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数分後。
自室に辿り着いた私は、部屋のあまりの空っぽさに唖然とします。ベッドや机など、あらかじめ屋敷に備え付けてあったもの以外を残してほぼすっからかんになっている様は、いっそすがすがしいものです。

(やってくれたわね、全く・・・・・・。とりあえず、今日着るパジャマは無事かしらね)
まっさらな衣装タンス、本棚など一つ一つ見ていると、私の視線が飾り棚でぴたりと止まりました。

「マーリンッ?マーリン?」
「ううう、ぐすっ、なんだよお」
鼻を垂らしているマーリンと、頭はボサボサの上疲れきった顔で大声を上げる私。これが両者とも伯爵家に生まれた婚約者同士だと言っても、多くの人には信じてもらえなさそうです。

「マーリン。あそこの飾り棚に置いてあった深緑色のファイルはどうしましたか?まさか・・・・・・」
問い詰める私に、マーリンはふて腐れたような顔で答えます。
「言ったろ。お前の私物は全部送った。今ごろは中央の郵便局かどこかだろ」
マーリンが言ったのは、ここから馬で一時間ほど行った場所にある、この地方全域の郵便物が集まる郵便局です。各地から集められた郵便物は、一旦そこに置かれたあと宛先ごとに振り分けられ、馬車や船に乗せられるのでした。

「郵便局かどこかだろ、じゃないですよ!あなた、あれ中に何が入ってるかご存知なの!?」
私の剣幕に、マーリンもやや押され気味です。
「ぼ、僕がそんなの知るわけないだろっ。お前のくだらない手紙とかじゃないのか。お前はいつもそうだよな、僕に秘密を作ってこそこそと・・・・・・」
「あなたねえ!とんでもないことになりましたよ!?」
「はあっ!?」
なおも間抜けツラを晒すマーリンに、私の方から事実を突きつけます。

「あの中にはねえ、貴方が明日のために作っていたプレゼン用の資料が入ってたんですよ!?植物から抽出された液が人体にどのような影響を及ぼすのかを図解で表わしたものが!」
私の言葉に、マーリンは一瞬言葉の分からない赤ん坊のような表情を浮かべます。そして一言、「・・・・・・は?」と口から零しました。

「なんであれがお前の部屋に」
「夕べ貴方スランプで発狂して喚いてたでしょう。廊下にまで出て紙切れを撒き散らしながらゴロゴロ転がっているものだから、折れ曲がったりしたら大変だと思って私が拾って管理してあげていたんです。ページの順番もめちゃくちゃになっていたからきちんと揃えてね。今日帰ってきて落ち着いてたら返そうと思ってたのに・・・・・・」
「えっ、えっ、えええーー!!???」
マーリンがこの世の終わりのような顔で頭を抱え、その場で反り返って叫びました。
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