66 / 236
emitte lucem et veritatem
tres
しおりを挟む
そしてなぜ、花乃はここまで天弥を避けるのかと考える。以前、言っていた花乃の言葉を思い出す。本を手に入れてから、人が変わったようになることがある。そう言っていた。自宅では、頻繁にあの天弥が現れているという事なのだろうか、思考を巡らしながら天弥を見つめる。
「天弥、昨日の夜は何をしていた?」
直接その事に触れるのを避け、間接的に尋ねてはみたが、いきなりの質問にかえって疑問をもたれるのではと、斎は危惧する。
「え? えっと、ちゃんと勉強してました」
マグカップを両手で抱えるように持ちながら、天弥が答える。斎の問いを、真面目に勉強していたのかを聞かれたと判断したのだ。
「そうか」
斎の言葉に天弥は、何か安心したような表情を浮かべた。そして、マグカップを机の上に置くと、弁当を膝の上で広げ始める。
その返事と様子でが何も判断ができず、やはり直接尋ねようと、斎は思いたつ。
「そういえば、記憶が飛んでいるとかいうのは、どうなった?」
天弥の手が止まる。同じくサイラスの手も止まり、天弥を見た。
「一昨日の夜、ありました……」
重い口を開くように答える。それを聞き、斎は驚きの視線を向けた。
「なんで言わないんだ?」
思わず声を荒げ、天弥に問いただす。
「あ……、ごめんなさい。夜だったから、迷惑かと思って……」
本当は、斎には知られたくなかった。自分の変なところを知られれば、愛想をつかされると不安になるからだ。
「……よくあるのか?」
少し迷いながら、斎が尋ねる。それに対し、天弥は小さく首を横に振った。
「先生に話してからは、一昨日の夜だけです」
天弥の答えに、斎は複雑な表情を浮かべる。心を奪われた相手に会いたいと願うが、それが叶わぬ状況に苛立ちを覚える。
「なにかあったら、すぐに連絡しろ。分かったか?」
少し語気を荒く言われ、斎を怒らせたと思いながら、天弥は力なく頷いた。
「とりあえず、食うか」
さらに落ち込んだ様子の天弥に向かって声をかけた。サイラスは、その二人の様子を見ながら、なぜ自分はここに居るのだろうかと考える。理由は簡単に推測できる。斎は情報が欲しいのだろう。
サイラスは、自分の弁当のおかずを天弥に食べさせている斎を見た。箸で天弥の口へとおかずを運ぶさまを見て、ヒナ鳥に餌を与える親鳥みたいだと思う。
おそらく、十二年前に二人が出会ったのは偶然だったはずだ。だが、今の状況を見ていると、その出会いからして運命だったのだとも思える。天弥はともかく、斎はその出会いで人生が変わってしまったのは間違いないのだ。その結果、二人は再び出会う事になったのだから、やはり運命というものはあるのかもしれない。
今度は、天弥が弁当のおかずを斎に向かって差し出した。本当に、なぜ自分はここに居るのかと、再度サイラスは考える。
「天弥、俺それがええ」
天弥の弁当の中にあるミートボールを指差し、サイラスが訴えた。
「はい」
すぐに天弥は弁当をサイラスに向かって差し出す。差し出された弁当を、サイラスはジッと見つめる。
「俺、箸もフォークもないんやけど」
「天弥、昨日の夜は何をしていた?」
直接その事に触れるのを避け、間接的に尋ねてはみたが、いきなりの質問にかえって疑問をもたれるのではと、斎は危惧する。
「え? えっと、ちゃんと勉強してました」
マグカップを両手で抱えるように持ちながら、天弥が答える。斎の問いを、真面目に勉強していたのかを聞かれたと判断したのだ。
「そうか」
斎の言葉に天弥は、何か安心したような表情を浮かべた。そして、マグカップを机の上に置くと、弁当を膝の上で広げ始める。
その返事と様子でが何も判断ができず、やはり直接尋ねようと、斎は思いたつ。
「そういえば、記憶が飛んでいるとかいうのは、どうなった?」
天弥の手が止まる。同じくサイラスの手も止まり、天弥を見た。
「一昨日の夜、ありました……」
重い口を開くように答える。それを聞き、斎は驚きの視線を向けた。
「なんで言わないんだ?」
思わず声を荒げ、天弥に問いただす。
「あ……、ごめんなさい。夜だったから、迷惑かと思って……」
本当は、斎には知られたくなかった。自分の変なところを知られれば、愛想をつかされると不安になるからだ。
「……よくあるのか?」
少し迷いながら、斎が尋ねる。それに対し、天弥は小さく首を横に振った。
「先生に話してからは、一昨日の夜だけです」
天弥の答えに、斎は複雑な表情を浮かべる。心を奪われた相手に会いたいと願うが、それが叶わぬ状況に苛立ちを覚える。
「なにかあったら、すぐに連絡しろ。分かったか?」
少し語気を荒く言われ、斎を怒らせたと思いながら、天弥は力なく頷いた。
「とりあえず、食うか」
さらに落ち込んだ様子の天弥に向かって声をかけた。サイラスは、その二人の様子を見ながら、なぜ自分はここに居るのだろうかと考える。理由は簡単に推測できる。斎は情報が欲しいのだろう。
サイラスは、自分の弁当のおかずを天弥に食べさせている斎を見た。箸で天弥の口へとおかずを運ぶさまを見て、ヒナ鳥に餌を与える親鳥みたいだと思う。
おそらく、十二年前に二人が出会ったのは偶然だったはずだ。だが、今の状況を見ていると、その出会いからして運命だったのだとも思える。天弥はともかく、斎はその出会いで人生が変わってしまったのは間違いないのだ。その結果、二人は再び出会う事になったのだから、やはり運命というものはあるのかもしれない。
今度は、天弥が弁当のおかずを斎に向かって差し出した。本当に、なぜ自分はここに居るのかと、再度サイラスは考える。
「天弥、俺それがええ」
天弥の弁当の中にあるミートボールを指差し、サイラスが訴えた。
「はい」
すぐに天弥は弁当をサイラスに向かって差し出す。差し出された弁当を、サイラスはジッと見つめる。
「俺、箸もフォークもないんやけど」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】わたしの娘を返してっ!
月白ヤトヒコ
ホラー
妻と離縁した。
学生時代に一目惚れをして、自ら望んだ妻だった。
病弱だった、妹のように可愛がっていたイトコが亡くなったりと不幸なことはあったが、彼女と結婚できた。
しかし、妻は子供が生まれると、段々おかしくなって行った。
妻も娘を可愛がっていた筈なのに――――
病弱な娘を育てるうち、育児ノイローゼになったのか、段々と娘に当たり散らすようになった。そんな妻に耐え切れず、俺は妻と別れることにした。
それから何年も経ち、妻の残した日記を読むと――――
俺が悪かったっ!?
だから、頼むからっ……
俺の娘を返してくれっ!?
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・
白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。
その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。
そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。
これ友達から聞いた話なんだけど──
家紋武範
ホラー
オムニバスホラー短編集です。ゾッとする話、意味怖、人怖などの詰め合わせ。
読みやすいように千文字以下を目指しておりますが、たまに長いのがあるかもしれません。
(*^^*)
タイトルは雰囲気です。誰かから聞いた話ではありません。私の作ったフィクションとなってます。たまにファンタジーものや、中世ものもあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる