70 / 236
emitte lucem et veritatem
septem
しおりを挟む
サイラスの回し蹴りを、なんとか右腕で受け止めるが、スピードと重さの乗った蹴りは、あっさりとガードごと斎をふき飛ばす。
サイラスの蹴りで体勢を崩し、よろけた身体を次の攻撃に備えてすぐに立て直す。だがサイラスは、攻撃する様子も見せずに余裕でその場に立ち尽くしていた。あれで終わりだというのならありがたいと思うが、表情を見る限り、それは無いだろうと判断する。むしろもっと楽しみたいという感じだ。
「顔面は禁止なんだ」
いきなりの顔面への攻撃から、サイラスが自分と同じフルコンタクトの空手ではない事を判断する。そして相手の出方を探るように、話しかけた。
「知っとるで、せやけど、俺には関係あらへんし」
その返事で、確信する。
「総合格闘技……、NHBか?」
サイラスの口角が上がり、挑戦的な笑みを浮かべた。
「そうや」
最悪だと心のなかでため息を吐く。No Holds Barred、略してNHB、いわゆる禁じ手無しの意味で、投げ技や固め技を使われたら、打撃系格闘技はかなり不利になる。
「せんせー、鈍っとるんとちゃう?」
サイラスの言葉を聞きながら、斎は呼吸を整える。
「だから、ブランクがあると言っただろ」
おそらく無傷というのは無理だと考える。六年前なら、何とかなったかもしれないが、それでも勝てたかどうかは分からない。身体能力もスピードも、格段の差がある相手なのだ。
サイラスと距離を取りながら構え、相手の動きに集中する。互いに僅かずつ距離を縮め相手の出方を見る。高まる緊張の中、斎は正拳を繰り出す。すぐにサイラスもそれに応えるように拳を繰り出し正拳突きを受け流す。互いに繰り出される拳の中、斎はサイラスのわき腹をめがけて膝蹴りを出すが、右足を引き軽くかわされる。そのままサイラスは左腕を引くと踏み込みと共に、勢いよく斎にめがけて裏拳を繰り出した。斎はかろうじてそれを両腕で受け止める。
互いに距離を取り合い、斎がサイラスに向かって前蹴りを繰り出した瞬間、辺りに不似合いな音楽が流れ始めた。
「あ、ちょー待っとってや」
斎の蹴りを軽くかわしたサイラスは、携帯を取り出す。そこからは、軽快な音楽に可愛い声の歌声という何かのアニメソングが聞こえてきた。斎は思わずその場に固まる。
「Hello」
通話を始めたサイラスを、呆気にとられながら斎はただ見つめることしか出来なかった。
「そんなん、そっちのミスやろ。知るか! こっちは今、御神本 斎と交渉中なんや」
何かもめている様子から、何かあったのだろうかと、サイラスの様子や言動を注意深く伺う。
「なんで俺の仕事、増やすんや!」
不機嫌極まりない様子でそう言い捨てるとサイラスは、携帯のボタンを押し通話を終えた。
「あー、先生、悪いんやけど仕事が入ったんで、また今度っちゅうことで」
言い終わると同時に、サイラスは走り出した。
「ほな、またなー」
「おい、ちょっと待て!」
その後ろ姿に向かって声をかけ、後を追いかけようとするも、すでにその姿は無く、諦め辺りを見回した。すぐにベンチを見つけ、そこへと向かう。
サイラスの蹴りで体勢を崩し、よろけた身体を次の攻撃に備えてすぐに立て直す。だがサイラスは、攻撃する様子も見せずに余裕でその場に立ち尽くしていた。あれで終わりだというのならありがたいと思うが、表情を見る限り、それは無いだろうと判断する。むしろもっと楽しみたいという感じだ。
「顔面は禁止なんだ」
いきなりの顔面への攻撃から、サイラスが自分と同じフルコンタクトの空手ではない事を判断する。そして相手の出方を探るように、話しかけた。
「知っとるで、せやけど、俺には関係あらへんし」
その返事で、確信する。
「総合格闘技……、NHBか?」
サイラスの口角が上がり、挑戦的な笑みを浮かべた。
「そうや」
最悪だと心のなかでため息を吐く。No Holds Barred、略してNHB、いわゆる禁じ手無しの意味で、投げ技や固め技を使われたら、打撃系格闘技はかなり不利になる。
「せんせー、鈍っとるんとちゃう?」
サイラスの言葉を聞きながら、斎は呼吸を整える。
「だから、ブランクがあると言っただろ」
おそらく無傷というのは無理だと考える。六年前なら、何とかなったかもしれないが、それでも勝てたかどうかは分からない。身体能力もスピードも、格段の差がある相手なのだ。
サイラスと距離を取りながら構え、相手の動きに集中する。互いに僅かずつ距離を縮め相手の出方を見る。高まる緊張の中、斎は正拳を繰り出す。すぐにサイラスもそれに応えるように拳を繰り出し正拳突きを受け流す。互いに繰り出される拳の中、斎はサイラスのわき腹をめがけて膝蹴りを出すが、右足を引き軽くかわされる。そのままサイラスは左腕を引くと踏み込みと共に、勢いよく斎にめがけて裏拳を繰り出した。斎はかろうじてそれを両腕で受け止める。
互いに距離を取り合い、斎がサイラスに向かって前蹴りを繰り出した瞬間、辺りに不似合いな音楽が流れ始めた。
