apocalypsis

さくら

文字の大きさ
上 下
59 / 236
quaecunque sunt vera

viginti quinque

しおりを挟む
 自分の心が狭い事は理解しているが、それを差し引いたとしても、天弥があのサイラスの傍にいるのは不安を煽られる。素性も目的も、何も分からない相手なのだ。
 いつもと同じ授業時間が、斎にはとても長く感じられる。天弥は、昨日の様子を知っているはずだ。なのになぜ、サイラスと親しそうにしているのかと苛つく。
「Stop whispering!」
 天弥とサイラスが何かを話しているのは分かった。だが内容が分からずに、つい声を荒げる。それでもまだ、サイラスに向けて英語を使うだけの余裕はあった。
「せんせー、俺、日本語わかるんやけど」
 サイラスから日本語が返ってきた。教室内に少し笑い声が響き、斎は冷静さを取り戻す。
「あー、せやけど、やっぱ英語の方が楽やな。そっちで話してくれるんなら、ありがたいわ」
 斎は軽く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
「What is your purpose? 」
 授業中だということは、もちろん理解している。だが、思わず疑問が口から出てしまった。
「Do you want to know?」
 今度は、英語でサイラスが応えた。
「Sure」
 答えを聞くと、サイラスは片方の口角を僅かに上げた。
「Too bad. It can't teach. savvy?」
 サイラスの返事に、斎は声を荒げそうになる。
「Ok, There's no use talking about it any more」
 何とか冷静を保ち、言葉を返す。
「Yeah, I have the duty to protect privileged information」
 これ以上、何も聞き出せないと理解すると斎は、サイラスから視線を逸らした。
「授業を再開する」
 手にしたチョークで先ほどまでの続きを黒板に書き出す。教室内がざわつき、斎は手を止めた。
「私語は禁止だ」
 いつもの斎とは違う様子に、生徒達は戸惑いながら、授業を続けた。
 守秘義務? と斎は先ほどのサイラスの言葉を思い出す。何かの機関に属しているということなのだろうか。今朝、サイラスに関する資料を見た限りでは、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ケンブリッジから来た事になっている。
 マサチューセッツ州は、サイラスが口にしたアーカムという架空の都市が存在しているとされている州だ。
 そしてケンブリッジは、全米を代表する大学都市であり、チャールズ川を隔てて州都ボストンの対岸に位置する。そのボストンから車で三十分程の場所に、かつてセイラム村と呼ばれていたダンバースという町がある。
 そこは、北米一恐ろしい廃墟といわれるダンバース精神病院の廃墟が存在し、1692年3月1日から始まる一連の裁判、セイラムの魔女裁判として有名な場所である。それは、牧師サミュエル・パリスの娘エリザベスと、その従姉妹アビゲイル・ウィリアムス、友人であるメアリ・ウォルコット、スザンナ・シェルドン、アン・パトナム、マーシー・ルイスが始めた占いが発端だった。それはやがて、総勢十人もの少女達が集まる事になり、事件は起こる。はじめにエリザベスが奇怪な行動を取り出し、アビゲイルがそれに続いた。それらは悪魔憑きと診断され、魔女探しが始まってしまう。エリザベス達は、次々と無実の村人を魔女と告発し、十九名が処刑、一名が拷問中に死亡、五名が獄死し、最終的に二百名近い村人が、魔女として告発された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

【完結】わたしの娘を返してっ!

月白ヤトヒコ
ホラー
妻と離縁した。 学生時代に一目惚れをして、自ら望んだ妻だった。 病弱だった、妹のように可愛がっていたイトコが亡くなったりと不幸なことはあったが、彼女と結婚できた。 しかし、妻は子供が生まれると、段々おかしくなって行った。 妻も娘を可愛がっていた筈なのに―――― 病弱な娘を育てるうち、育児ノイローゼになったのか、段々と娘に当たり散らすようになった。そんな妻に耐え切れず、俺は妻と別れることにした。 それから何年も経ち、妻の残した日記を読むと―――― 俺が悪かったっ!? だから、頼むからっ…… 俺の娘を返してくれっ!?

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

催眠アプリを手に入れたエロガキの末路

夜光虫
ホラー
タイトルそのまんまです 微エロ注意

俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・

白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。 その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。 そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。

これ友達から聞いた話なんだけど──

家紋武範
ホラー
 オムニバスホラー短編集です。ゾッとする話、意味怖、人怖などの詰め合わせ。  読みやすいように千文字以下を目指しておりますが、たまに長いのがあるかもしれません。  (*^^*)  タイトルは雰囲気です。誰かから聞いた話ではありません。私の作ったフィクションとなってます。たまにファンタジーものや、中世ものもあります。

処理中です...