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veritas liberabit vos
duodecim
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天弥は嬉しそうに礼を述べた。それを聞きながら斎は、なぜ天弥を引き止めるようなことをするのかと考える。本の事を何も知らないのなら、引き止める理由など何もないはずなのだ。どうしたものかと考える脳裏に、昼休みに会った別人のような天弥の姿が思い浮かび、急激に鼓動が早くなり体温も上昇し出した。
「先生」
何か意を決したかのような声音で、俯いたまま天弥は斎を呼んだ。天弥の呼びかけで斎は、慌てて自分の中に形作られた麗しい姿をかき消す。一呼吸置き、淹れ直したコーヒーが入ったマグカップをテーブルの上に置くと、俯いたままの天弥を見た。
「僕、昼休みに何をしてたんですか?」
いきなり向けられた質問に、斎はかき消した美貌を再び思い起こし戸惑う。
「何をって……、特に何も……」
戸惑いながら言葉を詰まらせる斎の様子に、天弥の中で不安が増していく。
「最近、記憶が無いことがあるし、花乃は僕を避けているし……」
不安そうに声が震えている。俯いている為、表情を確認する事は出来なかったが、それはどのようなものか安易に想像できた。
「僕、記憶がない間に何をしているのか、知りたいんです」
不安を搾り出すかのような声音と様子に、斎が考え込む。天弥の気持ちも理解できるが、昼休みの様子を正直に話す気にはなれなかった。十歳も年下の、それも男相手に一瞬で心を奪われたなど、斎自身言えるはずがなかった。
「昼休みは、あの本について話していただけだ」
斎の返答に天弥は顔を上げた。不安そうに自分を見上げるその顔に、少し罪悪感を感じたが、嘘は言っていないと何度も自分に言い聞かせ、平静を装った。
「記憶に関しては、疲れとかストレスからかもしれないし、一度ちゃんと診てもらった方がいいかもしれないな」
安心させるように、斎は天弥の頭に軽く手を置いた。
「あまり気にするな」
少しでも不安を取り除ければと思い、その柔らかい髪を撫でる。
「それに妹の事だって、年頃の女の子は男親や男の兄弟を避けたりするものだろ」
「そうなんですか?」
天弥の表情から、少し不安の色が消える。
「そうらしい」
答えながら天弥の頭から手を離し、斎は白衣のポケットから携帯電話を取り出す。
「不安なら、俺の番号とアドレスを教えるから、何かあったら連絡しろ」
「いいんですか?」
驚いた表情で、天弥が斎を見つめる。
「俺の方も、あの本の事で聞きたいことがあるかもしれないから、出来れば番号を教えて欲しい」
「はい」
天弥は立ち上がると、スラックスのポケットから携帯を取り出し、お互いの番号とアドレスを交換する。
「ありがとうございます」
携帯を握り締めながら、天弥は嬉しそうな笑みを斎に向けた。
「授業中以外なら、いつでも良いからな」
「はい」
嬉しそうに答える天弥を後に、斎は自分の机に向かう。
「先生」
何か意を決したかのような声音で、俯いたまま天弥は斎を呼んだ。天弥の呼びかけで斎は、慌てて自分の中に形作られた麗しい姿をかき消す。一呼吸置き、淹れ直したコーヒーが入ったマグカップをテーブルの上に置くと、俯いたままの天弥を見た。
「僕、昼休みに何をしてたんですか?」
いきなり向けられた質問に、斎はかき消した美貌を再び思い起こし戸惑う。
「何をって……、特に何も……」
戸惑いながら言葉を詰まらせる斎の様子に、天弥の中で不安が増していく。
「最近、記憶が無いことがあるし、花乃は僕を避けているし……」
不安そうに声が震えている。俯いている為、表情を確認する事は出来なかったが、それはどのようなものか安易に想像できた。
「僕、記憶がない間に何をしているのか、知りたいんです」
不安を搾り出すかのような声音と様子に、斎が考え込む。天弥の気持ちも理解できるが、昼休みの様子を正直に話す気にはなれなかった。十歳も年下の、それも男相手に一瞬で心を奪われたなど、斎自身言えるはずがなかった。
「昼休みは、あの本について話していただけだ」
斎の返答に天弥は顔を上げた。不安そうに自分を見上げるその顔に、少し罪悪感を感じたが、嘘は言っていないと何度も自分に言い聞かせ、平静を装った。
「記憶に関しては、疲れとかストレスからかもしれないし、一度ちゃんと診てもらった方がいいかもしれないな」
安心させるように、斎は天弥の頭に軽く手を置いた。
「あまり気にするな」
少しでも不安を取り除ければと思い、その柔らかい髪を撫でる。
「それに妹の事だって、年頃の女の子は男親や男の兄弟を避けたりするものだろ」
「そうなんですか?」
天弥の表情から、少し不安の色が消える。
「そうらしい」
答えながら天弥の頭から手を離し、斎は白衣のポケットから携帯電話を取り出す。
「不安なら、俺の番号とアドレスを教えるから、何かあったら連絡しろ」
「いいんですか?」
驚いた表情で、天弥が斎を見つめる。
「俺の方も、あの本の事で聞きたいことがあるかもしれないから、出来れば番号を教えて欲しい」
「はい」
天弥は立ち上がると、スラックスのポケットから携帯を取り出し、お互いの番号とアドレスを交換する。
「ありがとうございます」
携帯を握り締めながら、天弥は嬉しそうな笑みを斎に向けた。
「授業中以外なら、いつでも良いからな」
「はい」
嬉しそうに答える天弥を後に、斎は自分の机に向かう。
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