「あ、ちょー待っとってや」
斎の蹴りを軽くかわしたサイラスは、携帯を取り出す。そこからは、軽快な音楽に可愛い声の歌声という何かのアニメソングが聞こえてきた。斎は思わずその場に固まる。
「Hello」
通話を始めたサイラスを、呆気にとられながら斎はただ見つめることしか出来なかった。
「そんなん、そっちのミスやろ。知るか! こっちは今、御神本 斎と交渉中なんや」
何かもめている様子から、何かあったのだろうかと、サイラスの様子や言動を注意深く伺う。
「なんで俺の仕事、増やすんや!」
不機嫌極まりない様子でそう言い捨てるとサイラスは、携帯のボタンを押し通話を終えた。
「あー、先生、悪いんやけど仕事が入ったんで、また今度っちゅうことで」
言い終わると同時に、サイラスは走り出した。
「ほな、またなー」
「おい、ちょっと待て!」
その後ろ姿に向かって声をかけ、後を追いかけようとするも、すでにその姿は無く、諦め辺りを見回した。すぐにベンチを見つけ、そこへと向かう。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
狂いハッピーエンドは、いかがです?
大黒鷲
ホラー
これは、ある田舎で起きた物語である。
この物語は狂っている。
人間は、狂っている。
誰も予測できない。
人によっては、ハッピーエンドは違うものだ。
そんな物語はいかがです?
6畳間のお姫さま
黒巻雷鳴
ホラー
そのお姫さまの世界は、6畳間です。6畳間のお部屋が、お姫さまのすべてでした。けれども、今日はなんだか外の様子がおかしいので、お姫さまはお部屋の外へ出てみることにしました。
※無断転載禁止
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
冷甘メイドの怪奇図書
要 九十九
ホラー
亡くなったじいちゃんの遺産として受け継いだお屋敷。辿り着いたその先で……。
「……お帰り下さい」
「俺のじいちゃんの家なのに!?」
何故か帰らされそうになる俺。
そこで手渡された一冊の本……。
怪談が書かれたその本は、じいちゃんが直接見て書いたものだと、屋敷のメイドは言う。
半信半疑のまま俺が案内されたのは、屋敷の地下に隠された大きな図書館……。
怪しく、不思議な物語が数多蔵書されたその場所は、俺の祖先が未来や過去、現在の様々な出来事を、その特殊な能力で見て記した怪奇図書が眠る場所だった。
だが、じいちゃんが残したのはそれだけじゃない。
落ち着いた雰囲気、キラキラと輝く金髪に誰もが振り向く美貌、スタイルまで完璧な上に、とんでもなく強い。
でも、何故か俺を見る目だけがおかしい不思議なメイド……。
そもそもこんな人がいるなんて聞いてないんですけど!?
どうして怪奇図書館は作られたのか?
メイドの正体に、じいちゃんとの関係、最近何度も見る同じ夢に、闇から突如現れる口の裂けた女……。
やがて、それらは警察をも巻き込んだ大きな事件へと発展していく。
全てを知った時、俺は何を決断するのか?
顔も名前すらも知らなかったじいちゃん……。
俺はじいちゃんの事を知りたい。ちゃんと知って悲しんで、しっかりと向き合いたい。その為に、俺は……。
一冊の本を開いた瞬間から、俺の人生は終わり、物語が動き始める。
怪しく、不思議な物語。
怪奇図書の世界へようこそ……。
奇々怪々な沢山の物語があなたをお待ちしています。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2024/12/29:『みしらぬせいと』の章を追加。2025/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/28:『てのむし』の章を追加。2025/1/4の朝8時頃より公開開始予定。
2024/12/27:『かたにつくかお』の章を追加。2025/1/3の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2025/1/2の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/25:『しんねん』の章を追加。2025/1/1の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/24:『おおみそか』の章を追加。2024/12/31の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/23:『いそがしい』の章を追加。2024/12/30の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/22:『くらいひ』の章を追加。2024/12/29の朝8時頃より公開開始予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる