58 / 236
quaecunque sunt vera
viginti quattuor
しおりを挟む
天弥は礼を言うサイラスから視線を前方へと戻した。まだ、ホームルームの続きが行われている。昨日の放課後に見かけた記憶しかないのだが、その時は何も言葉を交わしていない。もしかすると、記憶が無い時に会っていたのだろうかと考える。ホームルームが終わったあとにでも尋ねてみよう、そう思いながら、サイラスの姿を横目で確認する。
朝のホームルームが終わり、担任が教室を出て行ったのを確認すると、天弥は隣の席を見た。サイラスに話しかけようとした途端、教室中の生徒がその周りに集まってくる。
「あの……」
一応、話しかけることを試みるが、人垣の向こうまで声は届かなかった。その人垣を押し分けていく気力も根性も無く、天弥はサイラスに話しかけるのを諦めた。
予鈴が鳴り、周りの人垣が減っていく様子を確認すると、天弥はサイラスに声をかけようとする。それよりも早く、サイラスは天弥の席に向かって机を動かし始めた。
「これで、教科書が見られるちうわけや」
取り残された椅子を引き寄せ、サイラスは机に向かった。そのほんの数センチの距離に、天弥は緊張をする。昨日、斎と話していた様子では、あまり仲が良いという感じではなかった。
「次の授業って何や?」
「え? あ、数学」
声をかけられ、天弥は次の授業の準備をしていないことに気がつき、慌てて用意をする。
「数学ってことは、オカモト先生なんか?」
天弥が頷く。
「そっかー、朝から楽しみやな」
天弥は思い切ったようにサイラスへと視線を向けた。
「あの、僕、サイラス? くんのこと、知らないんだけど……」
「昨日、会ったやろ?」
「でも僕、サイラスくんとは話もしてないし……」
天弥の言葉が終わると同時に、教室のドアが開けられた。二人は、同時に視線をドアへと向ける。そこには斎の姿があった。
斎は教室へ入るとまず、天弥の存在を確認する。そしてその姿を見つけると一瞬、表情が変わるがすぐに平静を装い、教壇へと向かった。
「まあ、あれや、細かい事は気にせんと、仲良くしてや」
サイラスが言い終わると同時に、日直の号令が教室内に響き、生徒たちが立ち上がる。サイラスは呆気にとられ辺りを見回すが、すぐに自分も立ち上がり、周りからワンテンポずれたタイミングで、一連の動作をし着席をする。
斎は教科書や資料を開きながら、サイラスを見た。このクラスに入った事は知っていたが、まさか天弥の隣にいるとは思いもしなかった。しかも机を並べ、仲良さそうに一冊の教科書を見ている。思わず、近寄りすぎだと二人を引き離しに行きそうになるのを、なんとか堪える。
心が乱れたまま、斎は授業を始めるが、何度も視線は二人を捕らえ、まともに授業が出来ているのかどうか、分からなくなるほど意識が二人に集中してしまっていた。
男でも女でも、天弥に近づくのは誰であろうと嫌なのだ。姉が仲良くするのさえ、我慢が出来ずにいる。しかも神楽は、よく天弥に抱きつくというのも耐えられない。
朝のホームルームが終わり、担任が教室を出て行ったのを確認すると、天弥は隣の席を見た。サイラスに話しかけようとした途端、教室中の生徒がその周りに集まってくる。
「あの……」
一応、話しかけることを試みるが、人垣の向こうまで声は届かなかった。その人垣を押し分けていく気力も根性も無く、天弥はサイラスに話しかけるのを諦めた。
予鈴が鳴り、周りの人垣が減っていく様子を確認すると、天弥はサイラスに声をかけようとする。それよりも早く、サイラスは天弥の席に向かって机を動かし始めた。
「これで、教科書が見られるちうわけや」
取り残された椅子を引き寄せ、サイラスは机に向かった。そのほんの数センチの距離に、天弥は緊張をする。昨日、斎と話していた様子では、あまり仲が良いという感じではなかった。
「次の授業って何や?」
「え? あ、数学」
声をかけられ、天弥は次の授業の準備をしていないことに気がつき、慌てて用意をする。
「数学ってことは、オカモト先生なんか?」
天弥が頷く。
「そっかー、朝から楽しみやな」
天弥は思い切ったようにサイラスへと視線を向けた。
「あの、僕、サイラス? くんのこと、知らないんだけど……」
「昨日、会ったやろ?」
「でも僕、サイラスくんとは話もしてないし……」
天弥の言葉が終わると同時に、教室のドアが開けられた。二人は、同時に視線をドアへと向ける。そこには斎の姿があった。
斎は教室へ入るとまず、天弥の存在を確認する。そしてその姿を見つけると一瞬、表情が変わるがすぐに平静を装い、教壇へと向かった。
「まあ、あれや、細かい事は気にせんと、仲良くしてや」
サイラスが言い終わると同時に、日直の号令が教室内に響き、生徒たちが立ち上がる。サイラスは呆気にとられ辺りを見回すが、すぐに自分も立ち上がり、周りからワンテンポずれたタイミングで、一連の動作をし着席をする。
斎は教科書や資料を開きながら、サイラスを見た。このクラスに入った事は知っていたが、まさか天弥の隣にいるとは思いもしなかった。しかも机を並べ、仲良さそうに一冊の教科書を見ている。思わず、近寄りすぎだと二人を引き離しに行きそうになるのを、なんとか堪える。
心が乱れたまま、斎は授業を始めるが、何度も視線は二人を捕らえ、まともに授業が出来ているのかどうか、分からなくなるほど意識が二人に集中してしまっていた。
男でも女でも、天弥に近づくのは誰であろうと嫌なのだ。姉が仲良くするのさえ、我慢が出来ずにいる。しかも神楽は、よく天弥に抱きつくというのも耐えられない。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
ドリームホテル
篠崎マーティ
ホラー
訪れた者の願いが叶う不思議なホテル”ドリームホテル”
今日も訪れた客の夢は、思いもよらない形となって成就し、彼らを奈落の底に引きずり込んでいく……。
一話完結型のグロテスク胸糞系インモラルホラー小説集。
客は大体みんな発狂するか死にます。
月のない夜 終わらないダンスを
薊野ざわり
ホラー
イタリアはサングエ、治安は下の下。そんな街で17歳の少女・イノリは知人宅に身を寄せ、夜、レストランで働いている。
彼女には、事情があった。カーニバルのとき両親を何者かに殺され、以降、おぞましい姿の怪物に、付けねらわれているのだ。
勤務三日目のイノリの元に、店のなじみ客だというユリアンという男が現れる。見た目はよくても、硝煙のにおいのする、関わり合いたくないタイプ――。逃げるイノリ、追いかけるユリアン。そして、イノリは、自分を付けねらう怪物たちの正体を知ることになる。
ソフトな流血描写含みます。改稿前のものを別タイトルで小説家になろうにも投稿済み。
甘いマスクは、イチゴジャムがお好き
猫宮乾
ホラー
人間の顔面にはり付いて、その者に成り代わる〝マスク〟という存在を、見つけて排除するのが仕事の特殊捜査局の、梓藤冬親の日常です。※サクサク人が死にます。【完結済】
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる