置くと煙草を一本取り出した。口に銜え、火を点ける。天弥の好きな甘い丁子の香りが、辺りに漂う。
 何をどう考えても上手くまとまらず、吸いかけの煙草を灰皿に押し付けると立ち上がった。白衣を脱いでソファーに置くと天弥の鞄を手にし、教科室を後にした。
 とにかく話をしようと思い、天弥の家へと向かう。インターフォンを押すと、入院中に何度か会った天弥の母親が出てきた。忘れていった鞄を届けに来た事と、天弥と話をしたい旨を伝えた。
 母親は困ったような表情を浮かべた。天弥は帰ってくるなり部屋に閉じこもったままで、誰とも会おうとしないと言う。あまり強く出ることも出来ず、その場は引き上げることにした。
 帰宅してからはずっと、携帯を握り締めていた。文章のみのメールは誤解を生みやすいために避けたかったが、天弥の携帯は何度呼び出しても反応がなかった。仕方がなく、話がしたいとだけ書き、メールを送った。天弥からの返事を待ち続けたが、来ることはなかった。
 今日、学校で天弥と話をしようと考えていた。だが天弥は欠席だと知り、それは叶うことがなかった。
 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、斎は我に返る。自分はまともに授業をしていたのかと不安になり、黒板を見た。そこを見る限り、まともに授業は出来ていたと思えるもので、胸を撫で下ろす。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

【完結】わたしの娘を返してっ!

月白ヤトヒコ
ホラー
妻と離縁した。 学生時代に一目惚れをして、自ら望んだ妻だった。 病弱だった、妹のように可愛がっていたイトコが亡くなったりと不幸なことはあったが、彼女と結婚できた。 しかし、妻は子供が生まれると、段々おかしくなって行った。 妻も娘を可愛がっていた筈なのに―――― 病弱な娘を育てるうち、育児ノイローゼになったのか、段々と娘に当たり散らすようになった。そんな妻に耐え切れず、俺は妻と別れることにした。 それから何年も経ち、妻の残した日記を読むと―――― 俺が悪かったっ!? だから、頼むからっ…… 俺の娘を返してくれっ!?

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

骸行進

メカ
ホラー
筆者であるメカやその周囲が経験した(あるいは見聞きした)心霊体験について 綴ろうと思います。 段落ごと、誰の経験なのかなど、分かりやすい様に纏めます。

これ友達から聞いた話なんだけど──

家紋武範
ホラー
 オムニバスホラー短編集です。ゾッとする話、意味怖、人怖などの詰め合わせ。  読みやすいように千文字以下を目指しておりますが、たまに長いのがあるかもしれません。  (*^^*)  タイトルは雰囲気です。誰かから聞いた話ではありません。私の作ったフィクションとなってます。たまにファンタジーものや、中世ものもあります。

処理中です...