apocalypsis

さくら

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suggestio veri, suggestio falsi

novem

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 そして現在、天弥と自分は恋仲にある。お互いに、十二年前の事は覚えていない状態で再び出会い、恋慕を抱いた。天弥に、十二年前のことを確認した訳ではないが、覚えている様子は見受けられなかった。
 今現在の状況では、何かがあると疑われても仕方がない。初めて出会ってから十二年後に再開をし、恋情を抱きあったのだ。しかも、互いに同性だというのにも関わらず。
 天弥に何らかの影響を与えていると思われ、調べられているという事は、その手立てなどを知りたいということだと予想する。影響とは言っているが、使いものにならないという発言から考えるに、天弥を何かに使うためにコントロールする術が必要なように思える。
 今の時点で自分が手にした情報を整理し始める。事の始まりは、天弥の妹の花乃が一冊の本を持ってきたところだと思っていた。だが実際には、十二年前に既に天弥と出会っており、それが始まりだったようだ。しかし、天弥はそこが始まりではないはずだ。
 記憶を辿り、自分が与えられた情報の中で、一番古い年月を探し出す。二十五年前、天弥の祖父がネクロノミコンを手に入れた。胡桃沢が言ったそれがもっとも古いものであるが、その当時、天弥はまだ存在していない。
 次に古いのは十七年前、これも胡桃沢が言ったことだ。この時、天弥の祖父が封印されたものを呼び出そうとしたと言っていた。あの時は、創作世界の出来事が現実に起こるとは思ってもいなかった。胡桃沢の話を、どこか絵空事のように思っていた。面白いものを手に入れた、その程度の感覚だったのだ。
 十七年前、天弥が生まれる前だが、その時、天弥の祖父は何を呼び出そうとしていたのか、そしてそれは成功したのか、その事に関して胡桃沢は何も言わなかった。
 封印された邪神を召喚するのは、簡単な事ではない。正しい星の位置、呼び出すものによっては儀式やアイテム、時間、そして呪文が必要だ。眷属や奉仕種族を呼び出すのも容易ではないというのに、簡単に邪神を召喚できるとも思えない。
 奉仕種族という言葉に、引っかかりを覚えた。召喚されたと思われる奉仕種族を、一度だが目にしていると、その時の記憶を思い出す。それは風を象徴とする邪神ハスターの、下級奉仕種族バイアキーと同じ形容だった。
 バイアキーを召喚するには、ヒアデスが地平線上にある時、魔法のかかった石笛を吹き、ハスターへ捧げる呪文を唱えることによって召喚できる。あの時、それを行った人物が傍に居たということになる。
 ハスターの下級奉仕種族だという事から考えて、自分の考えが間違っていなければ、それはサイラスの背後にあると思われる組織、ハスター教団の人物と考えるのが妥当だと思う。
 そう考えた瞬間、疑問が湧きあがった。ヒアデスはおうし座にある散開星団で、それが見られるのは冬になる。今の時期、夕方に見ることも出来るが、あの時間帯では見ることが出来なかったはずだ。条件を満たしていないのに、なぜ召喚が可能なのか。それとも作中の召喚方法とは異なるのか。
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