apocalypsis

さくら

文字の大きさ
上 下
62 / 236
quaecunque sunt vera

viginti octo

しおりを挟む
 斎は少し考え込む。
「……分かった」
 生徒に勉強を教えて欲しいと言われ、それを断るわけにもいかず、渋々それを了承する。
「せんせー、おおきに」
 礼を告げると、サイラスは食事を続けた。やはり邪魔をしているとしか思えないと、斎は手に持つ箸を握り締めた。
 ここ一週間ほど、サイラスの事も含めて色々な事がありすぎだ。肝心の胡桃沢とは連絡が取れないため、自分自身の考えや判断ではそろそろ限界に近い。
 斎は、天弥とサイラスを見る。仲良く話す二人を見て、一つの感情が沸き起こる。天弥を自分だけのものしたい。どこかへ閉じ込めて、自分の事しか考えられないようにしてしまいたい。今の天弥ならまだ我慢もできるが、あの総てを魅了する天弥は、誰の目にも触れさせたくはない。
「ごちそうさまでした」
 天弥の声で斎は意識を戻す。
「じゃあ、始めるか」
 斎は、まだ少し残っている弁当を片付け始めた。天弥は、いつもと違う斎の様子を見つめる。そして、サイラスを連れてきたのは、やはり良くなかったのだろうかと考える。
 まだ日本に慣れていないというし、一人で弁当を食べるのは寂しいかと思い、一緒に来たいというのを断らなかった。斎と一緒に居られれば、それだけで良いと思っていたのだ。
 斎が顔を上げ、お互いの視線が絡み合う。天弥は居たたまれなくなり、思わず視線を下ろす。
 自分から視線を逸らした天弥に、斎は思わず声を出しそうになる。もう、サイラスには知られているのだし、この際その存在は無視してもかまわないかと一瞬考えたが、天弥はその事を知らないため何とか思いとどまった。
 なぜ、天弥の事となると、ここまで余裕がなくなるのかと斎は考え込む。
「Hey!」
 突然の呼びかけに、斎は視線をそちらへ向けた。
「Do you know that your lover is in danger?」
 思いもかけない言葉に、斎は一瞬戸惑う。
「What kind of meaning is it?」
 英語で話しかけてきたということは、天弥には聞かれたくないことなのだろうと、同じく英語で聞き返す。
「Your lover is aimed at」
「Is he aimed at?  Why is it?」
 サイラスが少し考え込む。
「Sorry, It can't teach」
 謝罪を口にするとサイラスは立ち上がる。斎と天弥の視線が、その様子を追う。
「If that's the case,who is it?」
 斎の問いに、サイラスはまた少し考え込む。その様子に、これも答えられないということなのかと少し諦めを覚えた。
「……Deep One」
 予想に反して得た答えに、斎は思わず立ち上がった。
「You've got to be kidding……」
 あまりにも馬鹿げた事だが、今現在、自分を取り巻く状況を考えると、それは冗談ではないのかもしれないと思えてしまう。
「If you think so, I don't care even so」
 サイラスは、隣に座る天弥を見下ろした。
「悪いんやけど、俺、先に戻るわ」
 サイラスはドアへと向かって歩き出す。天弥はその様子を目で追った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

月のない夜 終わらないダンスを

薊野ざわり
ホラー
イタリアはサングエ、治安は下の下。そんな街で17歳の少女・イノリは知人宅に身を寄せ、夜、レストランで働いている。 彼女には、事情があった。カーニバルのとき両親を何者かに殺され、以降、おぞましい姿の怪物に、付けねらわれているのだ。  勤務三日目のイノリの元に、店のなじみ客だというユリアンという男が現れる。見た目はよくても、硝煙のにおいのする、関わり合いたくないタイプ――。逃げるイノリ、追いかけるユリアン。そして、イノリは、自分を付けねらう怪物たちの正体を知ることになる。 ソフトな流血描写含みます。改稿前のものを別タイトルで小説家になろうにも投稿済み。

甘いマスクは、イチゴジャムがお好き

猫宮乾
ホラー
 人間の顔面にはり付いて、その者に成り代わる〝マスク〟という存在を、見つけて排除するのが仕事の特殊捜査局の、梓藤冬親の日常です。※サクサク人が死にます。【完結済】

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

孤独な戦い(1)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

処理中です...