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ルチアの片思い

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 何だかお二人と話が弾んでしまい、もうすっかり帰る時間になってしまっていた。

 久しぶりに、女の子同士でおしゃべりが出来て楽しかった。

「トルテさんといると、時間を忘れてしまいますわね」 

 今度、メープルさんと本のお話をもっとしてみたい。

「トルテさん、またいらしてね。約束よ?」

 アンジュさんが少し不安そうな顔で言う。こんな可愛い女の子に『約束よ』なんて言われて、断れる人がいる訳が無い。

「ええ。お約束いたします」

「絶対よ? 絶対、絶対、絶対よ?」

「そんなに心配しなくとも行って差し上げますわ」

「メープルさんには言っていません!」

「あら、素直じゃない子」

 このお二人の関係は、いつもこんな感じなのかな?

「トルテお嬢様、馬車がお待ちでございます。お早く」

 その聞き覚えのある声に、びくっと体が震えた。

「ル、チア……」

「どうされました? “お嬢様?”」

 お嬢様の言い方が、わざと強調されている。

「トルテさんの所の執事? ステキな方ね」

「ほんとだわ」

 メープルさんとアンジュさんに褒められるなんて、ルチアは実はすごくモテるのだろうか。

「今行きます」

 引きつった笑顔のまま、お二人にお別れのご挨拶をして馬車へと乗り込んだ。

「どうしてルチアがいるの?」

「トルテさんこそ、何でまた貴族の格好なんてしてるんですか!」

「舞踏会で知り合ったご令嬢に、お茶会へ誘われたの。お断りするのも悪いでしょう?」

「そのわりには、随分楽しんでいたご様子でしたが」

「見ていたの?」

「はい、遠くから」

 声をかけてくれても良かったのに。だけど、執事が話しかけるのも不自然か。

「分かっているわ。似合わないことくらい」

「そ、そんな事誰も言ってないじゃないですか!」

「だけど、なんだか気に入らない様子だから」

 ルチアは私の方をちらっと見ると、口元を手で覆いながら目線を外す。

「似合ってますよ……とても。でも何だか、そういう格好のトルテさんを見ていると、遠くへ行ってしまいそうで怖くなるんです……」

「私はどこへも行かないわ」

 ルチアは暫く黙り込んでしまった。

「……僕の夢は、あなたとあの孤児院で子供たちと一緒に暮らす事です。あなたも同じかと思っていた」

 どうして急にその話をするのだろう。

「それは……リリー様が立派な王女となり、私の役目が終わったその時に、また考えるわ。今は、目の前のやるべき事しか見えないの」

 ルチアは悲しそうな表情を私に向けた。どうしてそんな顔をするのか分からない。

「僕が王宮の執事である理由は、王家への忠誠心じゃない。あなたのそばに居たいから、ただそれだけなんです。だけど、あなたは王子や王女に気に入られ、どんどん遠くへ行ってしまう。それが……」

「ルチア……」

 ルチアは膝の上にある自分の手を強く握りしめてした。私はそっとそのルチアの手に触れる。

「私が貴族の格好をしても、舞踏会へ行っても、ミハイル王子やリリー王女のお傍にいても、私はルチアや孤児院の子供たちの事を忘れたりしないわ。だから、安心して?」

 真っ直ぐルチアを見つめる。少し赤みがかった頬のまま、困ったような表情をしている。

「ルチア……?」

 ルチアの考えていることが分からない。今は何をルチアに伝えても、悲しませてしまう気がする。

「ねぇ。どうしたの? いつものあなたらしくない」

「トルテさん。僕をもう子供扱いしないで下さい」

「え?」

 するとルチアは私の腕を掴み上げて、顔を近づけた。

「な、に……?」

 そして、優しく私のおでこにキスを落とした。

「あなたが、好きです。愛しています、トルテさん」
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