apocalypsis

さくら

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 斎の言葉に、天弥とサイラスは揃って足を踏み出した。変わらず、サイラスの手は天弥の腕を掴んでいる。二人の後に続いて歩き出した斎の視線は、どうしてもそこから離れることが出来ない。なぜ、天弥はおとなしく腕を掴まれたままなのかと、気が気でない。
「あ、そうや。天弥、今日ゲーセンに付き合うてや」
 歩きながら、サイラスが天弥に話しかける。斎の視線を痛いほど感じながらも、それを無視する。
「ミントちゃんカードゲームの、ウルトラレアが欲しいんや」
 羽角からの連絡はまだない。今はまだ天弥の前に現れるとは思えないが、万が一ということもある。もし、羽角が自ら姿を消したのだとしたら、必ず天弥の前に現れる。可能性がある以上、なるべく傍に置いておきたい。
「僕、今日は用事があるから……」
 小さな声で答える天弥に、サイラスは軽く視線を向けるとすぐに戻した。
「さよか。ほな、明日でもええで」
 天弥は腕に力を入れその手を振り払う。
「ごめんなさい。僕、行けない」
 サイラスの事は好きだと思うが、それは友人としてだ。仲良くしたいとは思うが、一緒にいる事で、また土曜日のような事になるのは避けたかった。
「ほな、一人で行くか」
 一瞬、少し驚いた表情を向けると、そう答えた。
 一つに纏められた金の髪が揺れる背中を、天弥は見つめた。本当は、サイラスに好きだと言ったのかもしれない。気を使って、冗談だという事にしてくれたのかもしれない。でなければ、捨てられたというのが分からなくなる。
 教室の前にたどり着くと、斎はドアをノックし、中にいる教師を呼び出した。斎は状況を説明し終えると、天弥とサイラスに背を向けて歩き出した。天弥はその背中を見つめるが、教師に促され渋々と教室内へと入る。
 二人が着席すると、教師は何事もなかったかのように授業を再開した。授業をする教師の声など耳に入らず、天弥は記憶がない時の事を考えていた。
 最初は自分の部屋にいたはずなのに、気がついたら廊下にいた。ボーっとしていたのかとその時は思った。そんなことが何度かあったが、すべて家の中だけでの事だった。花乃が自分を避けるようになり、さすがに変だと思い始めた頃、学校でも記憶が無くなった。
 四時間目の終わりを知らせるチャイムが鳴ったところまでは覚えている。そして、いきなり斎の端正な顔が目の前にあった。抱きついてもいた。なぜ、いきなりそうなったのか、皆目検討がつかない。
 斎の容姿なら、相手には不自由をしないと思われる。それに教師という立場も考慮に入れると、自分に対して何かをするという事は考え難い。
 それならやはり、記憶のない自分がキスや抱擁をねだったとしか考えられなかった。だが、なぜ斎がそれを受け入れたのかが謎である。本来なら同性同士、嫌悪される事はあっても、受け入れられるはずは無いのだ。
 もしかすると、斎と記憶の無い時の自分は特別な関係でもあるのだろうかと考える。それならば、放課後に記憶が無くなった時の事も説明できる。
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