apocalypsis

さくら

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suggestio veri, suggestio falsi

quindecim

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 兄の天弥の事は、嫌いな訳ではない。むしろ、普段は大好きなのだ。あまり兄らしいところはなく、自分がしっかりしなくてはと思わせる。実際に四ヶ月しか年の差がないため、あまり年上だとも思えない。一緒に歩いていても兄妹と見られることは無く、女同士の友人に見られてしまう。
 初めて、別人のような天弥を見た時、囚われそうになった。なんとか踏み止まれたのは、兄妹として過ごした年月のせいなのかもしれない。天弥に対して恐怖を抱いている訳ではなく、自ら進んで囚われてしまいそうになるのが怖いのだ。
 鈍く輝く空とその眼下に広がる街並みを、何するともなく見つめた。いつまでここに居れば良いのかと考え、サイラスの姿を思い浮かべる。
 サイラスは何故ここに居たのか、ここはいったい何なのかと考えてみた。ただ、母親に行くようにと言われただけであり、何も分からないのだが、サイラスが居たということは、ここと何か関係があるのかもしれない。もしそうなら、これからも会う機会はあるのだろうかと、考える。
 背後でドアの開く音がして、振り返った。
「ほな、行こか?」
 その見目の良い姿を捉えると同時に声をかけられ、ドアへと向かって足を踏み出した。どこへ行くのかと考えながら、その後ろ姿に付いて行く。
 エレベーターの前でサイラスは足を止めると、下へと向かうボタンを押した。
「あの……?」
 不思議に思い、声をかける。サイラスが花乃を見た。
「俺も帰るし、送ってくわ」
 そう言うとサイラスは花乃の手を掴み、ドアが開いたエレベーターへと乗り込んだ。
「私、まだ用事が……」
 閉まるドアを見つめながら、花乃が口を開く。
「ええから」
 花乃の言葉を遮り、サイラスは目的の階数を押した。花乃はサイラスへと視線を向ける。
「ほんで、もうここには来たらあかん」
 サイラスの言動と行動が理解できず、どう対応してよいのか分からずに悩む。だが、変わらず自分の手を掴むその感触が、思考を鈍らせ始める。
 出来る事なら、教団とは手を切りたい。そうサイラスは考える。向こうに居た時は、そんな事は考えもしなかった。ただ、深きもの達と戦っているだけで良かったのだ。むしろ、楽しいとさえ思っていた。単純な戦闘だけをしている方が、楽だし性に合っている。
 サイラスは花乃へと視線を向けた。教団が、花乃に何をさせようとしていたのかを聞いた。嬉々として話す相手に、思わず手が出そうになった。
 天弥と関係を持たせるつもりだったと聞いた。斎や天弥の父親の時のように、時間を掛けていられないということで、花乃に白羽の矢が立ったのだ。
 教団が何を欲し、それを何に使おうとしているのか、簡単に予想がついた。それは羽角の専門分野であるため、多少なりとも知識はあるからだ。そして、あわよくば天弥自身も手の内に納めようとの考えもあったはずだ。
 エレベータのドアが開き、サイラスは花乃の手を引きながら外へと出た。花乃は、おとなしくそれに従う。
 一向に離れる気配の無い繋がれた手の感触に、花乃は戸惑いながら少し俯く。先程までは、驚きと疑問のためか、繋がれた手にまで考えが及ばなかった。今現在は、自分でもはっきりと分かるぐらい体温が上がっている。おそらく、顔もかなり赤くなっているのだろうと、理解できた。
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