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人形のような天弥を見つめ、斎に連絡を入れた方が良いのだろうかとサイラスは悩む。
「天弥、先生に連絡しよか?」
生徒の姿が周囲から無くなったことを確認し、尋ねた。天弥はその言葉に反応するかのように、身体が小さくビクつくと足を止めた。収まっていた涙が再び溢れ、絶望に彩られた顔を力なく横に振る。
「分かった」
天弥の様子に、サイラスはそう答えると再び足を踏み出す。
「ほな、家まで送るわ」
学校からそう遠くない天弥の家を目指した。
斎は教室に入ると、いつも真っ先に確認する場所を見る。だが、そこに在るはずの姿はなく空席が二つ並んでいるだけだった。
昨日の放課後、我に返ってすぐに、天弥の残したかばんを手にその後を追いかけた。どこへ行ったのかも分からず、行きそうな場所を考えたが、校内で思いつくのは、この教室しかなかった。もちろん教室にその姿はなく、すでに校外へ出たのかもしれないと思い、玄関へと向かった。
玄関はやけにうるさく騒ぐ生徒たちが多数おり、何があったのかを傍にいた生徒に尋ねてみた。生徒の話で、泣いている天弥をサイラスが抱きかかえて連れて行ったのだという事を知った。
すぐに追いかけようとしたが、何をどう言えばよいのか分からず、足はその場に止まったままだった。
誰が好きなのかと問われれば、それは間違いなく天弥だ。どちらの天弥が好きなのかと問われれば、それは分からない。性格や雰囲気は違うが、同じ顔に同じ身体、斎にとっては同じ人物なのだ。
ざわめく生徒たちに帰宅を促すと、落ち着いて考えをまとめようと、いつもの部屋へと戻る。
部屋に戻るとソファーに腰掛け、手にしたかばんをすぐ横に置くと煙草を一本取り出した。口に銜え、火を点ける。天弥の好きな甘い丁子の香りが、辺りに漂う。
何をどう考えても上手くまとまらず、吸いかけの煙草を灰皿に押し付けると立ち上がった。白衣を脱いでソファーに置くと天弥の鞄を手にし、教科室を後にした。
とにかく話をしようと思い、天弥の家へと向かう。インターフォンを押すと、入院中に何度か会った天弥の母親が出てきた。忘れていった鞄を届けに来た事と、天弥と話をしたい旨を伝えた。
母親は困ったような表情を浮かべた。天弥は帰ってくるなり部屋に閉じこもったままで、誰とも会おうとしないと言う。あまり強く出ることも出来ず、その場は引き上げることにした。
帰宅してからはずっと、携帯を握り締めていた。文章のみのメールは誤解を生みやすいために避けたかったが、天弥の携帯は何度呼び出しても反応がなかった。仕方がなく、話がしたいとだけ書き、メールを送った。天弥からの返事を待ち続けたが、来ることはなかった。
今日、学校で天弥と話をしようと考えていた。だが天弥は欠席だと知り、それは叶うことがなかった。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、斎は我に返る。自分はまともに授業をしていたのかと不安になり、黒板を見た。そこを見る限り、まともに授業は出来ていたと思えるもので、胸を撫で下ろす。
「天弥、先生に連絡しよか?」
生徒の姿が周囲から無くなったことを確認し、尋ねた。天弥はその言葉に反応するかのように、身体が小さくビクつくと足を止めた。収まっていた涙が再び溢れ、絶望に彩られた顔を力なく横に振る。
「分かった」
天弥の様子に、サイラスはそう答えると再び足を踏み出す。
「ほな、家まで送るわ」
学校からそう遠くない天弥の家を目指した。
斎は教室に入ると、いつも真っ先に確認する場所を見る。だが、そこに在るはずの姿はなく空席が二つ並んでいるだけだった。
昨日の放課後、我に返ってすぐに、天弥の残したかばんを手にその後を追いかけた。どこへ行ったのかも分からず、行きそうな場所を考えたが、校内で思いつくのは、この教室しかなかった。もちろん教室にその姿はなく、すでに校外へ出たのかもしれないと思い、玄関へと向かった。
玄関はやけにうるさく騒ぐ生徒たちが多数おり、何があったのかを傍にいた生徒に尋ねてみた。生徒の話で、泣いている天弥をサイラスが抱きかかえて連れて行ったのだという事を知った。
すぐに追いかけようとしたが、何をどう言えばよいのか分からず、足はその場に止まったままだった。
誰が好きなのかと問われれば、それは間違いなく天弥だ。どちらの天弥が好きなのかと問われれば、それは分からない。性格や雰囲気は違うが、同じ顔に同じ身体、斎にとっては同じ人物なのだ。
ざわめく生徒たちに帰宅を促すと、落ち着いて考えをまとめようと、いつもの部屋へと戻る。
部屋に戻るとソファーに腰掛け、手にしたかばんをすぐ横に置くと煙草を一本取り出した。口に銜え、火を点ける。天弥の好きな甘い丁子の香りが、辺りに漂う。
何をどう考えても上手くまとまらず、吸いかけの煙草を灰皿に押し付けると立ち上がった。白衣を脱いでソファーに置くと天弥の鞄を手にし、教科室を後にした。
とにかく話をしようと思い、天弥の家へと向かう。インターフォンを押すと、入院中に何度か会った天弥の母親が出てきた。忘れていった鞄を届けに来た事と、天弥と話をしたい旨を伝えた。
母親は困ったような表情を浮かべた。天弥は帰ってくるなり部屋に閉じこもったままで、誰とも会おうとしないと言う。あまり強く出ることも出来ず、その場は引き上げることにした。
帰宅してからはずっと、携帯を握り締めていた。文章のみのメールは誤解を生みやすいために避けたかったが、天弥の携帯は何度呼び出しても反応がなかった。仕方がなく、話がしたいとだけ書き、メールを送った。天弥からの返事を待ち続けたが、来ることはなかった。
今日、学校で天弥と話をしようと考えていた。だが天弥は欠席だと知り、それは叶うことがなかった。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、斎は我に返る。自分はまともに授業をしていたのかと不安になり、黒板を見た。そこを見る限り、まともに授業は出来ていたと思えるもので、胸を撫で下ろす。
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