apocalypsis

さくら

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emitte lucem et veritatem

quinque

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「なんで、番号を知っている?」
 即座に疑問が口を吐いた。相手はそれには答えず、要求を述べる。言われた通りカーテンを捲り、窓の外を覗く。そこには、部屋を見上げるサイラスの姿があった。
 斎は携帯の通話を終え、部屋を出ると外へと向かった。玄関を出るとすぐそこに、サイラスの姿を確認する。
「なぜ、番号を知っているんだ?」
 再度、疑問を口にする。携帯の番号を教えた事はない。なのに、なぜ知っているのかと、当然の疑問を投げかける。
「あー、悪いんやけど、それは企業秘密や」
 どこまでふざけているのかと思うが、もしかするとサイラスは、簡単にそれを知る事が出来るのだろうか。守秘義務があると言ったことなどから、個人で動いているのではないと思われる。
「そんな事より、話があるんやけど」
「なんだ?」
 斎はサイラスを見た。同じように相手からも視線が返ってくる。
「俺、天弥が欲しいんやけど」
 ある意味、予想通りの言葉であるが、やはり思考が一瞬、停止する。
「……Pardon?」
 一応、何かの言い間違いかと思い、英語で聞き返す。
「俺、天弥が欲しいんや。せやから先生、あいつのこと諦めてくれへんか?」
 思いかけず日本語で返ってきた言葉を、頭の中で整理し始める。それは、天弥の事が好きだということなのか、それとも天弥自身が必要だということなのか、どちらの意味が正しいのか、それとも他に理由があるのか判断がつかなかった。
「ちょっと待て……、場所を移動していいか?」
 ここで言い合いになった時の事を考え、斎はサイラスに提案をする。
 了承の言葉を聞くと斎は歩き出した。少し距離があるが、小さな公園がある。そこならとりあえず、大丈夫だろうと判断した。
 黙って後を付いて来るサイラスに、特に変わった様子は見られない。歩きながら斎は、先ほどの発言を思い浮かべる。
 普通に考えて可能性が高いのは、天弥が好きだということだ。好きになるのに、時間は必要ないと言われればそれまでだが、サイラスの場合、何か裏がありそうな気がしてならない。
「なんや、天弥の家の近くやな」
 斎は足を止めた。
「天弥の家を知っているのか?」
 背後でサイラスの足が止まる気配を感じながら、尋ねる。
「そりゃまあ、それに先生の家も知っとったやろ?」
 返事を聞くと斎は再び足を踏み出す。すぐに、サイラスが後を付いて来る気配を感じた。
 何をどこまで知っているのだろうか。どうすれば、それを聞き出す事が出来るのか、斎は考え込む。
 やがて、小さな公園に辿りつくと斎は、一応、人気がないことを確認する。
「とりあえず、ここでいいか?」
 斎は足を止め、振り返るとサイラスに確認を取った。
「かまへんで」
 公園の中へと足を踏み出した斎の後に、サイラスが続く。
「で、さっきの話の続きなんだが」
 声をかけながら振り向き、サイラスを見た。
「言った通りや」
 意図が読めず、斎はどう対応してよいのか少し悩む。
「天弥とは一週間かそこらなんやし、今なら未練もなく別れられるやろ?」
 普通に世間話でもするかのごとく話すサイラスに、斎は少し怒りを覚える。
「悪いが、無理だ」
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