apocalypsis

さくら

文字の大きさ
上 下
116 / 236
nosce te ipsum

novem

しおりを挟む
 授業を終え教室を出ると斎は、白衣のポケットから携帯を取り出した。朝、病院へ行ってから登校すると天弥から連絡があった。すぐに、終わったらメールで連絡を入れるようにと伝えた。
 四時間目が始まるまで、天弥からの連絡はなかった。授業中に連絡が来ても大丈夫なように、今日はマナーモードに設定をして、携帯を身に着けていた。
 待ちわびた天弥からのメールが届いており、急いでそれを確認する。昼休み前には学校へ着くと記されていた。それを読み、教科室へと急ぐ。
 昼休みに入り、生徒たちがざわつき溢れる廊下を、ひたすら目的地へと向かう。廊下を歩く生徒の姿が減り、まったく見かけなくなると数学の教科室が見えた。もともとあまり生徒が来ない場所というのもあるが、数学は生徒の嫌いな教科の代表のため、わざわざここに生徒が来ることはほとんど無い。
 逸る気持ちを抑えながらドアを開ける。すぐに、ソファーに腰掛けている人影が振り向き、視線を向けた。すぐにドアを閉め、鍵をかける。
「先生」
 嬉しそうな笑みを浮かべ、斎を呼びながら天弥が立ち上がった。すぐに近寄り、その身体に抱きつく。斎も天弥を抱きしめようとしたが、教科書や資料が邪魔になり片腕で抱きしめることになってしまった。
「どうだった?」
 問いかけられ、天弥は戸惑いを浮かべながらその顔を見つめた。
「とりあえず座れ」
 天弥の様子に何かあったのかと思い、とりあえずソファーへ座らせる。天弥のすぐ横に、斎も腰を下ろす。
「あの……、よく分かんないんです……」
 少し俯きながら、天弥が答える。
「分からない?」
 小さく天弥が頷く。
「お母さんが、良いところがあるっていうから連れて行ってもらったんだけど……」
 天弥は少し口を閉ざした後、思い切ったように言葉を発した。
「僕、途中ですごく眠くなっちゃって、気がついたら寝てたんです。だから、よく分からなくて……」
 顔を伏せている天弥を見つめた。
「でもお母さんが、特に身体に異常は無いってお医者さんが言ったって教えてくれました」
 天弥の話は要領を得ないが、察するところ内科で検査をしたというところだろう。腕に残る針の後が、それを物語っている。
 記憶の欠如は、人格が入れ替わっているためだと思われる。本来なら精神科だと思うのだが、たまに記憶が無いだけでは、いきなり精神科へということも考えにくい。
 斎は手を伸ばし、天弥の頬に触れる。ゆっくりと顔を上げ、天弥は斎を見つめた。
「特に異常がないなら、良かった」
 天弥が少しでも安心できるのなら、それで良いと思い、斎は自分の考えを飲み込む。天弥には人格が二つあると思われる。今現在は、この天弥が主人格だろうが、基本人格は三歳まで存在していたもので、おそらく三度、斎の前に現れた天弥がそうだと推測できる。
 目の前にある天弥の顔を、斎は見つめる。同じ顔、同じ身体だが、性格や雰囲気がまったく違う。もし、予想通り人格が二つあった場合、そしてそのどちらかを選ばなければならなくなった場合、自分はどうするのだろうかと考える。
「先生?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

ドリームホテル

篠崎マーティ
ホラー
訪れた者の願いが叶う不思議なホテル”ドリームホテル” 今日も訪れた客の夢は、思いもよらない形となって成就し、彼らを奈落の底に引きずり込んでいく……。 一話完結型のグロテスク胸糞系インモラルホラー小説集。 客は大体みんな発狂するか死にます。

月のない夜 終わらないダンスを

薊野ざわり
ホラー
イタリアはサングエ、治安は下の下。そんな街で17歳の少女・イノリは知人宅に身を寄せ、夜、レストランで働いている。 彼女には、事情があった。カーニバルのとき両親を何者かに殺され、以降、おぞましい姿の怪物に、付けねらわれているのだ。  勤務三日目のイノリの元に、店のなじみ客だというユリアンという男が現れる。見た目はよくても、硝煙のにおいのする、関わり合いたくないタイプ――。逃げるイノリ、追いかけるユリアン。そして、イノリは、自分を付けねらう怪物たちの正体を知ることになる。 ソフトな流血描写含みます。改稿前のものを別タイトルで小説家になろうにも投稿済み。

甘いマスクは、イチゴジャムがお好き

猫宮乾
ホラー
 人間の顔面にはり付いて、その者に成り代わる〝マスク〟という存在を、見つけて排除するのが仕事の特殊捜査局の、梓藤冬親の日常です。※サクサク人が死にます。【完結済】

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...