apocalypsis

さくら

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suggestio veri, suggestio falsi

viginti duo

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 なぜ、羽角は十三年ぶりにいきなり連絡を寄越したのか考える。タイミング的に斎が胡桃沢に会った直後だと思われる。それも気にかかるところだ。
「失礼ですが、もし良ければどのような話をされたのか、教えていただけますか?」
 個人間でなされた会話の内容について尋ねるのは失礼だと思いつつ、確認をせずにはいられなかった。
「話といっても、他愛の無い世間話ばかりじゃったんだが……」
 わざわざ世間話をするために、羽角は胡桃沢と連絡を取った訳ではないはずだ。単純に思いつくのは、天弥と接触したことだ。もしそうだとしたら、何か天弥と胡桃沢との接触を避けたい理由でもあるのだろうか。
「そうですか……。すみません、ありがとうございます」
 前回の話と今回の話を併せて考えてみても、胡桃沢は天弥の事は何も知らないようだ。だが、十三年前に召喚を試みたときに天弥が居たという事、サイラスが所属する教団が欲しがっている事などを考えると、天弥は召喚に関して何かの関わりがあるように思える。
「それで、御神本くんが見たというものについてじゃが」
「はい」
「誰かが召喚をしたのかのぉ?」
 興味深げな表情を浮かべ、胡桃沢が尋ねてきた。
「いえ、いきなり現れたんです」
 斎の答えに、胡桃沢は何かを考え込む。
「バイアキーは、この時期に召喚するのは無理なはずじゃが……」
 召喚の条件を考えれば、確かに無理に近い状況である。
「その時、他に何か変わった事はなかったのかのぉ?」
 胡桃沢の問いに、斎は慎重に答えを選ぶ。まだ、胡桃沢が教団と無関係だと決まったわけではない。
「アーカムから来たという、白人の少年が居ました」
「ふむ……」
 斎の言葉に、胡桃沢の視線がどこか遠くを見つめるかのように動いた。
「それに関しては、心当たりが無いわけじゃないのぉ」
 その言葉に、斎の表情が変わる。それとは、バイアキーについてなのか、それともサイラスについてなのか考える。
「ちょっと確認してみるかのぉ……」
「はい、お願いします」
 そう言い、斎は軽く頭を下げた。
「何か分かった時は、連絡をお願いします」
 斎は胡桃沢に向かってそう言うと、椅子から立ち上がった。
「すみません。天弥と約束がありますので、今日はこれで失礼します」
 胡桃沢も釣られて立ち上がる。
「おぉ、そうか。あの子によろしくのぉ」
「はい」
 斎は胡桃沢に向かい会釈をすると、ドアへと足を踏み出した。
「あー、そういえば」
 胡桃沢の声に、歩き出した斎の足が止まる。
「井上くんから聞いたんじゃが、入院をしていたそうじゃのぉ?」
 井上という名字に、義兄がここの理学部数学科の卒業生だった事を思い出す。
「はい。今日、退院しました」
 その言葉に、胡桃沢は申し訳なさそうな表情をする。
「退院したばかりなら、話は後日にすれば良かったのぉ」
「いえ、身体はもう大丈夫なんです」
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