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emitte lucem et veritatem
duo
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資料に家族構成はあったが、写真は添付されていなかったため、初めて天弥の妹の花乃を知る。
「うん」
花乃をジッと見つめるサイラスを、天弥は見上げた。
「かわええな……」
サイラスの言葉に、天弥の表情に不安の色が浮かぶ。
「紹介して」
「ダメ」
天弥はサイラスから視線を逸らし、花乃を見た。
「なんでや?」
「なんでって……」
少し俯きながら、天弥は言葉を詰まらせる。その間に、花乃は天弥達に背を向け、足早に歩き出す。
「あー、行ってしまったやないか」
遠ざかって行く花乃の後ろ姿を二人は見送った。
「ごめんね……僕、最近、花乃に嫌われてるから……」
サイラスは軽くため息を吐く。
「ま、ええわ」
その言葉が合図であるかのように、二人は歩き出す。俯きながら歩く天弥にかける言葉が思い浮かばず、サイラスも先ほどと同じく、黙って天弥の横を歩く。
斎の待つ数学科の教室の前で二人は足を止め、天弥がドアをノックする。そしてすぐにドアノブに手を掛けドアを開けた。室内から流れてくる紫煙が少し天弥の目に沁みた。
サイラスは天弥の腕を掴み、室内へと足を踏み入れる。腕を引かれるまま、天弥も室内へと足を踏み入れた。
「天弥?」
ソファーに座りながら、煙草を手にした斎が振り返る。そしてすぐに手にした煙草を灰皿に押し付け立ち上がった。俯きながらその場に立ち尽くす天弥の傍へと近寄る。
「どうした?」
斎は手を伸ばし、天弥の頬に触れる。ゆっくりと視線を上げ、天弥は斎の顔を見ると首を横に振った。二人の様子を余所にサイラスはソファーへと腰掛けると、紙袋の中から昼食を取りだす。
「天弥」
問いかけのように名を呼ばれ、天弥は目を伏せる。
「花乃に無視されただけです……」
斎の手が天弥の頬から離れた。
「僕、今日は浮かれていて、つい花乃に声をかけちゃって……」
斎の手が天弥の頭の上に置かれる。サイラスは、二人の事を気にもせず、食事を始めた。 サイラスがこの場に居なければ、今すぐにでも天弥を抱きしめていた。そう思うと連れて来るようにと言った事を少し悔やむ。
「あ、俺の事は気にせんでもええから」
まるで心でも読んだかのような言葉に、斎は一瞬そちらへ視線を向けると、すぐに天弥へと戻し、その頭を優しく撫でる。
「とりあえず座れ」
天弥は頷くと、斎に促されサイラスの向かいのソファーへと座った。斎はそのまま棚まで移動し、天弥専用のココアとマグカップを取り出し、それを作り始める。出来上がったココアを天弥の前の机に置くと、斎はそのすぐ横に腰掛けた。
「せんせー、俺には?」
「ない」
即答する斎に向かって、サイラスは肩をすくめて見せた。
斎は再び天弥の頭に手を置く。
「あ、ココアありがとうございます」
斎に向け笑顔を作ると、礼を述べた。そして手を伸ばしマグカップを手に取り、口を付ける。
天弥の辛そうな顔を見るのは忍びないが、こればかりはどうしてやる事も出来ず、斎は歯がゆい思いをする。
斎は、天弥の妹の花乃を思い浮かべた。客観的に見て可愛いと思う容姿ではある。だが、天弥の妹にしては、あまりにも凡庸な容姿だ。
「うん」
花乃をジッと見つめるサイラスを、天弥は見上げた。
「かわええな……」
サイラスの言葉に、天弥の表情に不安の色が浮かぶ。
「紹介して」
「ダメ」
天弥はサイラスから視線を逸らし、花乃を見た。
「なんでや?」
「なんでって……」
少し俯きながら、天弥は言葉を詰まらせる。その間に、花乃は天弥達に背を向け、足早に歩き出す。
「あー、行ってしまったやないか」
遠ざかって行く花乃の後ろ姿を二人は見送った。
「ごめんね……僕、最近、花乃に嫌われてるから……」
サイラスは軽くため息を吐く。
「ま、ええわ」
その言葉が合図であるかのように、二人は歩き出す。俯きながら歩く天弥にかける言葉が思い浮かばず、サイラスも先ほどと同じく、黙って天弥の横を歩く。
斎の待つ数学科の教室の前で二人は足を止め、天弥がドアをノックする。そしてすぐにドアノブに手を掛けドアを開けた。室内から流れてくる紫煙が少し天弥の目に沁みた。
サイラスは天弥の腕を掴み、室内へと足を踏み入れる。腕を引かれるまま、天弥も室内へと足を踏み入れた。
「天弥?」
ソファーに座りながら、煙草を手にした斎が振り返る。そしてすぐに手にした煙草を灰皿に押し付け立ち上がった。俯きながらその場に立ち尽くす天弥の傍へと近寄る。
「どうした?」
斎は手を伸ばし、天弥の頬に触れる。ゆっくりと視線を上げ、天弥は斎の顔を見ると首を横に振った。二人の様子を余所にサイラスはソファーへと腰掛けると、紙袋の中から昼食を取りだす。
「天弥」
問いかけのように名を呼ばれ、天弥は目を伏せる。
「花乃に無視されただけです……」
斎の手が天弥の頬から離れた。
「僕、今日は浮かれていて、つい花乃に声をかけちゃって……」
斎の手が天弥の頭の上に置かれる。サイラスは、二人の事を気にもせず、食事を始めた。 サイラスがこの場に居なければ、今すぐにでも天弥を抱きしめていた。そう思うと連れて来るようにと言った事を少し悔やむ。
「あ、俺の事は気にせんでもええから」
まるで心でも読んだかのような言葉に、斎は一瞬そちらへ視線を向けると、すぐに天弥へと戻し、その頭を優しく撫でる。
「とりあえず座れ」
天弥は頷くと、斎に促されサイラスの向かいのソファーへと座った。斎はそのまま棚まで移動し、天弥専用のココアとマグカップを取り出し、それを作り始める。出来上がったココアを天弥の前の机に置くと、斎はそのすぐ横に腰掛けた。
「せんせー、俺には?」
「ない」
即答する斎に向かって、サイラスは肩をすくめて見せた。
斎は再び天弥の頭に手を置く。
「あ、ココアありがとうございます」
斎に向け笑顔を作ると、礼を述べた。そして手を伸ばしマグカップを手に取り、口を付ける。
天弥の辛そうな顔を見るのは忍びないが、こればかりはどうしてやる事も出来ず、斎は歯がゆい思いをする。
斎は、天弥の妹の花乃を思い浮かべた。客観的に見て可愛いと思う容姿ではある。だが、天弥の妹にしては、あまりにも凡庸な容姿だ。
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