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馬車の御者に次の行き先を告げると、私はマーリンと向かい合って座席に腰掛けます。大幅な深夜料金を支払うハメになりますが、こればかりは仕方ありません。
「さてマーリン、今後の計画をお話しますのでちゃんと聞いてくださいね」
「・・・・・・本当に大丈夫なのか?」
マーリンはかなり疑わしげに私の顔を見ています。
「なあに、そんな複雑なものではありませんよ。ただ、その成功のためには迅速な行動と、・・・・・・あとは結構な運が絡みますが」
私の言葉を聞いたマーリンがますます不安げな顔をしますので、私は「ですから貴方の協力が必要なんです、頼みますよ未来の大科学者さん?」と念を押しました。

「よいですか?これから急いで港に向かいます。そこでまず、輸送貨物の管理をしている事務所に向かいます。資料が今本当に船に積まれてしまっているのか、もしくはまだ倉庫の中で保管されている状態なのかを確かめなければなりません」
「・・・・・・ちょっと待った、さっき局員が今の時間帯なら既に船に積まれていると言っていたじゃないか」
「あくまであちらさんのマニュアルの上では、ですね。しかし実際は企業が輸出入しているような大層なものならともかく、一般人の郵便物程度なら出航ギリギリまで港の倉庫に入れられているパターンも多いのです。船に積まれているコンテナの中身を一つ一つ検めさせてくれと言えばさすがに断られるでしょうが、まだ倉庫内に置いてあればその限りではありません」

マーリンの顔色が僅かに変わりましたが、まだ若干ポカンとしています。私は説明を続けました。
「私は貿易会社に勤務していますから、港で貨物を積載する現場に立ち会ったことがあります。その際、企業が輸出入する貨物の積載に時間を取られ、まあ言い方は悪いですけど一般貨物が後回しにされているところを何度か目撃しました。勤務時間内に積みきれず、一晩倉庫に保管しておいて夜が明けてからパパッとやっちゃうことも多いようで」
「し、しかし。既に回収された荷物を取り出して持って帰ったりなどできるものなのか?」
「ああ、そのことなんですが、あの方たち郵便物を受けつける締め切り時間を過ぎることには厳しいんですけど、なぜか既に回収済みのものを引き取らせてくれとか、入れ替えてくれとかって要望は割りと聞いてくれるんですよ。こんな個人の一郵便物ならなおさらだと思います」
マーリンの顔がだんだん希望に満ちてきました。
「つ、つまりまだ十分間に合うということだな?」
「もちろんタイミングが合わなくて既に積まれてしまっていることもあります。もしかして事務所の今日の担当の方の頭が固くて、そんな規則外のことには応じられないと言われる可能性もあります。しかし・・・・・・」
そこで私は一旦言葉を切り、自らに言い聞かせるように言います。
「やってみる価値はある、ということです」

私は頭を傾け、馬車の窓の外を流れる夜の暗闇を見つめました。
(マーリンにはまだ言わないけれどこの計画にはそれ以外にもいろいろとシビアな運やタイミングが絡む・・・・・・。針の穴に糸を通すような綿密さが求められるわけだけど・・・・・・)
全くうちのヘタレ婚約者ったら、とんでもないことをしてくれたものです。
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