12 / 33
12
しおりを挟む
馬車の御者に次の行き先を告げると、私はマーリンと向かい合って座席に腰掛けます。大幅な深夜料金を支払うハメになりますが、こればかりは仕方ありません。
「さてマーリン、今後の計画をお話しますのでちゃんと聞いてくださいね」
「・・・・・・本当に大丈夫なのか?」
マーリンはかなり疑わしげに私の顔を見ています。
「なあに、そんな複雑なものではありませんよ。ただ、その成功のためには迅速な行動と、・・・・・・あとは結構な運が絡みますが」
私の言葉を聞いたマーリンがますます不安げな顔をしますので、私は「ですから貴方の協力が必要なんです、頼みますよ未来の大科学者さん?」と念を押しました。
「よいですか?これから急いで港に向かいます。そこでまず、輸送貨物の管理をしている事務所に向かいます。資料が今本当に船に積まれてしまっているのか、もしくはまだ倉庫の中で保管されている状態なのかを確かめなければなりません」
「・・・・・・ちょっと待った、さっき局員が今の時間帯なら既に船に積まれていると言っていたじゃないか」
「あくまであちらさんのマニュアルの上では、ですね。しかし実際は企業が輸出入しているような大層なものならともかく、一般人の郵便物程度なら出航ギリギリまで港の倉庫に入れられているパターンも多いのです。船に積まれているコンテナの中身を一つ一つ検めさせてくれと言えばさすがに断られるでしょうが、まだ倉庫内に置いてあればその限りではありません」
マーリンの顔色が僅かに変わりましたが、まだ若干ポカンとしています。私は説明を続けました。
「私は貿易会社に勤務していますから、港で貨物を積載する現場に立ち会ったことがあります。その際、企業が輸出入する貨物の積載に時間を取られ、まあ言い方は悪いですけど一般貨物が後回しにされているところを何度か目撃しました。勤務時間内に積みきれず、一晩倉庫に保管しておいて夜が明けてからパパッとやっちゃうことも多いようで」
「し、しかし。既に回収された荷物を取り出して持って帰ったりなどできるものなのか?」
「ああ、そのことなんですが、あの方たち郵便物を受けつける締め切り時間を過ぎることには厳しいんですけど、なぜか既に回収済みのものを引き取らせてくれとか、入れ替えてくれとかって要望は割りと聞いてくれるんですよ。こんな個人の一郵便物ならなおさらだと思います」
マーリンの顔がだんだん希望に満ちてきました。
「つ、つまりまだ十分間に合うということだな?」
「もちろんタイミングが合わなくて既に積まれてしまっていることもあります。もしかして事務所の今日の担当の方の頭が固くて、そんな規則外のことには応じられないと言われる可能性もあります。しかし・・・・・・」
そこで私は一旦言葉を切り、自らに言い聞かせるように言います。
「やってみる価値はある、ということです」
私は頭を傾け、馬車の窓の外を流れる夜の暗闇を見つめました。
(マーリンにはまだ言わないけれどこの計画にはそれ以外にもいろいろとシビアな運やタイミングが絡む・・・・・・。針の穴に糸を通すような綿密さが求められるわけだけど・・・・・・)
全くうちのヘタレ婚約者ったら、とんでもないことをしてくれたものです。
「さてマーリン、今後の計画をお話しますのでちゃんと聞いてくださいね」
「・・・・・・本当に大丈夫なのか?」
マーリンはかなり疑わしげに私の顔を見ています。
「なあに、そんな複雑なものではありませんよ。ただ、その成功のためには迅速な行動と、・・・・・・あとは結構な運が絡みますが」
私の言葉を聞いたマーリンがますます不安げな顔をしますので、私は「ですから貴方の協力が必要なんです、頼みますよ未来の大科学者さん?」と念を押しました。
「よいですか?これから急いで港に向かいます。そこでまず、輸送貨物の管理をしている事務所に向かいます。資料が今本当に船に積まれてしまっているのか、もしくはまだ倉庫の中で保管されている状態なのかを確かめなければなりません」
「・・・・・・ちょっと待った、さっき局員が今の時間帯なら既に船に積まれていると言っていたじゃないか」
「あくまであちらさんのマニュアルの上では、ですね。しかし実際は企業が輸出入しているような大層なものならともかく、一般人の郵便物程度なら出航ギリギリまで港の倉庫に入れられているパターンも多いのです。船に積まれているコンテナの中身を一つ一つ検めさせてくれと言えばさすがに断られるでしょうが、まだ倉庫内に置いてあればその限りではありません」
マーリンの顔色が僅かに変わりましたが、まだ若干ポカンとしています。私は説明を続けました。
「私は貿易会社に勤務していますから、港で貨物を積載する現場に立ち会ったことがあります。その際、企業が輸出入する貨物の積載に時間を取られ、まあ言い方は悪いですけど一般貨物が後回しにされているところを何度か目撃しました。勤務時間内に積みきれず、一晩倉庫に保管しておいて夜が明けてからパパッとやっちゃうことも多いようで」
「し、しかし。既に回収された荷物を取り出して持って帰ったりなどできるものなのか?」
「ああ、そのことなんですが、あの方たち郵便物を受けつける締め切り時間を過ぎることには厳しいんですけど、なぜか既に回収済みのものを引き取らせてくれとか、入れ替えてくれとかって要望は割りと聞いてくれるんですよ。こんな個人の一郵便物ならなおさらだと思います」
マーリンの顔がだんだん希望に満ちてきました。
「つ、つまりまだ十分間に合うということだな?」
「もちろんタイミングが合わなくて既に積まれてしまっていることもあります。もしかして事務所の今日の担当の方の頭が固くて、そんな規則外のことには応じられないと言われる可能性もあります。しかし・・・・・・」
そこで私は一旦言葉を切り、自らに言い聞かせるように言います。
「やってみる価値はある、ということです」
私は頭を傾け、馬車の窓の外を流れる夜の暗闇を見つめました。
(マーリンにはまだ言わないけれどこの計画にはそれ以外にもいろいろとシビアな運やタイミングが絡む・・・・・・。針の穴に糸を通すような綿密さが求められるわけだけど・・・・・・)
全くうちのヘタレ婚約者ったら、とんでもないことをしてくれたものです。
73
お気に入りに追加
288
あなたにおすすめの小説
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。
和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。
「次期当主はエリザベスにしようと思う」
父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。
リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。
「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」
破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?
婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
婚約破棄がお望みならどうぞ。
和泉 凪紗
恋愛
公爵令嬢のエステラは産まれた時から王太子の婚約者。貴族令嬢の義務として婚約と結婚を受け入れてはいるが、婚約者に対して特別な想いはない。
エステラの婚約者であるレオンには最近お気に入りの女生徒がいるらしい。エステラは結婚するまではご自由に、と思い放置していた。そんなある日、レオンは婚約破棄と学園の追放をエステラに命じる。
婚約破棄がお望みならどうぞ。わたくしは大歓迎です。
王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。
しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。
相手は10歳年上の公爵ユーグンド。
昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。
しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。
それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。
実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。
国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。
無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。
何も出来ない妻なので
cyaru
恋愛
王族の護衛騎士エリオナル様と結婚をして8年目。
お義母様を葬送したわたくしは、伯爵家を出ていきます。
「何も出来なくて申し訳ありませんでした」
短い手紙と離縁書を唯一頂いたオルゴールと共に置いて。
※そりゃ離縁してくれ言われるわぃ!っと夫に腹の立つ記述があります。
※チョロインではないので、花畑なお話希望の方は閉じてください
※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる